キプロス混迷 欧州危機の再燃回避が急務だ

毎日新聞 2013年03月27日

自由貿易交渉 総合戦略で相乗効果を

日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の第1回会合が始まった。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も交渉に入ることが決まった。

先に安倍晋三首相が交渉入りを表明した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と併せ、日本の将来を左右する大きな貿易交渉が、並行して進むことになる。それぞれの交渉を他の交渉での成果獲得につなげる総合的な通商戦略を求めたい。

日中韓FTAは、アジアに自由貿易圏を築いていく上で重要だ。領土をめぐる問題で日中、日韓の関係がぎくしゃくしている中だけに、3国が経済連携の強化に向けスタートラインに立つ意味も大きい。

もっとも、交渉は厳しいものになりそうだ。日本と韓国は、乗用車、液晶製品などに対する高率関税の引き下げを中国に求め、巨大市場の開拓を目指す。米国が主導するTPPへの参加を表明した日本としては、高いレベルで貿易・投資を自由化するルールに中国を巻き込む第一歩にしたいという思惑もある。

ところが、中国にとっては主に韓国への自動車部品や衣料品の輸出拡大などは見込めるものの、日韓両国ほど貿易上のメリットはない。むしろ、アジアでの経済連携をリードし、TPPに対抗する足がかりにするのが主な目的とも思われる。

中国は、5月に交渉開始が予定される東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドによる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にも積極的な姿勢に転じた。アジアで主導権を握りたいという強い意欲の表れだろう。それぞれの交渉で中国は、TPPを隠れた対立軸にして厳しい交渉姿勢を示すことが予想される。

対する日本にとって大切なのは、さまざまな自由貿易交渉の枠組みを同時並行させ、相乗効果で存在感と発言力を強めることだ。

その意味でもEUとのEPA交渉は、重要といえる。交渉で日本は、関税の撤廃・削減による自動車販売などの拡大を狙う。一方、工業製品に対する日本の関税は既に幅広く撤廃されているため、EU側は製品認可手続きの簡素化など非関税障壁に強い関心を持っている。

人口が減り、国内市場が伸び悩む日本は、国境の垣根を低くして、成長する海外の活力を取り込む以外に活路は見いだせない。

この交渉だけでなく、アジア太平洋地域の交渉で自由貿易の拡大をリードしていくためにも、自由化への本気度を示す必要がある。安全性の確保は譲れないが、既得権益を守るためにあるような非関税障壁は、見直していくべきだ。

読売新聞 2013年03月28日

経済連携交渉 日本主導で自由貿易圏加速を

日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明したことを契機に、広大な自由貿易圏の構想が次々と具体的に動き出した。

日本、中国、韓国3か国の自由貿易協定(FTA)の第1回交渉がソウルで始まった。

日本は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を4月に開始する方針でも合意した。日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉も5月にスタートする。

各国・地域が自らに有利な自由貿易圏を競う潮流が、さらに鮮明になってきたと言えよう。

複数の交渉に加わる日本にとって、貿易ルール作りに積極的に関与できるチャンスである。各交渉の早期合意を実現し、成長に弾みをつけなければならない。

韓国が米国やEUとのFTAを発効させたのに比べて、日本は出遅れが目立つ。打診していた中韓両国や欧州との交渉を開始することすらできずにいた。

ところが、日本のTPP交渉参加の動きを受けて、EUと中韓が対日交渉開始へ軟化に転じた。

EUには、日本との協定をTPPへの対抗軸にする思惑がうかがえる。米国ともFTA交渉開始で合意し、近く交渉を始める。世界の動きからEUが取り残される事態を警戒したのは明らかだ。

日中間では尖閣諸島の問題がくすぶるが、中国も日中韓交渉の開始により、アジアへ関与を深める米国を牽制(けんせい)する狙いがあろう。

日本の課題は、貿易ルール作りを主導できるかどうかだ。

EUとの交渉では、EUによる自動車などの高関税の撤廃とともに、日本の自動車、医療機器市場などの規制緩和が焦点になる。早期合意へのハードルは高い。

日中韓交渉も、知的財産権や競争政策などが交渉分野になるだけに、先行きは不透明だ。

TPPでは、コメなど農産品を関税撤廃の例外扱いにするかを巡って駆け引きが予想される。

日本にとって、市場開放度を高める自由貿易の新たな枠組みを目指すことが大前提である。

一方、交渉を同時並行で行うことで米欧や中国を揺さぶる道も開けよう。国益を反映させる交渉力を発揮すべきだ。中国を国際ルールに取り込む必要もある。

貿易赤字に転落した「輸出大国」の立て直しは急務と言える。TPP参加表明が世界に及ぼした相乗効果を生かし、政府にはしたたかな戦略が求められよう。

産経新聞 2013年03月25日

経済連携拡大 貿易立国再生の突破口に

日本の経済連携協定(EPA)締結に向けた交渉がいよいよ加速する。赤字拡大が続く日本の貿易を再建し、経済再生への突破口にする構えで臨まねばならない。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加表明に続き、26日から日中韓自由貿易協定(FTA)締結に向けた会合が始まる。キプロス危機で延期されたが、欧州連合(EU)とのEPA交渉もスタートする。

