日銀金融緩和 「2%」達成へ決意見せた 黒田流の発信力を評価する

毎日新聞 2013年04月05日

黒田日銀始動 危険伴う大きな一歩だ

日銀が、黒田東彦総裁就任後初の政策決定を下した。予告通り、あるいはそれ以上の大幅な金融緩和である。株式市場は好感し、国債市場でも、国債が買い進まれて価格が上昇、10年物の利回り(長期金利)は史上最低水準を更新した。市場の期待に十分応えた形だ。

一見、結構な滑り出しのようだが、極めてリスクの高い賭けが始まったと言わざるを得ない。

「レジームチェンジ(体制変換)」などと大げさな言われ方がされるが、新しく決まった金融政策の手段自体に新味はない。最大の変更点は、日銀が供給する資金の量を2年で倍増させ、それをもって「物価は必ず上がる」との予測が浸透するのを狙っていることだ。

日銀が金融機関から国債などを大量に買う。その結果、金融機関が日銀内に持っている当座預金の残高が膨らむ。その量が1年目に60兆円、2年目に70兆円増える、と示すことにより物価上昇予測を高め、デフレから脱却する−−とのシナリオだ。

そのために日銀は、価値が目減りする恐れのある資産を今までと比較にならないペースで買うことになる。中心となる国債は日銀の保有残高を毎年50兆円も増やす計画だ。政府が毎年新たに発行する国債の額を超える規模である。しかも、これまで買い控えてきた、償還までの年数が長い国債も買っていく。国の借金の穴埋めをしていると見なされても不思議はない。

今でさえ、国債市場はバブル状態だと指摘されている。さらに価格が上昇すると、ひとたび下落に転じた際、銀行や保険、年金基金などが大変な損を抱え、金融不安となる危険がある。投資家の運用や市場機能に支障をきたす恐れも否定できない。

計画通り、インフレ予測が順調に広がって、その結果、給料や雇用が改善し、成長率が高まると、危険な政策も早期に手じまいできる。だが、本当にインフレ予測が高まるのか、高まってもそれが成長率の上昇に結びつくのか、やってみなければわからない。

もし改善が続かなければ、日銀は追加の大胆な緩和を市場や永田町から催促されるだろう。

今回の決定で驚かされたのは、ほとんどの内容について、9人で構成する政策委員会が全会一致の合意となったことである。これほどの政策転換にもかかわらず、1回の会合で足並みがそろってしまうことに危うさを感じる。

政権の大号令に背き難い空気を作った側にも責任はあろう。だが、金融政策の政治からの独立は法律だけで守れるものではない。決定に携わる一人一人の心が信用のとりでとなることを強調しておきたい。

産経新聞 2013年04月05日

日銀金融緩和 「2%」達成へ決意見せた 黒田流の発信力を評価する

日銀が黒田東彦総裁就任後初の金融政策決定会合で量的・質的緩和を導入した。

黒田氏は会合後の記者会見で、「現時点で必要と考えられる措置は全て投じた」と語った。2年間で物価上昇目標の2%を達成する決意を金融政策で示したことを評価したい。

さらに、新たな金融緩和で供給する資金量は「常識を超えて巨額だ」とも述べた。物価目標とデフレ脱却という重い課題を達成するには、あらゆる手法を動員し、一刻の猶予も許されないという危機感、切実感が伝わってくる。

≪歓迎したい「方針転換」≫

軸となるのは、効果を見ながら徐々に緩和を進めてきた日銀の方針の大転換だ。氏は、それまでの日銀の緩和策を「不十分」で「量的にも質的にもさらなる緩和が必要だ」と述べていた。その考えをかたちにしたといえる。

今回のメニューは多様だ。金融緩和目標を無担保コールレート翌日物の金利をゼロ近くに抑えることから、日銀の市中への資金供給量(マネタリーベース)を昨年末の138兆円から2年間で約2倍の270兆円まで増やすことに変更した。

同時に白川方明前総裁時代に金融緩和目的で国債などを買い入れるために設置された基金を廃止し、日常の金融市場調節で使う国債購入と一本化した。

このほか、日銀が購入する長期国債の対象を全種類とし、「満期まで平均3年弱」から「7年程度」に広げた。元本割れリスクのある上場投資信託や不動産投資信託などの購入も大幅に増やす。

指摘したいのは、今回盛り込まれた施策は、黒田氏や岩田規久男副総裁が国会や記者会見などで幾度となく、それも明確に言及していたことだ。

例えば、長期金利の上昇を抑える目的で、購入国債の範囲を拡大し、満期までの残存期間を限定しないことや、金融緩和姿勢をわかりやすくするために日常的な金融調節での国債購入と基金での国債買い入れを統合することについて国会で発言していた。

このように総裁や副総裁が金融政策の狙いや具体的手法を決定前に語る例はこれまでほとんどなかった。市場の思惑が生まれるのを防ぎ、サプライズ(驚き)効果を狙ったからだ。

しかし、近年のデフレ局面で、こうした手法はほとんど効果を生まなかった。それどころか、市場に日銀の意図が浸透するまで時間がかかり、狙いが伝わる頃には、緩和効果自体が薄れることも多かった。白川氏が常に緩和策のリスクを注意喚起していたことと相まって、市場が日銀の真意を測りかねる場面さえあった。

それが今回は、あらかじめ黒田氏らが考えられる緩和策やその狙い、効果などを積極的に語ったため、日銀の意図や狙いが十分伝わっていたといえる。

≪成長戦略がより重要に≫

緩和策が、事前の発言から大きく踏み込んだものではなかったにもかかわらず、株価は上昇した。国債も値上がりして長期金利が過去最低水準まで低下するなど市場が好感したのは、黒田日銀の「市場との対話戦術」が奏功したといってよいだろう。

もちろん、毎回こうした手法が有効とは限らない。ただ、今回のような新体制発足直後はさまざまな思惑が生じ、市場の波乱要因となりかねないだけに、事前の情報発信には大きな意義があった。

黒田日銀は順調に船出したといってよい。今後、物価上昇目標達成に向けて日銀がどんなシナリオを描くのか、早急に国民に示し、逐次検証していく必要がある。

強調したいのは日銀の積極緩和姿勢が際立つだけに、政府の役割が一段と重要になっている点だ。日本経済はアベノミクス効果や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加表明などで景気回復期待が高まっている。

しかし、それも、まだ円安、株高といった市場頼みの域を脱していない。今月1日に公表された日銀企業短期経済観測調査(3月短観)で大企業製造業の設備投資計画が前年度比マイナス、鉱工業生産は早くも一服感が出ている。

実体経済への波及の遅れを解消するには、民間需要を掘り起こし、企業の国際競争力そのものを強化するしかない。そのカギとなるのは、やはり政府が策定を進めている成長戦略である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1365/