公示地価 「底入れの兆し」を確実に

毎日新聞 2013年03月24日

公示地価 健全な回復を続けたい

今年の公示地価(1月1日時点)は下落率が一段と縮小し、底入れの兆しが見えてきた。地価の健全な回復が資産効果を通じて、経済活性化に役立つことを期待したい。

しかし、大都市や東日本大震災の被災地周辺では、気がかりな値上がりも目立つ。安倍晋三内閣の金融緩和政策が土地投機につながらないよう、地価の動きには注意が必要だ。

全国平均では住宅地、商業地とも5年連続で下落した。しかし、下落率はどちらも3年連続で縮小し、底打ち感が強まった。これは、日本経済がリーマン・ショックの後遺症から立ち直りつつあることを示しているといえるだろう。

もっとも、回復傾向が顕著なのは東京、大阪、名古屋の3大都市圏が中心で、その中でも都心部や都心へアクセスしやすい好条件の地域に集中している。

その一方で、太平洋沿岸地域では下落が止まらない地域も少なくない。大震災の津波被害を機にした防災意識の反映と思われる。とりわけ、南海トラフ巨大地震の被害が想定される高知、徳島、和歌山の各県などでは厳しい状況が続いている。

地価の持ち直しは、地域経済の活性化につながる。それを広げていくには、これまでに公表されている被害の想定を踏まえて国や自治体が防災対策をたて、国民の不安を和らげる必要がある。

東日本大震災の被災地周辺をみると、前年は調査対象の全地点が下落していた福島、岩手両県でも一部が上昇に転じた。復興の進展を示している面は評価したいが、警戒すべき現象もある。

仙台市や福島県いわき市は、被災地からの移転需要が地価上昇につながった。特に仙台市では中古マンションも品薄で、賃貸物件でもほぼ満室の状態が続いている。宮城県石巻市の高台地域が2年連続で全国一の上昇率になったのも、被災者の移転需要が集まったためだ。

仮設住宅や避難先での生活に疲れた被災者が、自力で「我が家」を確保しようと、限られた物件に集中している現実がうかがえる。地価の一段の過熱を抑えるために自治体は復興や街づくりを急ぎ、被災者の帰還や移転先の確保に努めるべきだ。

一方、大都市では安倍内閣の経済政策「アベノミクス」によるデフレ脱却の期待から、不動産に投資資金が流入し、上昇地点が拡大している。また、「大胆な金融緩和政策」は投機マネーを生み、不動産を高騰させる危険をはらむ。

日銀の黒田東彦(はるひこ)新総裁は「いまバブルの懸念があるとは考えない」と述べたが、不動産価格への注視を怠ってはなるまい。

読売新聞 2013年03月25日

公示地価 不動産デフレ脱却へもう一息

地価の底入れの兆しが一段と強まってきた。不動産価格を正常化させ、デフレから脱却できるよう、政府は経済活性化を急がねばならない。

国土交通省が発表した2013年1月1日時点の公示地価は、全国の住宅地で前年比1・6%、商業地で2・1%下落した。08年秋のリーマン・ショック以降、ともに5年連続のマイナスだった。

下落幅が3年連続で縮小したのは明るい材料だ。中でも3大都市圏の下落幅は0%台で、下げ止まりが視野に入ったと言える。

都道府県別の平均値も、ほぼすべてで下落幅が縮まった。都市圏から地方圏へ、改善傾向が広がっていることをうかがわせる。

安倍首相が就任前から掲げた経済再生に対する期待が先行し、不動産市場に資金が流入している。こうした動きが続けば、地価の回復に弾みがつくだろう。

住宅地で改善が目立つのは、低金利や住宅ローン減税などの政策効果が下支えしたのが要因だ。

東京では前年ゼロだった上昇地点が現れた。マンション販売が堅調なことが背景にある。

住宅地に比べて遅れ気味だった商業地が、都市部を手始めに持ち直してきたのも注目できる。

東京スカイツリーなど大規模な商業施設を中核とした再開発地域や、耐震性に優れた新築物件への移転需要が根強い地域などで上昇地点が増えている。

空室率の低下、賃料の下げ止まりといった傾向が見え始めた。

アジアを中心とする海外からの投資マネーも増大しているようだ。金融緩和に伴う円安の進行などで日本の不動産に割安感が出ているのだろう。

一方、人口減や地域経済の疲弊など構造的な要因を抱える地方の商業地は改善テンポが鈍い。

東日本大震災の被災地では、津波被害に見舞われた沿岸部と浸水を免れた高台で地価が二極化する現象は薄まっている。

しかし、復興事業が進展し、住宅移転への需要が拡大するのに伴い、地価の急上昇する地点が増えている点は気がかりだ。

地価上昇率トップの住宅地は2年連続で宮城県石巻市だった。宮城、岩手両県の沿岸市町村は軒並み上昇に転じ、県別でも宮城県が全国一の上昇率を記録した。

急激な地価上昇が住宅再建に悪影響を及ぼさないように政府と自治体は監視を強めるべきだ。来年4月の消費税増税をにらんだ駆け込み需要が地価に与える影響にも注意する必要がある。

産経新聞 2013年03月23日

公示地価 「底入れの兆し」を確実に

地価の底入れ傾向が鮮明になってきた。

国土交通省が発表した1月1日時点の公示地価は、全国平均で住宅地、商業地とも5年連続で下落したものの、下げ幅は3年連続縮小した。一方、都市部から地方まで、上昇か横ばいに転じた地点が大幅に増え、名古屋圏など一部地域では持ち直し傾向も出ている。

地価の上昇は、資産効果などを通じて個人の消費を促すほか、企業の経済活動にも好影響を及ぼす。それがこのまま上昇に向かうかどうかは不透明だが、このタイミングを本格的な地価の反転につなげたい。政府は今後の動向を注視し、成長戦略の着実な実行で後押しする必要がある。

地価が下げ止まり傾向を見せている要因の一つには、旺盛な住宅需要がある。昨年の新設住宅着工戸数は約88万3000戸と前年比5・8%増加した。

低金利と来年4月に予定される消費税引き上げ前の駆け込み購入を背景に、注文住宅やマンションの需要が高まっている。大胆な金融緩和の継続などを軸にデフレ脱却をめざす安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」への期待も影響しているようだ。

首都圏のオフィス需要も堅調である。なかでも東京都心部では、耐震性に優れたビルなどを中心に賃料が上昇に転じている。

実需に加え、不動産市場への投資資金流入も地価を下支えしている。投資家から集めた資金で運用する不動産投資信託(REIT)の相場も上昇が続いている。

全体の値動きを示す東証REIT指数は年初から3割以上も上昇した。大都市部では地価が底入れしつつあるとみていいだろう。

ただ、消費税増税後の影響には注意が必要だ。政府・与党は住宅ローン減税の拡充などを決めたが、景気状況をにらみつつ、低金利融資の提供など住宅取得支援策を打ち出し、購買層の不安解消に努めなければならない。

気になるのは、大震災被災地で利便性の高い内陸部の一部地域で地価やマンション価格が急上昇していることだ。

地価の底入れは、経済全体としては歓迎すべき兆候だが、震災で財産や仕事を奪われた被災者にとっては、住宅再建の道をさらに険しくしかねない。被災地の投機的な動きには、今後も慎重な目配りが欠かせない。

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