全柔連改革 人心一新しか再生の道はない

毎日新聞 2013年03月25日

全日本柔道連盟 公益法人の適格性疑う

これで公益財団法人を名乗る資格があるのか。男性指導者による女子選手への暴力やパワーハラスメント行為から始まって、組織ぐるみの疑いが濃厚な公的助成金(強化費)の流用や不正受給など問題噴出の全日本柔道連盟(全柔連)のことだ。

全柔連は18日の理事会で、暴力問題を調査した第三者委員会が提言した改革案の大半を6月の理事会まで先送りした。当初、女子選手の勇気ある告発を重大視せず、柔道への国内外の信頼と信用を大きく損なった上村春樹会長をはじめとする執行部の責任は問われず、上村体制の続投が決まった。指導実態のない複数の理事の強化費不正受給が22日に明らかになり、新たな第三者委員会の設置を指示されても上村会長は引責辞任を否定した。どうやら世間の常識は柔道界の常識ではないようだ。

先の理事会では副会長の一人が自身を含めた執行部の進退を問う意見を述べた。だが、出席した理事からは賛成の声どころか、反対の声さえも上がらず、沈黙が続いた。会議の冒頭、講道館の創始者、嘉納治五郎の孫で、講道館名誉館長の嘉納行光氏が「一枚岩でやっていきましょう」と話したことで流れが決まったようだ。自由闊達(かったつ)な議論を封じることが一枚岩になることなのか。

全柔連への来年度の選手強化交付金の停止を決定した日本オリンピック委員会(JOC)は翌19日に公表した改善勧告の中で、「職位において上の者が下の者の意見をよく聞くようにし、職位の上下関係にかかわらず対話による意思疎通が行われる環境を整えること」と指摘した。問われているのは、選手時代の実績や先輩後輩の上下関係に支配されている全柔連の前近代的な体質だ。

第三者委員会の指摘を待つまでもなく、「柔道界の常識ではなく世間の常識を実現できる人材」、例えば柔道界とは利害関係を持たない人物を意思決定機関の理事会だけでなく、執行部中枢にも登用すべきだ。

女子選手の告発をまともに取り上げなかった当初の対応を見れば、女性理事の登用も急務となる。強化現場だけでなく、長らく男性だけで固めている理事会にも複数入れることで、風通しのいい組織に近づくだろう。女子柔道が公開競技として初めて五輪に採用されたのは88年ソウル大会で歴史的には後発だが、実績では今や男子をしのぐほど。それに見合った組織体制を整えることは、いまだに男性が実権を握って放さない他の競技団体の範となるはずだ。

透明性をアピールする意味で、とりあえず理事会を公開することを提案したい。変わったこと、変わろうとしている姿勢を明確に示すことが信頼回復への近道ともなる。

読売新聞 2013年03月24日

全柔連改革 人心一新しか再生の道はない

女子選手への暴力問題などで、全日本柔道連盟に対する信頼は地に落ちた。組織を立て直すには人心を一新し、改革を断行するしかあるまい。

全柔連は、上村春樹会長ら執行部の体制を見直さず、全員の留任を決めた。

責任を取る文化はないのか。社会通念に反する全柔連の決定に、(あき)れるばかりである。

これに先立ち、暴力問題を検証した第三者委員会が、全柔連に答申を提出した。「柔道界の常識ではなく、世間一般の常識を体現できる人材が不足している」などと、全柔連の組織としての問題点を厳しく指摘する内容だった。

執行部の留任に、第三者委のメンバーだった精神科医の香山リカさんが「(答申では)組織として機能していない、とまとめた。会長も含めて処分を検討すべきだ」と批判したのも当然だ。

全柔連は、辞任した全日本女子前監督の暴力行為を把握しながら、いったんは前監督の続投を決めた。不信感を強めた15人の女子選手は、日本オリンピック委員会(JOC)への告発に至った。

問題の重大性を認識できず、適切な対策も講じられない。全柔連に危機管理能力が欠如しているのは明らかである。

バルセロナ五輪の52キロ級銀メダリスト溝口紀子さんは、全柔連について「一握りの幹部に権力が集中しがちで、『違う』ともの申すことができにくい」と語る。

この「一握りの幹部」が交代しない限り、組織の変革は望めないだろう。上村会長は「一丸となって取り組む」と語るが、執行部の一新こそ改革への第一歩だ。

第三者委は、執行部に外部のメンバーを入れることや、女性理事、女性監督の起用も求めた。閉鎖体質から脱却し、風通しのよい組織に変わるには、ぜひとも実現する必要があるだろう。

全柔連では新たな問題も明るみに出た。日本スポーツ振興センターから強化委員に支払われた助成金の一部を強化委員会に上納させ、飲食や接待に使っていた。

帳簿や領収書は残されておらず、プール金の残高は約2000万円にも上るという。

さらに、強化委員を務める理事は、指導実態が全くないのに助成金を不正受給し、その一部を上納していたことを認めている。

全柔連は税制上の優遇措置を受ける公益財団法人だ。不透明な金銭管理は許されない。

信頼回復には、これらの問題の徹底解明も重要だ。

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