イラク戦争10年 「北」の脅威対処に教訓生かせ

毎日新聞 2013年03月20日

イラク開戦10年 米は真の脅威を見つめよ

歴史にif(もしも)はない。とは知りつつ「もし、あの戦争がなければ」と、米国民と世界が自問し続けた歳月ではなかったか。03年3月20日(日本時間)にイラク戦争が始まって10年。米紙ワシントン・ポストなどが今月上旬、米国市民約1000人を対象に行った調査では「イラク戦争は戦う価値がなかった」と答えた人が全体の58%に達した。開戦時、8割の人が戦争を支持したことを思えば隔世の感がある。

何が間違っていたのか−−。ブッシュ前大統領は、イラク戦争で大義名分とした大量破壊兵器関連の情報収集に問題があったと言う。だが、イラクの生物・化学兵器は、前大統領の父親(ブッシュ元大統領)の時代から、国連がイラクを査察しては解体していた。この種の兵器を戦争の理由とするのは無理があった。

前大統領は戦争の真の動機を語っていないのではないか。米国は同盟国イスラエルのためにフセイン政権打倒を決めたという説がある。当否は不明である。だが、今また米国がイスラエルと同調してイラン攻撃を検討していることを思えば、そう考えたくなるのも無理はなかろう。

10年後の現実を直視したい。フセイン後のイラクでは親イランのシーア派イスラム教勢力が権力を握り、対米関係が険悪なイランが得をするというパラドックスが生じた。イランの貨物機がイラク領空を通ってシリアのアサド政権に武器を運んでいるとの情報もある。イラク戦争は、シーア派が政権を握るイラン、イラク、シリアの連携を強め、中東の宗派対立をあおる結果になった。

イラク戦争には「中東民主化」の狙いもあった。民主化を望むのはいい。だが、くしくも「アラブの春」で親米の独裁政権が倒れたアラブ諸国ではイスラム主義が力を増し、80年代の東欧民主化とは逆に、反米機運が全体的に強まった。これもまた、米国にとって想定外のイスラム社会のパラドックスといえよう。

イラクの反米武装勢力は中東全域に散らばり、米同時多発テロを実行したアルカイダ系の組織はアフリカにも根を張った。これが「テロとの戦争」の到達点とは思いたくないが、オバマ政権はリーマン・ショック後の財政難もあって、対応に苦しんでいる。

米国の不作為と共に人道主義の陰りも気になる。深刻なシリア情勢を静観しているオバマ政権の姿勢は問題なしとはしない。東アジアをはじめ中東以外にも脅威や危機が存在することも言うまでもない。米国が中東偏重の外交を見直し、真の脅威と向き合うことこそ、イラク戦争の最大の教訓の一つではなかろうか。

読売新聞 2013年03月19日

イラク戦争10年 「北」の脅威対処に教訓生かせ

論議を呼んだイラク戦争の開戦から、20日で10年を迎える。今、改めてこの戦争が残した課題を冷静に分析することが、日本にとってはとりわけ重要である。

米国のブッシュ前政権が始めたイラク戦争は、2011年12月、米軍の全面撤収で終結した。

戦争は、苦い教訓を米国に残した。占領統治は混乱し、4500人近い米兵の命が失われ、巨額の戦費で財政赤字は膨れあがった。開戦の理由とした大量破壊兵器が見つからず、威信は揺らいだ。

「コストに見合わない戦争だった」との批判は絶えない。

国際社会の足並みも乱れた。米英の武力行使に、仏独露などが反対した。イラク戦争への評価は、今なお定まらない。

留意すべきは、米国が開戦に至った本質的な問題が今も未解決だということである。

核兵器など大量破壊兵器を開発する国が、国連安全保障理事会から廃棄を求める決議を突きつけられても無視する。そんな事態にどう対処すべきかという問題だ。

安保理決議に従わず、核実験を3回も強行し、核武装化にひた走る北朝鮮がまさに実例だ。

日本は、北朝鮮の増大する脅威に直面するだけでなく、軍事・経済の両面で膨張著しい中国とも向き合わなければならない。

対イラク開戦を巡り、小泉首相が日米同盟重視の観点から、米国の武力行使を支持する一方で、民主党など野党は「大義なき戦争だ」と反対に回り、国論は割れた。

だが、日本が、米国との同盟を堅持する必要性は10年前から少しも変わっていない。むしろ強まったと言える。

イラクの大量破壊兵器計画を米英が過大に評価した反動で、国際社会が北朝鮮やイランの核開発能力を過小に見積もるようでは危険だ。米国が武力行使に慎重になり過ぎれば、北朝鮮の脅威に対処する選択肢を狭める恐れがある。

日本に必要なのは、米国との関係に安住せず、集団的自衛権の行使を可能にするなど同盟強化へ具体的な手立てを講じることだ。

イラクでは、選挙実施など民主化が進み、原油生産も回復して産油地の北部や南部は繁栄に沸いている。フセイン独裁政権の崩壊なしには難しかったろう。

ただし、政情は不安で、首都バグダッドなどでは宗派間の抗争や過激派のテロがやまない。マリキ政権は曲がりなりに再建への歩みを続けているが、治安回復で復興への道筋を確かにしてほしい。

