TPP参加表明 自由貿易推進で成長に弾みを

毎日新聞 2013年03月16日

TPP交渉参加表明 自由化の先導役を担え

安倍晋三首相が、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加を表明した。ようやく、アジア太平洋地域の貿易・投資ルールを決める交渉のスタートラインに立つことになる。

自民党や農業団体からは、関税撤廃の「聖域」確保を求める大合唱が起きている。しかし、国境の壁を引き下げ、この地域の活力を取り込むという本来の目的を忘れてはならない。首相は「国益にとって最善の道を目指す」と表明した。そのためには、高いレベルでの貿易・投資の自由化を先導する役割を担うべきだ。

参加表明にこぎ着けたのは、先の日米首脳会談で、全ての関税撤廃を前提とするものではないことを確認し、自民党の衆院選公約をクリアしたのに加え、米国との事前協議が大筋で決着したからだ。

政府は米国との協議で、米国の自動車関税撤廃に例外的な長期間の猶予を認めた。米国の「弱点」である自動車分野で一定の譲歩を示し、その見返りとしてコメなどを関税撤廃の例外として認めてもらおうとの思惑があるはずだ。

どんな貿易交渉でも国益のために譲れない品目はある。それを守り抜くのも政府の職責といえる。しかし、「聖域」獲得にばかり力を入れて、交渉参加の意味を見失っては元も子もない。

日本はこれまで13の国・地域と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結んだ。その中で、貿易品目の1割強に当たる900品目以上を関税撤廃の例外として守り続けてきた。そのうちの800品目余りが農産品で、コメだけでも加工品を含めると50品目を超える。

米国がこれまでに結んだ他国とのEPAやFTAで関税撤廃の例外にした品目は、最大でも全体の5%に満たない。日本の自由化レベルは、低かったということだ。

交渉で、農業分野が大きな焦点になるのは間違いない。そこで自民党は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなどの甘味資源作物についてTPPでも例外にするよう求めている。しかし、TPPでは関税撤廃が原則だ。「経済大国」である日本が従来通りの「聖域」維持を要求すれば、交渉に参加している新興国もそれにならって高率関税の温存を主張しかねない。

結果的に、高いレベルでの自由化を目指すTPPが有名無実化しては、貿易・投資を経済成長につなげるという日本の目的は果たせなくなる。政府が参加表明と合わせて発表した約3兆2000億円という国内総生産(GDP)の押し上げ効果も絵に描いた餅に終わるだろう。

安倍首相は「米国と共に新しい経済圏をつくる」と交渉に臨む決意を示し、TPPは「アジア太平洋地域の安全保障にも資する」と強調した。日米両国にとってTPPは、自由化のルールをアジア太平洋地域に広げ、中国を巻き込んでいく上でも重要な意味を持つ。

日本はこれと並行して、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国や中国、韓国、インドなどと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉なども進める。そこで自由化をリードするためにも、保護主義的な主張は慎む必要がある。

政府は国益のため真に欠かせない重要品目を峻別(しゅんべつ)したうえで、積極的な自由化交渉を進めるべきだ。

もちろん、自由化による打撃が避けられない品目に関しては、激変緩和のための支援や競争力強化策を速やかに打ち出すことも必要だ。

政府は農業を成長産業と位置付け、改革を加速させる考えを示している。高齢化、後継者不足が深刻な農業の改革は、いずれにしても待ったなしといえる。「聖域」化をあてにして、具体策の検討がおろそかになってはならない。

反省すべき前例もある。90年代に決着した関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドで日本は、関税化の猶予を認めてもらう代償として一定数量の輸入を義務づけるミニマムアクセスを受け入れ、実質的にコメ市場を開放した。

その際、政府は農業強化策として6兆円余りをつぎ込んだ。しかし、「コメ市場開放を前提とした対策の検討は敗北主義だ」とする強硬派の勢いにおされ、具体的な政策の検討が不十分だった。そのために、農業の競争力強化には結びつかず、「ばらまき」という批判ばかりが残った。その轍(てつ)を踏んではならない。

今回は麦や乳製品、サトウキビなどでも厳しい交渉が予想される。それらの主産地である北海道、九州・沖縄など地方経済への影響も精査し、対策も検討すべきだろう。

一方、TPP交渉への参加については、国民の間に根強い慎重論があることも否定できない。とりわけ、企業が投資先国から不利な扱いを受けた場合に、国際仲裁機関に提訴できる「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」や、医療保険制度などをめぐる不安は根強い。

