◆国家百年の計へ交渉力発揮せよ◆
自由貿易と投資を拡大し、アジアの活力を取り込むことが、日本の経済成長に欠かせない。そのための大きな一歩となるだろう。
安倍首相は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明した。
菅政権で検討を開始して以来、約3年間、意見集約が難航した。首相の政治決断を評価したい。
首相は記者会見で、「TPP交渉参加は国家百年の計だ。今を逃すと日本は世界のルール作りから取り残される」と指摘した。
◆日米同盟の強化に寄与◆
TPPは米国、豪州、カナダなど11か国が関税、サービス、知的財産など29分野で交渉中だ。
首相が「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻められるものは攻める。国益にかなう最善の道を追求する」と強調したのはもっともである。遅れて参加する日本は不利な立場だが、「交渉力」を発揮してもらいたい。
政府は、TPP参加による経済効果の試算を公表した。
農林水産業の生産額は3兆円減るものの、消費拡大や輸出増加により、全体で国内総生産(GDP)を実質で3・2兆円押し上げるという。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」では中長期の成長戦略が問われる。そのエンジンとしてTPPを位置づけるのは妥当だ。
首相は、TPP参加が「安全保障やアジア太平洋地域の安定に寄与する」と語った。日米を軸にした自由貿易圏作りは、日米同盟を強化する効果も期待される。
民主党政権の稚拙な外交により日米安保体制は揺らいだ。その間隙を突くように、富国強兵路線を鮮明にする中国が日本の尖閣諸島国有化に反発し、監視船による領海侵犯を繰り返すなど、東アジア情勢を不安定化させている。
台頭する中国に国際ルールの順守を求めるには、緊密な日米連携が不可欠である。
そもそも、首相がTPP交渉参加を決断できたのは、2月のオバマ米大統領との首脳会談で「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と確認したことが大きかった。
TPPは関税撤廃が原則だが、交渉次第で例外品目を獲得できることが明確になったからだ。
◆国益として何を守るか◆
「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」としていた自民党の昨年の衆院選政権公約と矛盾しないように調整を進めた首相の戦略は巧みだった。
賛否両論が出る中、自民党がTPP交渉参加を容認する決議をまとめたことで、首相が最終的に決断を下す環境が整った。
自民党の決議は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産品の5項目の例外扱いと、国民皆保険制度の維持を最優先で求めたのがポイントだ。
首相は、17日の自民党大会で党内の結束を確認し、交渉に臨む考えだろう。
オバマ大統領は「交渉の年内妥結」を表明している。日本が実際に交渉に加わるのは7月ごろと見られ、残された時間は少ない。
首相は甘利経済再生相をTPP相に任命した。甘利氏が政府の司令塔となり、国益を反映した貿易・投資ルール作りに全力で取り組まなければならない。
攻防が予想されるのが、関税撤廃の例外品目の絞り込みだ。
日本はこれまでの通商交渉で、関税分類上、コメ、麦など農産品を中心に、全体の約1割に相当する約940品目の関税を一度も撤廃していない。
日本がどれだけ関税撤廃の例外を獲得できるかは不透明だ。カナダは乳製品、メキシコは繊維や靴など、各国とも例外扱いを望む品目がある。
日本は米国との事前協議で譲歩し、米国が乗用車とトラックにかけている輸入関税の撤廃を当面猶予する方向で大筋合意した。日本はその見返りに、米国から農産品で譲歩を引き出すべきだ。
◆農業強化策が急務だ◆
一層の市場開放に備えた農業の競争力強化が急務である。TPP交渉参加とは関係なく、高齢化が進む日本農業の現状は厳しい。
首相が「ピンチではなく、むしろ大きなチャンス」と指摘したように、政府は担い手農家育成などの政策に注力し「攻めの農業」を推進することが求められる。
日本は近く、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉開始に合意し、日中韓の交渉もスタートさせる予定だ。TPPで反転攻勢をかけるとともに、他の交渉も加速し、通商政策を巻き返さなければならない。
この記事へのコメントはありません。