春闘回答 賃上げを景気回復の糸口に

毎日新聞 2013年03月17日

春闘回答 政府が介入すべきは

当初は経営側が定期昇給の見直しを示唆する中で今春闘は始まったが、ふたを開けてみれば小売業界を中心に大幅な賃上げ回答が相次ぎ、総じて労組側に成果の多い展開となった。業績によって企業間の格差はあるものの、安倍晋三首相や閣僚からの賃上げ要請が追い風となったのは確かだ。

このところの春闘といえば労組側にとっては防戦に追われる苦しい状況が続いた。企業は国際競争に勝つために非正規社員の比重を増やし、正規社員の賃金を抑制してコスト削減に努めてきた。そのために労働者の所得は減って消費は冷え込み、国全体の経済が沈滞して企業の経営状況にも悪影響を及ぼしてきた。16年前からの賃金下落はこうした悪循環の中で続いてきたのである。

個々の企業が生き残るための合理的行動が社会全体ではマイナスに向かい、結果として個々の企業の首を絞める。そうした現実を見れば、悪循環からの脱出を公的政策に求めるのは自然な流れだ。私企業の労使交渉に政府が介入することには経営側だけでなく労組側にも警戒感が強いが、政府の介入を排除して労使交渉を繰り返しているだけでいいのか考えるべき時ではないか。

安倍政権による物価上昇目標を掲げた金融政策、10兆円を超す補正予算を組むなどの財政出動の結果として円安・株高となり、輸出型産業を中心に業績回復が見られるようになった。どこまで持続するのか、懐疑的な見方も根強いが、エネルギーや食料の値上がり、将来世代が払うべき借金を積み増すという代価を払ったことへの見返りとしての円安・株高である。たとえ短期的にしろ潤っている企業が働く人々の所得を増やすのは当然ではないか。渋っている経営側に政府が賃上げを要請することもおかしいとは思えない。

グローバル化が進展し不確実な要素によって各国の経済が影響されるようになった。政府の経済政策が企業活動や労働条件の改善と緊密に連動しなければ、世界経済の急激な変化に対応し、有効な政策効果を上げることはできないだろう。

その上で、政府の介入がもっと必要なのは非正規社員対策であることも指摘したい。今春闘で連合は非正規社員の待遇改善策として正社員化へのルールや昇給制度の明確化、社会保険適用拡大などを主要な課題に掲げた。しかし、労使交渉になると正社員の賃上げに関心や労力が注がれているのが現実ではないか。労組に入っていない非正規社員の改善にどこまで成果があったのか、冷静な分析が必要だ。被用者全体の35%を占める非正規社員こそ、政府が責任を持って改善すべき対象だ。

読売新聞 2013年03月14日

春闘回答 賃上げを景気回復の糸口に

デフレ脱却を目指す安倍内閣の経済政策「アベノミクス」への期待が、今年の春闘に好影響を与えたのだろう。

日本では長年にわたり、賃金の下落傾向が続き、デフレが長期化する一因となってきた。賃上げを消費拡大と景気回復につなげることが重要である。

春闘相場に影響を与える大手の自動車や電機各社は、定期昇給や年間一時金(ボーナス)を労働組合に一斉回答した。

トヨタ自動車など大半の自動車大手は一時金で満額回答し、リーマン・ショック前の2008年以来の水準となった。定昇や、これに相当する「賃金制度維持分」でも組合の要求をのんだ。

業績にばらつきがある電機では回答に差がついたが、定昇維持では足並みがそろった。一部企業が定昇凍結や賃下げした昨年春闘からは様変わりだ。

経営側が当初、「企業によっては定昇の延期・凍結もありうる」と厳しい姿勢を見せていたのと比べると大きな転換と言えよう。

その背景には、安倍政権誕生後に進んだ円安を追い風に、自動車や電機など輸出企業の採算が急速に改善している事情がある。

加えて、安倍首相や閣僚が、春闘中、経営側に賃上げを要請したことも効果的だった。

一部の経営側は首相らの要請を考慮したことを認めている。労働側が「一定の成果を確保した」と分析しているのはもっともだ。

製造業に先立ち、ローソンなどコンビニエンスストア業界でも賃上げが相次いだ。個人消費のテコ入れに先鞭(せんべん)をつけようとしたコンビニ業界の決断も評価できる。

ただし、アベノミクスは期待感が先行しており、必ずしも実体経済は本格的に回復していない。賃金を底上げするベースアップを行った企業はまだ少なく、中堅・中小企業に賃上げの動きが波及するかどうかは不透明だ。

円安進行は、燃料や輸入原材料価格の値上がりによるコスト高を招き、外食産業などの企業に逆風となることにも要警戒である。

大事なのは、ようやく出てきた賃上げの動きを着実な景気回復という好循環につなげていく政府・日銀の連携の強化だ。

政府は6月、再生医療の実用化などを柱とする成長戦略をまとめる方針だ。企業の競争力強化や、成長産業の育成など具体的な成果を期待したい。

大胆な金融緩和と機動的な財政出動と併せ、日本経済の活性化を加速しなければならない。

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