参加が認められれば、政府は交渉の全体像を詳細に把握できるはずだ。国民の理解を得る努力も忘れてはならない。

読売新聞 2013年03月16日

TPP参加表明 自由貿易推進で成長に弾みを

◆国家百年の計へ交渉力発揮せよ◆

自由貿易と投資を拡大し、アジアの活力を取り込むことが、日本の経済成長に欠かせない。そのための大きな一歩となるだろう。

安倍首相は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明した。

菅政権で検討を開始して以来、約3年間、意見集約が難航した。首相の政治決断を評価したい。

首相は記者会見で、「TPP交渉参加は国家百年の計だ。今を逃すと日本は世界のルール作りから取り残される」と指摘した。

◆日米同盟の強化に寄与◆

TPPは米国、豪州、カナダなど11か国が関税、サービス、知的財産など29分野で交渉中だ。

首相が「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻められるものは攻める。国益にかなう最善の道を追求する」と強調したのはもっともである。遅れて参加する日本は不利な立場だが、「交渉力」を発揮してもらいたい。

政府は、TPP参加による経済効果の試算を公表した。

農林水産業の生産額は3兆円減るものの、消費拡大や輸出増加により、全体で国内総生産(GDP)を実質で3・2兆円押し上げるという。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」では中長期の成長戦略が問われる。そのエンジンとしてTPPを位置づけるのは妥当だ。

首相は、TPP参加が「安全保障やアジア太平洋地域の安定に寄与する」と語った。日米を軸にした自由貿易圏作りは、日米同盟を強化する効果も期待される。

民主党政権の稚拙な外交により日米安保体制は揺らいだ。その間隙を突くように、富国強兵路線を鮮明にする中国が日本の尖閣諸島国有化に反発し、監視船による領海侵犯を繰り返すなど、東アジア情勢を不安定化させている。

台頭する中国に国際ルールの順守を求めるには、緊密な日米連携が不可欠である。

そもそも、首相がTPP交渉参加を決断できたのは、2月のオバマ米大統領との首脳会談で「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と確認したことが大きかった。

TPPは関税撤廃が原則だが、交渉次第で例外品目を獲得できることが明確になったからだ。

◆国益として何を守るか◆

「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」としていた自民党の昨年の衆院選政権公約と矛盾しないように調整を進めた首相の戦略は巧みだった。

賛否両論が出る中、自民党がTPP交渉参加を容認する決議をまとめたことで、首相が最終的に決断を下す環境が整った。

自民党の決議は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産品の5項目の例外扱いと、国民皆保険制度の維持を最優先で求めたのがポイントだ。

首相は、17日の自民党大会で党内の結束を確認し、交渉に臨む考えだろう。

オバマ大統領は「交渉の年内妥結」を表明している。日本が実際に交渉に加わるのは7月ごろと見られ、残された時間は少ない。

首相は甘利経済再生相をTPP相に任命した。甘利氏が政府の司令塔となり、国益を反映した貿易・投資ルール作りに全力で取り組まなければならない。

攻防が予想されるのが、関税撤廃の例外品目の絞り込みだ。

日本はこれまでの通商交渉で、関税分類上、コメ、麦など農産品を中心に、全体の約1割に相当する約940品目の関税を一度も撤廃していない。

日本がどれだけ関税撤廃の例外を獲得できるかは不透明だ。カナダは乳製品、メキシコは繊維や靴など、各国とも例外扱いを望む品目がある。

日本は米国との事前協議で譲歩し、米国が乗用車とトラックにかけている輸入関税の撤廃を当面猶予する方向で大筋合意した。日本はその見返りに、米国から農産品で譲歩を引き出すべきだ。

◆農業強化策が急務だ◆

一層の市場開放に備えた農業の競争力強化が急務である。TPP交渉参加とは関係なく、高齢化が進む日本農業の現状は厳しい。

首相が「ピンチではなく、むしろ大きなチャンス」と指摘したように、政府は担い手農家育成などの政策に注力し「攻めの農業」を推進することが求められる。

日本は近く、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉開始に合意し、日中韓の交渉もスタートさせる予定だ。TPPで反転攻勢をかけるとともに、他の交渉も加速し、通商政策を巻き返さなければならない。