さらに東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とする東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉も控え、まさにめじろ押しだ。

関税や貿易障壁の削減・撤廃や投資、競争政策など広い分野で共通ルールを作るEPAなどの経済連携は通商政策の根幹である。ただ、日本は長く世界貿易機関(WTO)など国際機関を通じた多国間貿易交渉を重視し、経済連携に積極的とはいえなかった。

この結果、日本の全貿易額に占めるEPA・FTA締結国との貿易額の割合は2割に満たない。米国、EU、韓国が3割を超えているのに比べ著しく低い。

しかもTPP交渉への参加表明の際、安倍晋三首相が指摘したように「自由貿易体制の下で繁栄をつかむ」という戦後の選択はいま、壁にぶつかっている。

日本の昨年の貿易収支は比較可能な昭和54年以降、最大の赤字額を記録した。今年1月は単月として過去最大、2月も8カ月連続の赤字だ。昨秋以降の円安も貿易収支改善につながっていない。

原因は海外景気の後退による輸出不振と、原発停止に伴う火力発電燃料の輸入急増だが、国際競争力の低下も否定できない。

原発再稼働や企業の競争力を強化する規制改革は急務だ。同時に輸出の障害となる相手国の高率の関税やルールを改め、企業が力を発揮できる環境を整える必要がある。それが経済連携である。一連の交渉でつまずけば、日本の貿易立国復活は険しさを増す。まさに踏ん張りどころだ。

そのうえで、最重要なのがTPPであることを強調したい。

中国は、日中韓FTAやRCEPで主導権を狙うだろう。それを許すと、これらは中国経済圏の色合いが濃くなり、経済連携本来の意味は失われる。中国牽制(けんせい)のためにも、TPPで日米が結束し、アジア太平洋地域での影響力を強めねばならない。

毎日新聞 2013年03月26日

キプロス合意 抜本策は待ったなしだ

この3年余り何度となく経験したユーロ圏の危機の中でも、最悪と呼べる混乱だったのではないか。地中海の島国、キプロスへの金融支援をめぐり欧州諸国と国際通貨基金(IMF)が繰り広げた失態は、恒久的な危機回避の枠組み作りが待ったなしであることを強く印象付けた。

なんとか期限内の合意を取り繕ったことで、多額の不良債権を抱えた金融機関とともに、キプロス経済が破綻する事態は避けられた。同国がユーロ離脱を余儀なくされていれば、金融不安が他のユーロ加盟国に飛び火し、単一通貨そのものが崩壊の危機に直面、世界経済を混乱の渦に巻き込んでいたかもしれない。

だが、ほっとしている場合ではない。合意内容が十分か、機能するのか、予断を許さない。ドイツをはじめとするユーロ圏の中核国は、今回の失敗を教訓とし、先送りを繰り返してきた宿題に緊急性をもって取り組むべきである。

欧州連合(EU)など支援する側が犯した重大な失敗の一つは、当初「預金課税」という形で、本来は元本保証があるはずの10万ユーロ以下の預金者にまで、損失を負担させようとしたことだ。もし実現していたら、銀行への取り付けが、ユーロ圏の他の国へも連鎖していた恐れがある。

幸い回避されたとはいえ、保証されているはずの元本でも目減りする可能性があることを図らずも示し、ユーロ圏の預金保険制度に対する信頼を無用に傷つけてしまった罪は小さくない。今後、影響が出ないか注視が必要だ。

キプロスが支援を最初に要請してから約9カ月も費やしておきながら、欧州中央銀行(ECB)が緊急融資の引き揚げという最後通告を突きつけ、わずか数日のうちに難題の解決をキプロスに課したことも、極めて危ない綱渡りだった。

当初、170億ユーロが必要とされながら、実際の支援額が100億ユーロに圧縮され、さらにキプロスが自助努力として58億ユーロの捻出を強いられたのも理解に苦しむ。

キプロスでは、預金の引き出し制限により、市民生活や経済活動に甚大な影響が出ている。ギリシャやスペインなどでも、緊縮財政の長期化で、経済の疲弊とともにドイツやEUなどへの嫌悪が市民の間でさらに高まりはしないか気がかりだ。

最近では、危機に対応してきた「トロイカ体制」と呼ばれる、EU、IMF、ECB三者の協調に乱れが生じているとの指摘もある。これ以上の長期化は多くの意味で危険だ。銀行行政や財政の統合に向けた包括的な枠組み作りを急いでほしい。9月に予定されるドイツの総選挙後まで待っている余裕などない。

