武器貿易規制 輸出大国も加われ

朝日新聞 2013年04月04日

武器貿易規制 輸出大国も加われ

世界のどこかで、毎分1人の人の命が、武器によって奪われているという。この国際条約を、流血による犠牲者を減らす足場にしたい。

国連総会で武器貿易条約が成立した。通常兵器の不正取引を規制する初の枠組みだ。

国連を舞台にした8年越しの交渉では、軍縮NGOに加えてアフリカや中南米、北欧が議論を引っ張った。採決では154もの国々が賛成した。

対人地雷、そしてクラスター爆弾の禁止条約づくりに続く歴史的な快挙といえよう。

規制の対象となるのは、戦車や軍艦、攻撃ヘリコプター、ミサイルなどの兵器と、銃など小型武器の計8種類。

加盟国がこれらの武器の貿易をする際、相手国が国連安保理決議による禁輸対象国だったり、集団虐殺や戦争犯罪に使われるとわかったりした場合、取引をしてはならない。

また、武器輸出の記録を条約事務局に報告し、闇市場への流出を止める努力をすることも求められている。

ただ、条約成立を手放しに喜んではいられない。条約に実効性を持たせるためには武器輸出大国の加盟が不可欠だ。

米オバマ政権が賛成したのは評価できる。しかし条約の批准承認には上院の3分の2の賛成が必要だ。全米ライフル協会が条約を認めないよう圧力を強めており、予断を許さない。

米国の関心が高い国際テロ対策を進めるうえでも、条約は効果を持つに違いない。上院は承認に動いてもらいたい。

残念なのは、ロシアと中国がともに採決で棄権に回ったことだ。ロシアは、支援するシリアのアサド政権に与える影響を懸念したのだろう。

ひとつでも多くの国に支持を広げ、中ロに再考を促すためにも米国の批准が必要だ。

中ロも、新たな国際的な枠組みに加わってこそ、責任ある大国といえるだろう。

採決では北朝鮮、イラン、シリアの3カ国が反対した。国連による制裁や非難にもかかわらず、兵器の輸入による軍備増強を進める姿勢は容認できない。

条約では、手投げ弾や軍用輸送機、さらに武器の贈与やリースが規制からはずれた。将来、規制の網を広げる方向で条約を見直すべきだろう。

日本は条約協議に熱心に加わり、交渉の妥結にも力を尽くした。武器輸出三原則を掲げる国として当然のことだ。

国際社会に日本の姿勢を改めて示すうえでも、国会は条約の承認を急いでほしい。

毎日新聞 2013年04月06日

武器貿易条約 紛争拡大止める一歩に

通常兵器の国際取引を規制する武器貿易条約(ATT)が国連総会で採択された。核兵器の拡散を防ぐ核拡散防止条約(NPT)や化学・生物兵器を禁止する国際条約はこれまであったが、世界の紛争地で実際に使用されている通常兵器は、対人地雷やクラスター爆弾など一部を除けば、法的拘束力のある国際取り決めがなかった。いわば無法状態のもとに置かれてきた通常兵器に初めて国際法の規制の網がかけられたことは画期的であり、歓迎したい。

条約の対象には戦車や戦闘機などの大型兵器に加え、自動小銃などの小型武器も含まれる。加盟国政府は国際人道法に違反する行為に使われる危険があるとみなされる場合などは輸出を許可できない。虐殺や戦争犯罪の恐れがあれば、輸出入だけでなく通過や積み替えも含むあらゆる移転が禁止される。闇市場への流出防止対策や、輸出入実績を年1回事務局に報告することも義務づけられる。弾薬や兵器部品も輸出を規制されるが、流出防止対策や報告義務の対象からは除外された。全容把握が難しいとする米国などが反対したためで、他の兵器と同様の縛りを主張してきた規制推進派が譲歩した。

通常兵器の国際取引は、91年に任意の国連登録制度が導入され、01年に国連で小型武器の違法取引を規制する行動計画が採択されたが、法的拘束力はなかった。06年に日本や英国などが共同提案した国連総会決議が採択されたことで、ようやく国際条約策定に向けた動きが始まった。3月の国連会議でまとまった条約案は北朝鮮、イラン、シリアの反対で合意による採択は失敗したが、今月2日の国連総会に持ち込まれ、154カ国の賛成多数で採択された。

条約は50カ国が批准すれば発効するが、世界で武器輸出の6割を占める米国、ロシア、中国が参加しなければ実効性は乏しい。オバマ米政権は賛成しており、条約採択への大きな原動力になったが、武器規制への反対勢力が根強い米議会での批准は流動的だ。米国が批准しなければ、今総会の採決で「非国家組織への武器供給を禁じていない」などという理由で棄権の立場を取ったロシアや中国も参加を見送る可能性がある。インドなど輸入国の一部も慎重だ。日本政府は他の推進国とともに各国に批准を働きかけてほしい。

一方で、シリアで続く内戦など、暴力と虐殺が絶えない世界の現実を一朝一夕に変えることはできない。国連によると、世界で年約50万人の命が通常兵器で奪われている。条約は紛争拡大の抑止を目指す国際協力の意義ある一歩だが、それが効果を発揮できるかは、各国の責任ある粘り強い取り組みにかかっている。

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