毎日新聞 2013年04月03日
電力改革 利用者の利益を第一に
電力事業に競争原理を導入する電力システムの改革方針が、閣議決定された。これで改革に一定の道筋はついたが、気がかりな点がある。大手電力会社の送配電部門を分社化する発送電分離に関する法案の提出時期にあいまいさを残したことだ。
分離に対する大手電力の反発は強く、自民党内にはその意向を反映した抵抗も少なくない。政府は利用者である国民本位の改革を着実に実行する必要がある。
改革は、15年をめどに電力需給を全国的に調整する広域系統運用機関を創設し、16年をめどに家庭向けを含めた電力販売を全面自由化する。さらに、18~20年をめどに発送電を分離するという3段階で実施する。それぞれの段階に応じ、法案も3回に分けて提出する方針だ。
経済産業省の審議会がまとめた改革案に沿った内容だが、政府原案で「15年」と明示していた発送電分離関連の法案提出時期は、「15年提出を目指す」に修正された。自民党の事前審議で慎重論が続出し、修正を迫られたためだ。
茂木敏充経産相は「文学的な表現で言葉が変わっても大きな方向は変わらない」と述べた。安倍晋三政権は7月の参院選を控え、改革に後ろ向きの姿勢は見せたくないはずだ。修正は党内の慎重派を抑えるぎりぎりの表現だったということだろう。
しかし、この修正が「文学的」なレトリックにとどまる保証はない。
大手電力は、原発事業の先行きが見通せない段階で分離すれば、経営が立ちゆかなくなると心配している。送電部門の切り離しが、会社解体につながるとの懸念もある。
電力業界は、選挙協力や資金支援で自民党を支えてきた。自民党内の慎重論は業界の反発の反映だろう。業界は法案化までに政治への働きかけを一段と強めるはずだ。発送電分離が先送りされたり、骨抜きになったりする可能性も否定できない。
自民党が改革案を了承する際、政府に原発再稼働への努力を求める決議を付けたことも気になる。再稼働を電力改革の前提条件にしたのでは、国民の理解は得られまい。
安定した電力供給の確保、送電コストがかさむ離島や過疎地の料金抑制など課題は少なくない。しかし、発送電分離は公平な競争環境確保のために欠かせない。それは新規参入を促し、サービス向上や料金抑制につながるだけでなく、再生可能エネルギーの普及にも役立つはずだ。
政府は法案を提出する15年に向け、分離を円滑に実施するため、残された課題の克服に努める必要がある。守るべきは電気を使う家庭や事業者の利益であって、大手電力の既得権ではない。
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読売新聞 2013年04月03日
電力改革方針 性急では成長戦略に反する
この電力システム改革で、経済成長を促進できるのだろうか。疑問の残る内容である。
政府が、電力制度改革の基本方針を閣議決定した。3年後の2016年に家庭向けを含め電力小売りを全面自由化する。5~7年後には電力会社の発電と送配電を分社する「発送電分離」を実施するとしている。
安倍内閣は電力改革を成長戦略の柱とする考えだ。競争促進による電気料金の低下や、関連産業の成長を期待しているのだろう。
ただし、性急な改革が引き金となり、安価で安定した電力の供給が揺らぐようでは、成長どころか経済に打撃を与えかねない。制度改革の効果と副作用を、しっかり見極めることが重要だ。
特に、電力供給が綱渡りのまま改革を強行するのは避けねばならない。自民党は政府に、電力の安定供給の確保に努めるよう求めた。当然の指摘といえる。
安全を確認できた原子力発電所を再稼働し、深刻な電力不足を解消することが先決である。
改革の目玉とされる発送電分離は、電力供給の安定を損なう懸念もある。気温の変化にあわせた発電量の調節など、現在の一貫供給体制で行われているきめ細かな対応が、分社化で難しくなると見られるためだ。
実際に米国や韓国では、発送電分離による連携不足が、大停電を招いた。同じ轍を踏まぬよう入念な制度設計が必要となる。
昨年9月の東京電力に続いて、関西、九州の両電力も5月から家庭向けの電気料金を値上げする。自由に電力会社を選べない「地域独占」への不満は強まろう。小売りの自由化は、地域独占に風穴を開けることが期待できる。
だが、自由化によって、通信料金のような大幅な値下げが実現するとは限らない。電力の供給不足が続けば、むしろ料金が上昇する可能性が大きい。
電気事業者の参入を促し、活発な価格競争を実現させるのも、容易ではない。企業向けの大口電力は10年以上前から順次、販売の自由化が進められた。それでも、新規事業者のシェア(占有率)は、わずか3%台にとどまる。
電力会社が圧倒的な力を持ったまま、さらに自由化すると、「規制なき独占」が消費者の利益を損なう恐れがある。
家庭向け料金の認可制は、電力各社が申請した値上げ幅を審査で圧縮したように、一定の歯止め効果がある。認可制廃止の是非は、慎重に判断すべきだ。
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