読売新聞 2013年03月23日

キプロス混迷 欧州危機の再燃回避が急務だ

地中海の小国キプロスの金融危機が、世界を揺るがし始めた。

欧州連合(EU)の主導で混乱を収拾させ、欧州全体や日本経済などへの波及を食い止めるべきだ。

キプロス政府は、経営危機に陥った国内第2位の大手銀行を整理・再編する方針を決めた。無秩序な破綻をひとまず回避し、EUからの金融支援を取り付けるための窮余の策と言えよう。

EU加盟国で通貨ユーロを導入しているキプロスの危機の発端はギリシャ財政破綻だった。

ギリシャ国債を大量保有するキプロスの銀行が不良債権を抱えて経営が悪化したが、政府には公的支援を行う財政力がない。ロシアなど国外の預金者から巨額資金を集めていた「金融立国」モデルが行き詰まったことを示す。

キプロスからの要請を受け、EUは国際通貨基金(IMF)とともに最大100億ユーロ(約1兆2000億円)の支援を決めた。

その条件としてEUが求めた銀行預金への課税案が、事態を混乱させる直接の要因になった。

課税を嫌がる国民がEUの提案に反発し、預金引き出しに走るなど、騒ぎが拡大した。

少額預金については課税対象外とし、国民の理解を得ようとした政府の法案も、世論を意識した議会で否決された。

このままではEUの条件をクリアできず、支援策は宙に浮く。債務不履行(デフォルト)を警戒する見方すらくすぶる。

キプロス政府が大手銀行を整理する方針を示したのは、預金課税の代替案を迫られた結果だ。問題銀行を存続させて救済するよりも公的資金が少なくて済むメリットに着目したのだろう。

だが、支援が速やかに実現するかどうか、先行きは不透明だ。最大のカギは、厳しい財政規律を求めるドイツが握る。キプロスはドイツなどを納得させる銀行安定策をさらに詰めねばなるまい。

キプロスとの関係が深いロシアの役割も重要だ。EUと連携を図ってもらいたい。

最も懸念されるのは、キプロス危機がスペインやイタリアなどに飛び火し、沈静化しつつあった欧州危機を再燃させる事態だ。

外国為替市場では、ユーロが弱含みで推移し、円が買われやすい展開が続く。世界各地で株価の乱高下も目立っている。

キプロス混迷が回り回って、経済再生を目指す安倍政権の経済政策「アベノミクス」に冷や水を浴びせないか。要警戒である。

毎日新聞 2013年03月24日

キプロス危機 一国だけの責任なのか

またか。そうあきれずにはいられないユーロ圏の混乱劇だ。今度は、人口110万人、経済規模でユーロ圏の0.2%に満たない小国が、世界経済を振り回そうとしている。地中海の島国、キプロスだ。

欧州債務危機の発火点、ギリシャと緊密な関係にあり、保有するギリシャ国債の不良債権化により大手金融機関が経営危機に陥った。銀行界の資産規模は国内総生産の7倍以上と巨大で、国家財政に救済余力はない。そこで欧州連合(EU)などの国際支援を仰いだのだが、支援の前提だった計画がキプロス議会で否決され、支援も宙に浮いてしまった。

小国の問題だと看過できないのは、対応を誤ると、信用不安が他のユーロ加盟国に及び、ユーロの存続まで脅かされかねないからである。

キプロス問題には、これまでの欧州債務危機になかった要素も複雑にからんでいる。大手行の大口預金者にロシアの企業や富裕層が多数含まれている点だ。低い税率や緩やかな規制が、ロシアなど海外からの資金を引き付けてきた背景がある。

ロシアとの友好関係を維持したいキプロスの政治家は、問題銀行の処理に伴ってロシアの預金者が多額の損失を負う事態を避けたい。議会が否決した最初の処理策に、小口預金者の損失負担(預金課税)が盛り込まれていたのは、そのためだ。

しかし、大口預金者なら、預金が全額保護されない場合を十分想定しておくべきだ。応分の負担は当然だろう。小口の預金者にまで損失をかぶせようとしたのは間違いだった。

より大きな問題は、なぜいまだにこうした混乱が繰り返されるのか、ということだ。抜本的な危機克服策を先送りしてきた欧州諸国の責任は重い。欧州中央銀行(ECB)はキプロスが25日までに新たな資金捻出策をまとめなければ、命綱となっている緊急融資を打ち切ると“最後通告”したが、EUもECBも当事者意識がなさすぎではないか。

EUが、ギリシャ国債を保有する民間銀行に元本削減を求めた時点で、キプロスの銀行危機も想定できたはずである。だが、ドイツを中心とした欧州の主要国は、場当たり的な支援策で時間を稼ぐだけで、金融行政や財政の統合といった宿題に本気で取り組んでこなかった。

ユーロ圏で一本化した銀行監督当局が圏内銀行の不良債権処理を主導し、必要に応じて直接、銀行に資本注入できる仕組みを整えていたら、今日の混乱は回避できただろう。

民主主義のプロセスには時間と政治のエネルギーがかかる。とはいえ、難題先送りにより、いかに被害が拡大したかを、欧州の指導者らは、真剣にとらえねばならない。

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