産経新聞 2013年03月16日

TPP交渉参加 「未来の繁栄」の突破口に 離脱の選択肢はあり得ない

安倍晋三首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明し、「アジア太平洋の未来の繁栄を約束する枠組み」と述べた。TPP参加は、日本が抱える長期デフレ、少子高齢化による内需縮小、国際競争力の低下などの難題を突破する切り札として期待できる。

まだ、交渉の場に立ったにすぎないとはいえ、大きな一歩を踏み出したことを歓迎する。

自民党内の反対が強いTPP交渉への参加は、政権発足時に「7月の参院選後」と予想された。それに比べると大幅な前倒しだ。2月の日米首脳会談で「全ての関税撤廃を約束するものではない」との共同声明を発表した後、高い支持率を背景に一気に党内をまとめた首相の決断を評価したい。

◆規制改革のテコにせよ

もちろん、楽観は全く許されない。交渉を進める11カ国による承認手続きなどは進んでいる。実際に日本が交渉に加わるのは、早くても7月ごろとみられ、出遅れは覆うべくもない。

多国間交渉では、先行グループが後から加わった国よりも有利なのは当然だ。日本が出発点から不利な状況にあることは甘受せねばなるまい。首相がいう「民主党政権にはない自民党の交渉力」が試されるのは、これからだ。

アジア太平洋を舞台に、農産品や工業製品など幅広い分野で関税を撤廃し、サービス、投資などでも共通のルールをつくるのがTPPだ。

日本を加えた12カ国の国内総生産(GDP)は約27兆ドル、全世界のGDPの4割を占める。しかも、この巨大な自由貿易圏は今後さらに成長が見込まれる。日本のGDPを3・2兆円押し上げるともいう。

人口減時代を迎え、国内市場の拡大が難しい日本は、その活力を取り込み、外に向かって経済を開く契機にしなければならない。

TPPのルールづくりの過程で日本国内に存在するさまざまな無用の規制があぶりだされれば、安倍政権の「脱デフレ3本目の矢」となる規制緩和を中心とした成長戦略のテコにもなるだろう。

だが、こうした通商政策、経済活性化策としてとらえると同時に、中国をにらんだ戦略的な意味に、目を向けるべきだ。

首相がTPPを「同盟国である米国とともに新しい経済圏を作る」と位置づけたのは重要だ。

中国は、その経済力と軍事力を背景に、アジア太平洋地域への影響力を強めている。中国抜き、米国主導のTPPへの参加は、同地域の経済秩序を、中国の覇権ではなく、日米豪などを中心とした自由主義経済の枠組みとし、共有することにほかならない。

オバマ政権は中国を見据えたアジア太平洋戦略の中核にTPPを据えている。日本と米国が結束し、TPPの存在感を高めれば中国牽制(けんせい)の効果も持つだろう。

◆対中戦略の意味大きい

中国もTPPを警戒しているのは間違いない。それは当初、消極的だった日本、韓国との自由貿易協定(FTA)や東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とした東アジア包括的経済連携(RCEP)に意欲的になったのが、米国のTPP参加の動きが出てきた後だったことを見ても明らかだ。

民主党政権の菅直人元首相が参加検討を表明して約2年半、TPP反対論は収まらない。とくに農産品の関税撤廃を警戒する農業団体、国民皆保険制度の崩壊につながりかねないと主張する日本医師会など自民党支持団体の強い抵抗は今後も続くだろう。

主張すべきは主張し、守るべきは守り、譲るべきは譲る。これは全ての外交交渉に通じる姿勢だ。そのさい常に国益に資する判断を行わなければならない。

強調しておかねばならないことがある。自民党はTPP交渉参加に関する委員会の決議で、聖域(死活的利益)確保を最優先し、それができないならば離脱も辞さない、としたが、日本にとってTPPに加わらない選択肢はあり得ないということである。

これまでのTPPをめぐる議論は参加のメリット、デメリットに終始し、貿易立国や対中戦略の観点からほとんど語られなかった。首相が提起した「アジア太平洋の安全への寄与」という視点で国内議論を深めていけば、おのずと「TPP参加」は正しいという結論が導かれよう。

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