「普天間」越年 首相は明確な展望示せ

朝日新聞 2009年12月04日

普天間越年 鳩山首相は自ら道筋を

日米の合意は重い。基地負担を軽減してもらいたいという沖縄県民の思いにも応えたい。米海兵隊の普天間飛行場の移設をめぐって、この二律背反に苦悩していた鳩山政権にもうひとつ、重荷が加わった。

連立パートナーの社民党が、辺野古移設なら連立離脱も辞さずという方針を固めたことだ。政府は態度を決めあぐね、年内を目指していた問題の決着を先送りする見通しになった。

米政府が求めている辺野古への移設を受け入れるのか。自民党政権時代の合意であるこの案を見直し、辺野古以外を探るのか。とても難しい選択だ。

鳩山由紀夫首相は、辺野古以外の候補地も検討するよう岡田克也外相らに指示したが、いずれにしても政治的に大きなコストを伴う判断になる。

だが、方向感を示さないまま判断をただ先送りすれば、ぐずぐずと決断できない政権という、不名誉な印象が国内外に広まっていく。国民や沖縄県民もそうだろう。そして米国政府は失望し、不信を募らせるに違いない。

首相はなぜ結論を先送りするのか、もつれる諸条件の何を優先してこうなっているのかを、国民にも米政府にもはっきりと説明すべきだ。

首相は「年内じゃなければだめだと申し上げたことはありません」と語った。だが、問題は検討に時間をかければ、いずれどこかに落ち着くというほど簡単ではない。

来日したオバマ米大統領は鳩山政権の苦衷に理解を示し、作業部会で検討を続けることを受け入れた。以後、岡田外相や北沢俊美防衛相は精力的に調整を進めてきた。年内決着を目指しての動きだったのはもちろんだ。

結論が日米合意の継承なのか、見直しの提起なのかはともかく、それが早期の打開を目指すとしてきた新政権としての当然の態度である。

ここに来て流れが変わったのは、社民党が辺野古案への反対を明確にしたことだ。首相は「重く受け止める」と語り、連立への配慮が判断の背景にあることを認めた。

政府内では、辺野古移設を土台にした修正案で打開を探る動きがあった。だが、社民党を連立に引き留めるためには封印しようということだろうか。

参院での過半数確保を優先した判断だとすれば、普天間問題は事実上、来夏の参院選まで動かないことになる。

首相が辺野古以外の選択肢を追求する意思があるなら、それも重い判断である。政権が交代した時にそうした見直しを米国に求めるのは、欧州の同盟国でもあることだ。

ただ、国内調整にも対米交渉にも時間がかかる。必要なのは、その方が日米同盟の長期的な安定に役立つという説得力のある説明だ。内政上の理由でただ先送りでは、失うものは大きい。

毎日新聞 2009年12月04日

「普天間」越年 首相は明確な展望示せ

鳩山内閣は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題の結論を来年1月以降に先送りする方針を固めた。同県名護市辺野古への移設という日米合意で年内決着を目指す方向が強まる中で、「県外・国外」を主張する社民党が連立離脱の可能性を示唆し、政権運営に支障を来しかねないとの判断による。

参院で過半数を得ていない民主党としては、来年の通常国会を控え、社民党の離脱は避けたいということなのだろう。しかし、普天間は政権の最大の懸案の一つである。解決の方向性が見えないままの越年は、単純な「展望なき先送り」でしかない。鳩山由紀夫首相は、政権内の意思統一に全力を挙げ、越年するにしても明確な展望を示すべきである。

鳩山首相が公約してきた「少なくとも県外」や辺野古以外の沖縄県内を移設先としたり、「在日米軍基地のあり方の見直し」(民主党マニフェスト)と連動させて移設先を検討するとすれば、米国側との再協議が必要となり、決着に時間がかかることもあろう。しかし、今回の越年の決断にそうした議論はなく、連立をめぐる政局的な対応でしかない。

首相自身が認める通り、先送りは解決をますます難しくする。来年1月24日に実施される名護市長選では辺野古移設が最大の争点になる。民主党沖縄県連が推薦する県外移設主張の候補が勝利すれば、移設問題は白紙になる可能性が高い。辺野古移設を容認する仲井真弘多・沖縄県知事も、移設反対の民意を無視して、代替施設建設に必要な公有水面埋め立てを許可するのは困難となろう。

嘉手納基地をはじめとする他の米軍基地の騒音低減などをセットにしても、社民党が辺野古移設反対の現在の姿勢を変更するとは考えにくい。また、来夏の参院選後となれば、11月の沖縄県知事選が近づき、仲井真知事が辺野古移設容認の姿勢を堅持するかどうかは不明となる。

問題は、鳩山首相の指導力の欠如である。首相は、沖縄県民の「思い」と負担軽減、日米合意の重要性を指摘しつつ、「最後は私が決める」と強調するばかりで、具体的な方向を示すのを避け続けてきた。移設問題の現在の混迷を招いた責任は鳩山首相にある。