産経新聞 2013年03月20日

イラク開戦10年 完全復興へ関与を続けよ

ブッシュ前米政権がサダム・フセイン独裁政権の打倒を掲げ、英国などとともに踏み切ったイラク戦争の開戦から10年がたった。

最大時には17万人が駐留していた米軍は2011年末に撤収し、治安権限はイラク側に移譲されている。新憲法で2度の国会議員選挙を経て、議会制民主主義は確実に前進したと評価できる。

だが、イラクはまだ復興の途上にある。テロの犠牲者が毎月100人以上にのぼる現状は尋常とはいえない。米国はもちろん、戦争を支援した日本など35カ国余の国々は完全復興に向けた関与を続ける責務を負う。

国連の制裁にもかかわらず核開発をやめないイラン、内戦が泥沼化したシリア両国の間に挟まれたイラクの統治が揺らげば、中東全体の紛争に広がるからだ。

イラク戦争の米軍戦費は総額約8千億ドルにのぼり、しかも計約4500人の戦死者を出した。ブッシュ政権が開戦理由としたフセイン政権による「大量破壊兵器の保有」の根拠が崩れたこともあり、「誤った戦争」との批判が米国内でもくすぶっている。

しかし、自国民を虐殺し、国連安全保障理事会の決議を無視し続けた無法国家を民主国家に変えた戦争の意義を過小評価してはならない。米国はやはり、イラクの一層の安定に向けた支援国の先頭に立つべきではないか。

イラクの唯一の収入源といえる石油生産は現在ではイランを抜きサウジアラビアに次ぐ日量300万バレルとなり、20年までにはその倍増を予想されるほどになった。

これには日本も貢献した。石油施設や火力発電所などの改修・新設、インフラ整備などに総額50億ドル以上の政府開発援助(ODA)を投入し、67億ドルの債務削減も実行している。イラクにおける日本の存在感は小さくない。

イラクのマリキ政権は日本のさらなる支援に期待を示すが、イスラム教シーア派を母体にし、シリアのアサド政権を支援するイランに近いといわれる。日本はイラクが国際の平和への脅威となる勢力と同調しないよう、米国と連携して影響力を強める必要がある。

中国の海軍力増強や北朝鮮の核・ミサイルによる威嚇への対応だけでなく、中東安定のカギを握るイラク復興への関与でも日米同盟は要だ。

毎日新聞 2013年03月20日

イラク開戦10年 強靭な日本外交を望む

日本はイラク開戦を支持し、非戦闘地域という名目ではあっても限りなく紛争地に近い場所に自衛隊を派遣して米国主導の戦争を支援した。そして中東の国に敵対する戦争に協力した結果、アラブ世界における日本の「中立」イメージを変えた。いずれも戦後の日本外交の分水嶺(ぶんすいれい)となる出来事であり、今日の安保政策にも大きな影響を与えている。

にもかかわらず、その総括がきちんとなされたとは言えない。国会は07年、開戦支持の判断などについての検証を政府に求めたが、内容に乏しい簡略な報告がまとまったのは昨年末である。独立した調査委員会が開戦時の首脳・閣僚の喚問などを実施し検証結果を明らかにした英国やオランダとの違いは大きい。

イラク開戦後、自衛隊派遣を決断した小泉純一郎首相は「どこが非戦闘地域かと聞かれても分かるわけがない」「自衛隊の活動する地域が非戦闘地域」などの乱暴な理屈で国会論戦を切り抜けた。結局、日本の開戦支持もその後の自衛隊派遣も、国際法や憲法とのかかわりについて精緻で突き詰めた議論を踏まえた結論とは言いがたいものだった。

日本の今後の外交や安保政策を考えるにあたっては、そうしたあいまいさの背景にあったものを改めて見つめ直してみる必要がある。

小泉氏のイラク開戦支持は、いざという時に最優先されるのは日米同盟だという姿勢を明確にさせたものだった。それは、米国が北朝鮮の脅威から日本を守ってくれる唯一の同盟国だから、という小泉氏の言葉に集約される。危機における、多分に直感的な政治判断でもあったと言えよう。事実、日本の安全保障は米国の軍事力抜きには確保できない。北朝鮮の核やミサイル開発のスピードを考えるなら、現在の日米同盟の重要性は、10年前のイラク戦争開戦時よりもさらに高まっている。

しかし、日米同盟が強固になる一方で、小泉政権下では中国や韓国との関係はなおざりにされた。現実は「日米さえよければ日中、日韓もよくなる」という小泉流の見立て通りにはならず、東アジアにおける協調と連携の枠組み作りの停滞と、今日に至る不協和音にもつながっている。

イラク開戦時と比べて、日本が直面する外交課題は困難さを増している。日米同盟基軸は同じでも、日米同盟さえよければすべてがうまくいくという単純な時代環境ではない。米国も日本と近隣諸国との関係安定化を望んでいる。強い日米同盟にプラスした複眼的で強靱(きょうじん)な外交がいま求められていることを、イラク開戦10年の節目に考えてみたい。

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