世界のどこかで、毎分1人の人の命が、武器によって奪われているという。この国際条約を、流血による犠牲者を減らす足場にしたい。
国連総会で武器貿易条約が成立した。通常兵器の不正取引を規制する初の枠組みだ。
国連を舞台にした8年越しの交渉では、軍縮NGOに加えてアフリカや中南米、北欧が議論を引っ張った。採決では154もの国々が賛成した。
対人地雷、そしてクラスター爆弾の禁止条約づくりに続く歴史的な快挙といえよう。
規制の対象となるのは、戦車や軍艦、攻撃ヘリコプター、ミサイルなどの兵器と、銃など小型武器の計8種類。
加盟国がこれらの武器の貿易をする際、相手国が国連安保理決議による禁輸対象国だったり、集団虐殺や戦争犯罪に使われるとわかったりした場合、取引をしてはならない。
また、武器輸出の記録を条約事務局に報告し、闇市場への流出を止める努力をすることも求められている。
ただ、条約成立を手放しに喜んではいられない。条約に実効性を持たせるためには武器輸出大国の加盟が不可欠だ。
米オバマ政権が賛成したのは評価できる。しかし条約の批准承認には上院の3分の2の賛成が必要だ。全米ライフル協会が条約を認めないよう圧力を強めており、予断を許さない。
米国の関心が高い国際テロ対策を進めるうえでも、条約は効果を持つに違いない。上院は承認に動いてもらいたい。
残念なのは、ロシアと中国がともに採決で棄権に回ったことだ。ロシアは、支援するシリアのアサド政権に与える影響を懸念したのだろう。
ひとつでも多くの国に支持を広げ、中ロに再考を促すためにも米国の批准が必要だ。
中ロも、新たな国際的な枠組みに加わってこそ、責任ある大国といえるだろう。
採決では北朝鮮、イラン、シリアの3カ国が反対した。国連による制裁や非難にもかかわらず、兵器の輸入による軍備増強を進める姿勢は容認できない。
条約では、手投げ弾や軍用輸送機、さらに武器の贈与やリースが規制からはずれた。将来、規制の網を広げる方向で条約を見直すべきだろう。
日本は条約協議に熱心に加わり、交渉の妥結にも力を尽くした。武器輸出三原則を掲げる国として当然のことだ。
国際社会に日本の姿勢を改めて示すうえでも、国会は条約の承認を急いでほしい。
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