普天間飛行場とフェンス1枚隔てる普天間第二小学校は、離着陸する米軍機の騒音に悩まされ、毎年春には、米軍機の校内墜落を想定した全校児童の避難訓練を強いられている。住宅密集地にある同基地の移設は、こうした異常な事態を解消し、周辺住民の安全を確保するために必須であり、政府の責任だ。

鳩山首相のリーダーシップの放棄は、普天間飛行場の固定化に手を貸すことに他ならない。

読売新聞 2009年12月04日

普天間移設 年内決着へ首相は再考せよ

米海兵隊普天間飛行場の移設問題で、鳩山首相が年内決着を断念する意向を固めたという。

現行計画に反対する社民党や、それに同調する国民新党に配慮し、連立政権の維持を優先するためだとされる。

鳩山首相は従来、「日米の合意は重い」「沖縄の思いが大事」などと繰り返してきた。米国も、沖縄県も、移設先の名護市も、現行計画による早期決着を切実に求めている。首相は再考すべきだ。

首相は日米首脳会談で「迅速な解決」に合意し、「私を信頼して」とまで見えを切った。その後、日米の閣僚級の作業部会で、県内移設の現行計画を軸に調整を急いできたのは、何だったのか。

米政府が今後、首相と日本政府に対して、不信感を一段と募らせるのは確実だ。作業部会で前向きの結論を出す機運も低下するだろう。日米関係全体に与える悪影響は計り知れない。

結論を年明け以降に先送りしても、問題の解決に向けて、その後の具体的な展望が首相にあるとは思えない。

1月下旬に予定される名護市長選では、現行計画を容認する現職に、反対派の新人が挑戦する。仮に現職が敗れれば、県外移設を求める声が広がり、沖縄県の立場はより苦しくなるだろう。

首相自身、首脳会談後の共同記者会見で、「時間がたてば、より解決が難しくなる」と認めたはずだ。その場しのぎの対応を続けるべきではない。現行計画が頓挫すれば、2014年の普天間飛行場の返還が宙に浮く。

社民党の福島党首は、政府が現行計画を決定した場合、政権を離脱する可能性を示唆している。

首相が今すべきは、日米同盟を堅持しつつ、地元の基地負担を軽減するためには、現行計画での年内決着が不可欠だと、社民党を真剣に説得することだ。

社民党が説得に応じず、連立政権を離脱した場合、一時的に政権運営は不安定になるが、乗り切れないほどではあるまい。

民主党は、衆院では300議席超を占める。参院でも過半数にわずかに届かないだけだ。

参院で各5議席ずつしかない社民、国民新の両党に配慮するあまり、画期的な沖縄の基地負担軽減策や日米関係を危うくするのは、避ける必要がある。

重要な法案や政策については、自民党など野党に個別に協力を要請し、連携するといった工夫をすることで、政権を運営していく手法も十分検討に値しよう。

産経新聞 2009年12月05日

普天間問題 年内決着へ再考が必要だ

鳩山由紀夫首相はいったい、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をどう決着したいのか。最近の発言はこれまで以上に揺れ動いており、真意のほどもわからない。

米国側も表面上はともかく、途方に暮れるばかりだろう。日米同盟の信頼性を損ない、日本の安全保障をきわめて危うくしている。これで国民の安全と繁栄を守る国家の責務を果たすことができるのだろうか。

年内に決着させるべきだ。再考を強く求める。

11月13日のオバマ米大統領との首脳会談で、首相は「私を信じてほしい」と訴え、早期決着の必要性で一致した。

先月30日の沖縄県の仲井真弘多知事との会談では「日米両政府の作業部会の結論を待って対応したい」と、早期決着を目指す姿勢を示していた。

ところが首相は3日、日米合意であるキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)以外も検討するよう、岡田克也外相や北沢俊美防衛相ら関係閣僚に指示した。

さらに4日には記者団に対し「日米合意は重いが、辺野古しかないのか」「あらゆるものを検討しろと言っている」などと語り、嘉手納基地への統合案に言及したほか、新たに沖縄駐留海兵隊8000人と家族9000人が移転するグアムも検討対象に挙げた。

その一方で、「辺野古は生きている」と日米合意も選択肢として残した。

発言が揺れる背景には、社民党が連立離脱をほのめかしたこともあった。現実的な選択肢として、日米合意の一部修正案などが有力視されると、4選となる党首選を控えた社民党の福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)が「重大な決意をする」と発言して首相を牽制(けんせい)した。国民新党も同調した。

国内政治の要因に外交・安保政策が左右されてはならない。政権の中心をなす民主党が責任をもって意思決定すべき案件だ。

米側から見れば、さらなる迷走を重ねた上、国家の安全よりも連立政権の内部事情を優先させるかのような選択は二重の意味で失望と不信に拍車をかけただろう。

来年は1月の名護市長選、11月の沖縄県知事選や夏の参院選がある。決着の遅れは事態を複雑化し、決断を難しくする。そうなる前に鳩山首相が責任をもって結論を出さなくてはならない。

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