コンクラーベ 人々に寄り添う法王を

朝日新聞 2013年03月02日

コンクラーベ 人々に寄り添う法王を

ローマ法王ベネディクト16世が退位し、新法王を選ぶ「コンクラーベ」が開かれる。

一つの宗教の頂点にすぎないが、行動、メッセージの内容は大きな影響力を持つ。

経済のグローバル化による貧富の拡大、恒常化する戦争や民族対立。変転の時代に人々の不安は増幅されている。新法王を待つのは厄介な世界だ。

約11億人の信者を擁すカトリックの指導者である法王は、初代がイエス・キリストに従った12使徒の一人ペトロ。動じない人になれ、と岩を意味する名をイエスがつけた。その殉教後も教えは信者を広げていく。

やがて絶大な権力を持つが、世俗権力が欧州各国で政治支配を強め、法王を圧倒するようになる。16世紀の宗教改革以降、キリスト教世界は分断し、力は相対的に落ちていった。

現代の教会が政治や軍事力をもたないソフトパワーであることを逆手にとって、影響力を使ったのが、8年前に亡くなったヨハネ・パウロ2世だ。若いときはナチズムに抵抗し、即位してからは世界を飛びまわって全体主義を否定し、平和のかけがえなさを訴えた。

死去の折、朝日新聞の社説は「ソ連圏の共産党独裁体制に敢然と戦いを挑み、ついに瓦解(がかい)に導いたことで歴史に刻まれる」と悼んだ。

米国への同時テロ後の動きも際だった。報復戦へ動く米ブッシュ政権を制するように、イラクに使者を派遣、和解を求める声明を相次いで出した。

戦争は止められなかった。しかし法王の反対は、戦争が「キリスト教とイスラム教の文明の衝突」へとさらに深刻化することを阻む力になった。

ベネディクト16世は学者肌で知られた。けれども、ユダヤ人虐殺の時代の反省に厳格でないと批判されたり、前任者が積極的に進めたイスラムなど他宗教との対話を「ジハード(聖戦)批判」の発言などで冷え込ませたりした。法王庁のスキャンダルにも見舞われ、最後は打つ手もないままに疲れたようにみえる。一般世界への働きかけは先代より後退した。

教会には国家のような力はない。だからこそ、力の横暴に苦しむ人たちによって立ち、守る壁になれる。子どもや老人など弱き者の声を代弁できる。

女性司祭任用、産児制限や避妊への対応など、新法王を待つ難題は多い。

教会の都合だけで選ばれるべきではない。世の苦悩は深い。弱く悩める人に寄り添う同行者のような人を待ちたい。

毎日新聞 2013年03月18日

新ローマ法王 歴史的な変革の予感

第266代ローマ法王にアルゼンチンのホルヘ・マリオ・ベルゴリオ・ブエノスアイレス大司教(76)が選出され、フランシスコ1世を名乗ることになった。約12億人の信徒を抱えるキリスト教カトリック教会の頂点に中南米出身者が立つのは初めてだ。欧州出身でない法王は8世紀のグレゴリウス3世(シリア出身)以来。カトリック教会の歴史的な変革の到来を予感させる。

法王は終身制が通例だが、前任のベネディクト16世(85)は2月末、高齢を理由に約600年ぶりに生前退位した。後継者を決める法王選挙会議(コンクラーベ)は、法王に次ぐ高位聖職者である枢機卿115人が参加して12日に始まり、2日目にスピード決着した。

欧州、北米、中南米、アフリカ、アジア、オセアニアの6地域の中で、中南米のカトリック信者は約4億8000万人と最も多い。欧州偏重の法王庁(バチカン)の伝統を崩す中南米出身の法王誕生は時間の問題だったが、ようやく実現した。

フランシスコ1世は今回、事前の予想では名前が挙がっていなかったが、前回05年のコンクラーベでは法王に選ばれたベネディクト16世に次ぐ得票だったと言われている。大司教用の公邸住まいを断って質素な生活を送り、社会的弱者の救済に力を入れてきた。布教と清貧を旨とし、日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルらが創設したイエズス会に21歳で入会している。イエズス会出身の法王は史上初めてだ。

バチカンの内紛や不透明な資金運用が伝えられ、聖職者による性的虐待が露見する中で、カトリック教会は閉鎖的な体質の改革が求められている。禁じられている司祭の結婚や女性司祭、同性婚の容認を求める声も上がっている。新法王フランシスコ1世の姿勢を見守りたい。

カトリック教会の指導者であるローマ法王には、世界平和を促す役割も期待されている。世界各地を訪れ「空飛ぶ聖座」と呼ばれたヨハネ・パウロ2世(在位1978~2005年)は、東西冷戦の終結に陰で貢献したとされ、広島、長崎を訪れて核兵器廃絶を訴え、米国のイラク戦争に反対した。政治的な力は別にして、信者に限らず、一般市民に対するローマ法王の精神的な一定の影響力は無視できない。

中国、ロシアとの関係も課題だ。法王は世界最小の国家バチカン市国の元首でもあるが、バチカンに司教の任命権を認めない中国とは国交がない。ソ連時代に国交のなかったロシアとは09年に国交を樹立したが、ロシア正教会との和解が進まず法王の訪問は実現していない。新法王の外交への取り組みにも注目したい。

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