◆「無効」判断は無責任ではないか◆
立法府が、司法からこれほどまで怠慢を指摘されたのは、かつてなかったことだ。
昨年12月の衆院選を巡り、全国の高裁・支部で審理された16件の「1票の格差」訴訟のうち、15件で判決が言い渡された。
13件は「違憲」と断じた。残る2件も「違憲状態」と指摘し、合憲判断は一つもなかった。
約50人もの高裁判事が審理した結果である。国会は判決を重く受け止め、早期に具体的な是正措置を講じなければならない。
◆進まない格差の是正◆
最大2・43倍だった1票の格差が、法の下での平等を保障した憲法に違反するか。違反であれば、国会が格差を放置した期間は許容できる範囲内か。いずれの訴訟もこの2点が主な争点だ。
「違憲」判決は、格差が憲法違反である上、格差是正の合理的期間も過ぎたと判断した。「違憲状態」判決は、憲法違反だが、格差の放置は許される期間内だとの見解である。
最大格差が2・30倍だった2009年の衆院選について、最高裁は11年3月、「違憲状態」とする判決を出した。昨年末の衆院選時には、それよりも格差が拡大していた。
高裁の一連の厳しい判断は、予想できたと言えよう。
ただ、1票の格差は、何倍までならば合憲なのか、各高裁の判決からは必ずしも判然としない。
さらに、問題なのは、広島高裁と広島高裁岡山支部が、選挙の無効まで宣告したことである。
裁判所はこれまで「事情判決」の法理を適用し、選挙そのものは有効としてきた。無効とした場合の混乱を考慮してのことだ。
これに対し、広島高裁は「最高裁の違憲審査権が軽視されている」として、事情判決を適用しなかった。「最高裁判決から1年半が経過した昨年9月」を、格差是正の期限とする見解も示した。
だが、この線引きの具体的根拠は示されていない。
◆「将来効」判決は疑問◆
無効の効力は、今年11月26日を経過して発生するとも判示した。衆院の「選挙区画定審議会」が、昨年11月26日から改定作業を始めたことを重視したのだという。
一定期間を経た後に効力が生じるという「将来効」の考え方だが、1年という区切りの必然性は明確でない。立法府の裁量権に司法が踏み込んだとも言える。
岡山支部は、選挙を「即時無効」と判断した。「政治的混乱より投票価値の平等」を重視したというが、あまりに乱暴過ぎる。
現行の公職選挙法には、選挙無効が確定した場合の詳細なやり直し規定がない。例えば、失職した議員の選挙区のみ再選挙をするのか、解散・総選挙になるのか、法的手続きは整理されていない。
無効判決が確定すれば、政治は混乱するばかりだ。
すべての訴訟は上告される見通しだ。最高裁には現実的な判断を示してもらいたい。
◆与野党合意できぬなら◆
一方、政府・与党は、1票の格差を2倍未満に収める「0増5減」の区割りを決める公選法改正案を早期に成立させた上で抜本改革に取り組まねばならない。
ただ、0増5減は、最高裁が1票の格差を生む主因として廃止を求めた「1人別枠方式」による定数配分を基礎としている。
岡山支部判決が指摘するように「投票価値の格差是正への立法措置とは言い難い」だろう。
抜本改革となると、与野党それぞれの思惑が絡んで、進展の見通しは全く立っていない。
自民党がまとめた案は、比例選の定数を30減の150議席とし、そのうち60は得票数が2位以下の政党に配分する優遇枠とした。優遇枠については、「1票の価値の平等」という観点から憲法違反の恐れが指摘されている。
司法が「違憲」と判断した制度を見直すのに、またもや違憲の恐れがある制度をもって代えてよいはずがあるまい。
衆院選と同様に参院選も「違憲状態」と判断されている。国会は参院選の1票の格差を是正するために昨年11月、公選法を改正し、選挙区定数を「4増4減」したが、応急的な措置に過ぎない。
選挙制度は、ただ民意を反映するだけのものではなく、政治が物事を円滑に決めるための基盤でもある。国会は衆院、参院の役割分担を検討したうえで、抜本的な制度改革を進めるべきだ。
各党の党利党略によって、選挙制度改革が困難というのなら、有識者による選挙制度審議会を設けてでも改革を図るしかない。
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