東京電力福島第一原子力発電所で大規模な停電が起き、全面復旧に約30時間もかかった。
原発事故後、最大規模の停電を招いた東電の対応には、見過ごせない問題があったと言える。
停電発生から丸1日以上、状況把握に難航し、復旧作業の遅れにつながった。今後の課題だ。
東電は当初、関係する配電盤を個別に調べた。だが、故障箇所は特定できず、非常用電源などに配線し直すしかなかった。
原子炉の冷却系は、短時間の停電でも事態が悪化する恐れがあることから、バックアップ電源を備えており、停電は免れた。
だが、それ以外の系統は、こうした対策が十分ではなかった。
その後の調査で、2年前の事故直後から屋外に設置されていた配電盤が、内部に入り込んだネズミのような小動物の接触でショートした可能性が浮上した。
東電は、屋外の臨時配電盤の弱点を認識し、屋内の配電系統に切り替えることを予定していたというが、管理体制に甘さがあったことは否定できまい。
停電の発生により、使用済み核燃料の冷却が大切であることも改めて注目された。
福島第一原発では、水を張ったプールに1万体以上が貯蔵されている。このうち9000体近くの冷却機能が一時停止した。
使用済み核燃料は発熱を続けている。プールの冷却水を循環させないと、水が蒸発し、燃料が損傷しかねない。事故の際にも危惧されたことだ。
今回は、複数あるプールの水温は最高で32度だった。東電が定めている警戒温度の65度までには、十分に余裕があった。原子力規制委員会の田中俊一委員長も、「そんなに切羽詰まったものではない」と指摘した。
ただ、停電が長時間続いたことに不安の声は少なくなかった。丁寧な状況説明が求められる。
停電の公表までに約3時間を要したことも含め、規制委の事務局が「情報提供のあり方を再検討する」と改善の意向を示したのは、当然のことだ。
福島第一原発は事故で大きく損傷している。毎日3000人の作業員が、原子炉の安定化や廃炉を目指し、働いている。現場の放射線量は依然高い。厳しい環境での作業は容易でないだろう。
廃炉は最長で40年かかる長丁場の事業だ。作業への信頼を損なわないためにも、今回のような不手際を繰り返してはならない。
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