論議を呼んだイラク戦争の開戦から、20日で10年を迎える。今、改めてこの戦争が残した課題を冷静に分析することが、日本にとってはとりわけ重要である。
米国のブッシュ前政権が始めたイラク戦争は、2011年12月、米軍の全面撤収で終結した。
戦争は、苦い教訓を米国に残した。占領統治は混乱し、4500人近い米兵の命が失われ、巨額の戦費で財政赤字は膨れあがった。開戦の理由とした大量破壊兵器が見つからず、威信は揺らいだ。
「コストに見合わない戦争だった」との批判は絶えない。
国際社会の足並みも乱れた。米英の武力行使に、仏独露などが反対した。イラク戦争への評価は、今なお定まらない。
留意すべきは、米国が開戦に至った本質的な問題が今も未解決だということである。
核兵器など大量破壊兵器を開発する国が、国連安全保障理事会から廃棄を求める決議を突きつけられても無視する。そんな事態にどう対処すべきかという問題だ。
安保理決議に従わず、核実験を3回も強行し、核武装化にひた走る北朝鮮がまさに実例だ。
日本は、北朝鮮の増大する脅威に直面するだけでなく、軍事・経済の両面で膨張著しい中国とも向き合わなければならない。
対イラク開戦を巡り、小泉首相が日米同盟重視の観点から、米国の武力行使を支持する一方で、民主党など野党は「大義なき戦争だ」と反対に回り、国論は割れた。
だが、日本が、米国との同盟を堅持する必要性は10年前から少しも変わっていない。むしろ強まったと言える。
イラクの大量破壊兵器計画を米英が過大に評価した反動で、国際社会が北朝鮮やイランの核開発能力を過小に見積もるようでは危険だ。米国が武力行使に慎重になり過ぎれば、北朝鮮の脅威に対処する選択肢を狭める恐れがある。
日本に必要なのは、米国との関係に安住せず、集団的自衛権の行使を可能にするなど同盟強化へ具体的な手立てを講じることだ。
イラクでは、選挙実施など民主化が進み、原油生産も回復して産油地の北部や南部は繁栄に沸いている。フセイン独裁政権の崩壊なしには難しかったろう。
ただし、政情は不安で、首都バグダッドなどでは宗派間の抗争や過激派のテロがやまない。マリキ政権は曲がりなりに再建への歩みを続けているが、治安回復で復興への道筋を確かにしてほしい。
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