デフレ脱却を目指す安倍内閣の経済政策「アベノミクス」への期待が、今年の春闘に好影響を与えたのだろう。
日本では長年にわたり、賃金の下落傾向が続き、デフレが長期化する一因となってきた。賃上げを消費拡大と景気回復につなげることが重要である。
春闘相場に影響を与える大手の自動車や電機各社は、定期昇給や年間一時金(ボーナス)を労働組合に一斉回答した。
トヨタ自動車など大半の自動車大手は一時金で満額回答し、リーマン・ショック前の2008年以来の水準となった。定昇や、これに相当する「賃金制度維持分」でも組合の要求をのんだ。
業績にばらつきがある電機では回答に差がついたが、定昇維持では足並みがそろった。一部企業が定昇凍結や賃下げした昨年春闘からは様変わりだ。
経営側が当初、「企業によっては定昇の延期・凍結もありうる」と厳しい姿勢を見せていたのと比べると大きな転換と言えよう。
その背景には、安倍政権誕生後に進んだ円安を追い風に、自動車や電機など輸出企業の採算が急速に改善している事情がある。
加えて、安倍首相や閣僚が、春闘中、経営側に賃上げを要請したことも効果的だった。
一部の経営側は首相らの要請を考慮したことを認めている。労働側が「一定の成果を確保した」と分析しているのはもっともだ。
製造業に先立ち、ローソンなどコンビニエンスストア業界でも賃上げが相次いだ。個人消費のテコ入れに先鞭をつけようとしたコンビニ業界の決断も評価できる。
ただし、アベノミクスは期待感が先行しており、必ずしも実体経済は本格的に回復していない。賃金を底上げするベースアップを行った企業はまだ少なく、中堅・中小企業に賃上げの動きが波及するかどうかは不透明だ。
円安進行は、燃料や輸入原材料価格の値上がりによるコスト高を招き、外食産業などの企業に逆風となることにも要警戒である。
大事なのは、ようやく出てきた賃上げの動きを着実な景気回復という好循環につなげていく政府・日銀の連携の強化だ。
政府は6月、再生医療の実用化などを柱とする成長戦略をまとめる方針だ。企業の競争力強化や、成長産業の育成など具体的な成果を期待したい。
大胆な金融緩和と機動的な財政出動と併せ、日本経済の活性化を加速しなければならない。
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