元外務省局長証言 外交の「信」回復に生かせ

毎日新聞 2009年12月02日

元外務省局長証言 外交の「信」回復に生かせ

1972年の沖縄返還をめぐる日米交渉にあたった元外務省アメリカ局長の吉野文六氏が法廷で初めて密約を認める証言をした。交渉の当事者だった元政府高官の証言は重い意味を持つ。鳩山内閣は、この貴重な証言を日本外交の信頼回復に生かさなければならない。

吉野氏が証言したのは、西山太吉・元毎日新聞記者らが政府に密約文書の開示を求めた情報公開訴訟の口頭弁論の場だ。原告側が求めているのは、米国が負担すべき旧軍用地の原状回復補償費を日本が肩代わりすることや、米短波放送(VOA)施設の国外移転費を日本が負担することなどを記した文書の公開だ。

原告側証人として出廷した吉野氏は、土地の原状回復補償費400万ドル(当時のレートで約12億円)を肩代わりすることを約束した文書(英文)に外務省局長室で署名したことを認め、愛知揆一外相(当時)も承知していたと述べた。さらに、「英文の覚書は(日本側に)必要ないので、適当に保存し処分していたと思う」と語った。VOA移転費負担(1600万ドル)に関する文書についても署名したことを認めた。

国側はこれまで「最終的な合意文書ではない」としてきたが、今回、認否留保の姿勢に転換した。外務省の有識者委員会による密約の検証作業を意識したものとみられる。

それにしても、あまりにも遅い態度変更である。沖縄復帰関連の日米合意に関しては98年以降、密約を裏付ける文書が米側で相次いで見つかっている。06年2月には日本側の交渉当事者として初めて吉野氏が毎日新聞などの報道機関の取材に対し密約を認めた。

しかし、その後も自民党政権は「密約はなかった」の一点張りで通してきた。しかも、これらの密約は沖縄返還に伴う金銭負担をめぐる交渉に関するもので、いずれも積算根拠の薄さが指摘されている。国民に対する二重の背信といえる。

民事訴訟法は元公務員でも証人尋問を受ける際には所属省庁の承認を必要としている。自民党政権が継続していれば吉野氏の証人尋問は実現しなかっただろう。これも政権交代の効果といえよう。

鳩山由紀夫首相は吉野氏の証言について「一つの貴重な証言だ。政権としても事実関係が確認できたあかつきには国民にお知らせしたい」と語った。この証言を密約徹底解明への一歩にしてほしい。

一方、吉野氏は会見で「歴史を歪曲(わいきょく)しようとすると国民にはマイナスになる。米国の公文書公開のようなことが役立つと思う」と述べた。外務省判断で公開か非公開かが恣意(しい)的に決められる現在の外交文書公開制度の抜本見直しも必要だ。

読売新聞 2009年12月03日

元局長証言 「沖縄密約ない」は崩れ去った

「密約」の文書に署名した――と、日本側の当事者が法廷で証言したことで、「密約は存在しない」としてきた従来の政府見解は、完全に崩れ去ったといえるだろう。

1972年の沖縄返還を巡る対米交渉の責任者だった元外務省アメリカ局長の吉野文六氏が、東京地裁での情報公開訴訟に証人として出廷し、日米間に密約があったことを明言した。

吉野氏はこれまでも、報道機関に密約の存在を語っていた。だが、公開の法廷で証言したことは、より重い意味を持つといえる。

訴訟は、密約の存在を示す文書の漏えいに関与したとして有罪となった元毎日新聞記者の西山太吉氏らが起こした。情報公開請求で、密約関連の文書が不開示とされたため、国に不開示決定の取り消しなどを求めている。

米軍用地の原状回復補償費400万ドルと米短波放送中継局の国外移転費1600万ドル。吉野氏は、これらを日本側が肩代わり負担すると極秘裏に米側と合意したと証言した。

吉野氏は72年、西山氏の公判では、密約を否定する証言をした。今回の証言後、吉野氏は「過去の真実を追求することが、日本の将来のために有益と信じるようになった」と語った。

前回の証言から37年が経過している。「真実」を明らかにしても、対米関係などに支障は生じないとの判断もあったのだろう。

2000年以降、密約を裏付ける公文書が米国で公開された。日本政府が「外交秘密」として保護する理由はなくなっている。

岡田外相の意向で外務省の有識者委員会が、今回の沖縄返還関連を含めた四つの「密約」を対象に調査・分析作業を進めている。

鳩山首相は、吉野氏の証言を受け、「事実関係を確認できた暁には、国民にしかるべき手段でお知らせしたい」と語った。来月にまとまる予定の有識者委員会の報告書を踏まえて、政府としての見解を示してもらいたい。

外交では、相手との信頼関係の保持や、第三国に知られて国益を損なわないようにするため、合意内容を公にしないことがある。政府は今回の密約を結んだ事情についても説明する必要があろう。

米国では外交文書について、25年が経過すると原則的に秘密指定を解除する制度がある。日本では一定期間後、外務省が文書公開の是非を判断しているが、外務省任せにせず、一定のルールの下での公開を促進していくべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/135/