日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明したことを契機に、広大な自由貿易圏の構想が次々と具体的に動き出した。
日本、中国、韓国3か国の自由貿易協定(FTA)の第1回交渉がソウルで始まった。
日本は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を4月に開始する方針でも合意した。日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉も5月にスタートする。
各国・地域が自らに有利な自由貿易圏を競う潮流が、さらに鮮明になってきたと言えよう。
複数の交渉に加わる日本にとって、貿易ルール作りに積極的に関与できるチャンスである。各交渉の早期合意を実現し、成長に弾みをつけなければならない。
韓国が米国やEUとのFTAを発効させたのに比べて、日本は出遅れが目立つ。打診していた中韓両国や欧州との交渉を開始することすらできずにいた。
ところが、日本のTPP交渉参加の動きを受けて、EUと中韓が対日交渉開始へ軟化に転じた。
EUには、日本との協定をTPPへの対抗軸にする思惑がうかがえる。米国ともFTA交渉開始で合意し、近く交渉を始める。世界の動きからEUが取り残される事態を警戒したのは明らかだ。
日中間では尖閣諸島の問題がくすぶるが、中国も日中韓交渉の開始により、アジアへ関与を深める米国を牽制する狙いがあろう。
日本の課題は、貿易ルール作りを主導できるかどうかだ。
EUとの交渉では、EUによる自動車などの高関税の撤廃とともに、日本の自動車、医療機器市場などの規制緩和が焦点になる。早期合意へのハードルは高い。
日中韓交渉も、知的財産権や競争政策などが交渉分野になるだけに、先行きは不透明だ。
TPPでは、コメなど農産品を関税撤廃の例外扱いにするかを巡って駆け引きが予想される。
日本にとって、市場開放度を高める自由貿易の新たな枠組みを目指すことが大前提である。
一方、交渉を同時並行で行うことで米欧や中国を揺さぶる道も開けよう。国益を反映させる交渉力を発揮すべきだ。中国を国際ルールに取り込む必要もある。
貿易赤字に転落した「輸出大国」の立て直しは急務と言える。TPP参加表明が世界に及ぼした相乗効果を生かし、政府にはしたたかな戦略が求められよう。
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