イスラエル政権 イラン核問題で米と連携を

毎日新聞 2013年03月25日

オバマ中東訪問 和平推進の出発点に

イスラエルを初めて訪問したオバマ米大統領は、ネタニヤフ首相を愛称(ビビ)で呼んで親しさを強調した。だが、ネタニヤフ首相は米ブッシュ政権時、ネオコン(新保守主義派)陣営に絶大な人気があり、かたやオバマ大統領はネオコンの影響力を排して、イラクとアフガニスタンでの戦争の幕引きや疲弊した米経済の再生に努める人。どうしても呉越同舟の印象は否めなかった。

焦点のイラン問題でネタニヤフ首相は、イランが核兵器を製造するには約1年かかると述べ、イランを空爆するにしても若干の時間的余裕があることを示唆した。外交努力を重視するオバマ大統領の顔を立てたのだろう。他方、イスラエルの地を踏んだオバマ大統領が、場合によってはイランへの軍事行動も辞さない姿勢を見せたことは、ネタニヤフ政権にとって大きな得点といえよう。

イスラエルは81年にイラクの原子炉を、07年にはシリアの核疑惑施設を、それぞれ空爆している。いずれも秘密裏の単独作戦だが、イランについては何年も前から空爆の可能性を公言してきた。このため米国はイスラエルをなだめるべく、国連安保理で再三、対イラン制裁決議の採択を後押ししてきた経緯がある。

イランには不透明な核開発をやめてもらわねばならない。だが、かといって現段階で軍事行動に訴えるのは国際法上、問題があるだけでなく、現実的で賢い選択肢とも思えない。イランの報復ぶくみで国際情勢は一気に険悪化するだろうし、まして米国とイスラエルの共同作戦となれば、その影響は計り知れない。

同盟関係は大事だが、脅威の深刻さは米・イスラエルの観点だけでなく、客観的な見地で判断すべきである。あくまでも、まだ疑惑の段階であるイランの核開発に対し、北朝鮮は3度の核実験を経て、米国や日本への核攻撃にも言及している。イラク戦争に続くイランとの紛争で、必要以上に米国の力が中東に割かれることは、日本にとっても世界にとっても幸福とはいえない。

イランは引き続き警戒するとして、オバマ大統領はパレスチナ和平に力を入れるべきだろう。パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸を訪れた大統領は、エルサレムでの演説でパレスチナ人の民族自決権に言及し「パレスチナの子供が自分の国で成長できないのは不公正だ」と力説した。

だが、問われているのは実行力である。米国は盟友イスラエルのためにも和平交渉を軌道に乗せる必要があろう。面倒な問題には手を出さないという評判が、オバマ外交について定着しつつあるのは憂慮すべきことだ。今回の歴訪を中東の「チェンジ」の新たな出発点にしてほしい。

読売新聞 2013年03月22日

イスラエル政権 イラン核問題で米と連携を

米国とイスラエルが首脳会談で協調態勢をアピールした。イラン核問題や対パレスチナ和平を巡ってぎくしゃくしていた関係の修復を、印象づけたと言える。

これを中東地域の安定につなげていくことが重要だ。

1月の総選挙を受け、ようやく連立政権発足にこぎつけたネタニヤフ首相は、オバマ米大統領を最初の外国首脳として迎えた。

焦点のイラン核問題では、首脳会談後の共同記者会見で、首相は、イランが核兵器製造を決断しても完成まで約1年かかるという認識を示し、大統領も「外交的解決の時間はまだある」と強調した。

両国は、イランの核保有阻止を目指し、外交的手段を尽くすことで一致したと言える。

首相は昨年9月、イランが今年春にも、核兵器を作るのに十分な量の高濃縮ウランを保有する恐れがあると警告した。国際社会が阻止できねば、単独でのイラン攻撃も辞さない構えを見せていた。

今回、米国に歩み寄ったことで、イスラエルが軍事行動に出る事態は当面、遠のいた。

イスラエルがイランを攻撃すれば、戦火は拡大し、原油価格の高騰で世界経済も揺らぎかねない。武力行使は自制すべきだ。

大統領は、米国が安全保障面でイスラエルを支えると確約した。米国が支援した対空防衛システム「アイアン・ドーム」を視察したのも、示威効果が狙いだろう。

イスラエルの安保環境は厳しさを増している。隣国シリア内戦の泥沼化や、イスラム主義勢力が権力を握ったエジプトの政治・経済の混迷など、地域情勢は不透明感を強めている。イスラエルには、対米関係修復が必要だった。

首相は、共同記者会見でイスラエルとパレスチナの「2国家共存」構想への支持も確認した。

しかし、イスラエルの占領地ヨルダン川西岸での入植拡大や、パレスチナ指導部の分裂によって、パレスチナとの和平交渉が再開するめどは立たず、パレスチナ国家樹立への道筋は見えない。

ネタニヤフ首相の政権基盤は、総選挙前より弱まった。対イラン強硬姿勢で支持を広げようという試みは失敗に終わった。

選挙後、首相は幅広い連立を試みたが、従来の連立相手だった宗教政党は離反し、中道勢力と強硬右派を取り込むにとどまり、政権の安定度には不安が残る。

米国との緊密な協力は、政権維持に不可欠だ。イラン核問題での連携維持は、重要な柱である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1353/