「65歳定年」 老若男女を生かす時代

朝日新聞 2013年03月04日

「65歳定年」 老若男女を生かす時代

社員を65歳まで雇い続けるよう雇用主に義務づける改正高年齢者雇用安定法(高齢法)が来月、施行される。

経過措置をへて、2025年には実質的な「65歳定年制」社会を迎える。今春闘でも、対応策をめぐる労使の折衝が山場を迎えている。

65歳までの雇用に必要な資金を捻出するため、若手やミドル層にしわ寄せがいっては企業の成長にもつながらない。

人口減少がスピードを増すなかで、労働力の確保は死活的な課題となる。高齢者をはじめ多様な働き手を生かすことが必要だ。働き方の幅を広げ、老若男女にかかわらず能力を発揮できる新たな雇用制度を築く契機にしてほしい。

高齢法は、厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢の引き上げに伴う措置だ。現行法も65歳までの雇用を求めているが、労使協定を基に対象を制限できる。それが段階的に禁じられ、希望者全員の雇用が義務づけられる。

すでに労使で決着した有力企業には、定年を延長する例もあるが、好業績や対象者が少ない企業に限られがちだ。

それでも、定年後に再雇用する継続雇用制度を活用しつつ、能力に応じた賃上げや働き方の選択肢を増やすことで実質的に待遇を底上げする企業も見受けられる。

背景には、従来の制度では小回りがきかず、働く人のやる気や能力を引き出せていない事情がある。技術流出への反省から人材のつなぎ留めという観点も重視されている。

むろん、多くの経営者は人件費の増加に神経をとがらせており、経団連は現役社員の定期昇給の見直しに意欲を見せる。比重が大きいバブル期の入社組や団塊ジュニア世代の賃金を減らしたい思惑もあるようだ。

しかし、目先のコスト削減に固執した雇用・人事制度いじりは、これまでも日本企業の組織力を損なってきた。団塊世代を切る方便と化した成果主義や安易な新規採用減らしの教訓を忘れてはならない。

半面、高齢法は同じ企業に働き手を固定し、経済全体での適材適所を妨げる面もある。不当な人減らしを防ぎながら、ミドルの段階から転職を容易にする環境整備が必要だ。働く側が能力を高める努力も大切になる。

デフレ脱却には、賃上げと成長の好循環が求められる。それにふさわしい雇用・賃金制度の再構築には、高齢者の力を生かすための試行錯誤が大きなステップになるはずだ。

読売新聞 2013年03月29日

65歳まで雇用 若者の仕事を奪わぬように

65歳までの希望者全員を雇用するよう企業に義務付けた改正高年齢者雇用安定法が4月1日に施行される。

改正法は、厚生年金の支給開始年齢が4月以降、現在の60歳から段階的に65歳に引き上げられることに伴うもので、昨年8月に成立した。

定年後に年金を受け取れない期間が生じるのを防ぐという狙いは理解できる。企業に対し、希望者全員の雇用継続を義務付けるのは、時代の要請と言えよう。

現行法も、60歳で定年を迎えた社員が、定年の廃止か引き上げ、または継続雇用により、65歳まで働けるよう企業に求めている。継続雇用を選択した場合、健康状態や働く意欲など、一定の基準を設けて選別できる仕組みだ。

今回の制度改正は、この基準規定を廃止し、選別を認められなくするのが眼目だ。政府は、違反した企業に勧告を行い、従わない場合は企業名を公表するという。

確かに、平均寿命が伸び、60歳代の健康状態は格段に向上している。年金に支えられてきた60~64歳の人たちが、働いて税や保険料を納め、社会保障の支え手となる意義は大きい。

この年代の所得や消費が向上し、経済成長を後押しする効果も期待できるだろう。

だが、60歳代では、能力と意欲の個人差が広がる。経済界が65歳までの継続雇用の義務化に「人件費が増え、経営を圧迫する」と反対していたのも、無理はない。

重要なのは、高年齢者の雇用維持を理由に若者の仕事を奪ったり、非正規雇用を増やしたりしてはならないということだ。

改正法施行で、「若年層の雇用を抑える」とした企業は約4割に上る、との調査もある。

社会全体の活力を低下させないようにするためにも、若者から高齢者まで、働く場の確保に各企業は知恵を絞ってもらいたい。40~50歳代の賃金上昇を抑えるなど、人件費の配分を工夫していくことになるだろう。

年金の支給開始年齢について、米国やイギリス、ドイツは既に67~68歳に引き上げることを決めている。これらの国より早く高齢化が進む日本で、さらなる引き上げを避けるのは難しい。

一段と少子高齢化が進み、働く期間も一層長くなる。企業も労働者も「生涯現役社会」の到来を見据えねばならない。

政府にも、成長産業にテコ入れし、雇用を拡充していくような戦略的な政策が求められよう。

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