南海トラフ地震 被害を最小にする対策を

毎日新聞 2013年03月21日

南海トラフ地震 最悪防ぐ減災策を急げ

最悪の数字におののいたり悲観的になったりすることなく、官民が協力して減災のための対策を着実に重ねていくべきだろう。

国の中央防災会議の作業部会が、南海トラフ巨大地震に伴う経済被害の想定を公表した。最悪の場合、被害額は約220兆円に上る。住宅や工場などの直接的な被害と、生産の低下や物流が途切れることによる間接的な被害を合わせた額だ。

国家予算の2倍を超え、特に中・西日本の太平洋側の被害が甚大だと想定されている。

ただし、巨大地震の発生頻度は「1000年に1度、あるいはそれよりもっと低い頻度」である。さらに、建物の耐震化率を高めるなど適切な防災対策が取られれば、経済的被害は半分に減らせるという。

昨年、やはり国の有識者会議が南海トラフ巨大地震による人的被害をまとめた際も、同じ指摘があった。

死者は最大32万人に上り、うち7割は津波によるものと想定された。だが、適切な避難によってこの数字は6万人余りにまで減らせるとの試算が示されたのだ。

正しく恐れ、油断することなく減災に取り組む。こうした意識を国、地方自治体、地域の自治組織、さらに国民が胸に刻むことが、数字から得るべき最大の教訓ではないか。

対策の中では、建物の耐震化が急がれる。現在79%の耐震化率を100%に引き上げることで直接被害額は約半分となるのだ。住宅に比べて小中学校や病院などの耐震化率はまだまだ低いのが現状だ。

今回の想定によると、ピーク時で避難者は約950万人に達し、多数の帰宅困難者も生まれる。

そういった混乱の中で、復興・復旧の現場の核となる都道府県庁や市町村役場、さらにはインフラ企業など主要企業が、その機能を維持できるか否かも極めて重要だ。

首都直下地震対策では、首都機能維持のため中央省庁は業務継続計画(BCP)を作成している。災害発生から3日程度の応急対策時も業務を続けられるよう備えるのが目標だ。大企業でも独自に策定が進んでいるが、早急に整備をしてもらいたい。

特に今回の想定では企業活動への影響の大きさが強調された。製品や部品などの物流網を複数化する仕組みの構築も急がれる。

財源を伴う予算の配分は、地域の特性に合わせて優先順位を付けるのは当然だ。堤防などハード面の整備も必要性を精査して進めるべきだ。そういったことを踏まえ、政府は必要な法整備をしてほしい。

自宅の耐震化や、食料・水など備蓄品の確保など私たち一人一人も一層の「自助」を心がけたい。

読売新聞 2013年03月19日

南海トラフ地震 最大級の危機にどう備えるか

東海、東南海、南海地震などが同時に起きるマグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震について、政府の中央防災会議作業部会が被害予測の全体像をまとめた。

経済的被害は最悪の場合、約220兆円に上る。このうち、地震や津波で建物などが壊れる直接の被害だけで、最大約170兆円に達する。東日本大震災の約10倍に相当する額だ。官民が連携し、備えを強化せねばならない。

首都圏から中部、関西圏と四国、九州までの人口密集地や産業拠点を激しい揺れと最大30メートル超の津波が襲う、との想定である。

作業部会は昨年夏、30都府県で最大約32万人が死亡するとの予測を公表した。それに今回は経済被害などを加えた。

経済活動の核である生産・サービスの総額は、工場倒壊による生産休止などにより、被災後1年間で約45兆円も落ち込む。国内総生産(GDP)の1割近い。

作業部会は「1000年に1度以下の頻度でしか起きない」と説明し、極めてまれな災害であることを強調している。過度に不安を抱く必要はないが、東日本大震災も1000年に1度の地震だった。油断は禁物である。

大切なのは、「減災」へ向け可能な限り対策を講じることだ。今回の被害予測を踏まえ、政府や関係自治体は、防災対策を総点検する必要がある。

作業部会の試算によると、建物の耐震化などで経済被害は半減できるという。津波による犠牲者も、早期避難で9割減る。

いずれも、政府、自治体が、すでに取り組んできた対策だ。

耐震性を欠く建物の改修を加速させる。津波に備えた避難ルートや避難ビルを整備する。まずは、こうした基本的対策が重要だ。

迅速な救助・救援を可能にし、経済への影響を軽減するためには、幹線道路や港湾、空港など交通網の強化も欠かせない。

自民、公明両党は野党時代の昨年、補助金で防災施設の耐震化を促進する南海トラフ巨大地震対策特別措置法案を国会に提出したが、衆院解散で廃案となった。

現行の東南海・南海地震対策推進特措法を強化する内容で、両党は再提出を検討している。国会でしっかり議論してもらいたい。

南海トラフ巨大地震とは別に、政府は、東海、東南海、南海の各地震が今後30年以内にそれぞれ、88%、70%、60%の高い確率で起きると予測している。

対策は待ったなしである。

産経新聞 2013年03月19日

南海トラフ地震 被害を最小にする対策を

日本の大動脈である太平洋ベルト地帯を、南海トラフで起こりうる「最大級の巨大地震・津波」が直撃した場合の被害想定が公表された。

住宅や工場、事業所などが地震の揺れや津波で破壊される直接被害が約170兆円。産業活動の低下や交通の寸断により全国に波及する損失が約50兆円と推計された。

220兆円に上る経済被害は東日本大震災の10倍、首都直下地震の被害想定の2倍に当たる。昨年8月に公表された人的被害では、死者は最大で32万人に達する。

まさに「国難」である。

想定された「最大級の地震・津波」は、東海・東南海・南海の3地震が同時発生する従来の連動型地震モデルに、最新の科学的知見の範囲で考えられる限りの被害拡大要因を加えたものだ。歴史的にこのような巨大地震が起きた履歴はなく、今後起きるとしても、その確率は極めて低いことは留意しておくべきだ。

一方、南海トラフの次の活動は確実に迫っている。たとえマグニチュード(M)9クラスの最大級でなくても、東海・東南海・南海地震が連動する可能性はあり、その場合、大規模な地震・津波は起こる。「最悪の想定」を念頭に、被害を最小化させる対策を講じることが肝要だ。

津波避難の迅速化と耐震化率の向上で、人的被害も経済的損失も劇的に減らすことができる。自治体や各家庭で着実に前進させてもらいたい。

広域にわたる自治体間の支援態勢確立など、国が主導すべき課題も多い。中でも、大規模地震対策特別措置法(大震法)の抜本的見直しは急務だ。

現行法は、東海地震だけを対象に「直前予知」を目指しているため、東海・東南海・南海地震の連動型には対応できない。また、阪神大震災や東日本大震災では役には立たなかった。

南海トラフの海溝型地震の前後数年は、内陸直下型地震が多発する傾向がある。南海トラフ地震を対象とする新たな特別法では、連動型巨大地震だけでなく、時間差発生や内陸直下型にも対応できる柔軟性が求められる。

遠くない将来の国難を乗り切るには、大地震の前兆を捉える極めて難しい「直前予知」に依存しないことを原則に、地震防災態勢を再構築しなければならない。

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