震災と非常事態 災対法の抜本改正を急げ

読売新聞 2013年03月10日

自衛隊震災派遣 平時から自治体と連携深めよ

2年前の様々な教訓を震災対処計画に反映し、自治体などと訓練を繰り返して、緊急時に備えることが肝要である。

自衛隊にとって、東日本大震災は初めての体験が五つも重なった。

過去最大の10万人体制による被災者救出・支援活動、陸海空3自衛隊の本格的な統合部隊の編成、日米共同のトモダチ作戦、予備自衛官の招集、地震・津波と原発事故対処の2正面作戦である。

防衛省には当時、首都直下地震など3種類の巨大地震の対処計画があったが、日本海溝・千島海溝の地震の計画は作成中だった。

それでも、首都直下地震の計画を準用することで、全国からの応援部隊の派遣や関係機関との調整が比較的迅速に実施できた。

昨年末に改定された首都直下地震の計画は、大震災の経験を踏まえ、統合部隊編成や日米共同対処を前提とした。今後、南海トラフ巨大地震の計画も策定する。

重要なのは、自衛隊と自治体などが平時から緊密に連携し、必要な資機材や食料などをそろえ、震災対処体制を強化することだ。

大震災時に前線本部となった陸上自衛隊東北方面総監部(仙台市)は、2011年9月に自治体や警察・消防・海上保安部と教訓検討会、今年1月には情報共有や医療連携の図上演習を実施した。

13年度は、より大規模な図上演習、14年度は2万~3万人規模の実動訓練へと発展させる。

災害時の人命救助は、「黄金の72時間」と呼ばれる初動がカギとなる。停電などで有線・無線通信が途絶した時、いかに緊急通信手段を確保し、被災状況を把握して部隊を効率的に動かすか。

まず対処計画を練り、訓練を実施する。そこで明らかになった問題点を改善するため、体制を見直し、計画も練り直す――。

このサイクルを重ねる地道な作業こそが、より多くの被災者を救えることにつながろう。

ある陸自幹部は「我々は訓練したことしか、実施できない。その覚悟で訓練内容を考え、訓練に臨んでいる」と語る。こうした強い問題意識が訓練を充実させる。

自衛隊は大震災後、災害時に様々な関係機関との協力を可能にする協定を大幅に増やした。

高速道路会社との協定は、自衛隊車両の緊急通行やサービスエリアの優先使用を可能にする。民間の大手スーパーは、食料など緊急物資の提供を約束している。

これらの協力のネットワークを着実に拡大することが大切だ。

産経新聞 2013年03月10日

震災と非常事態 災対法の抜本改正を急げ

東日本大震災から2年、緊急事態に関する法整備が少しずつ進んでいるが、まだ不十分である。とりわけ、重大な不備が指摘されている災害対策基本法(災対法)の抜本改正が急務だ。

一昨年3月の東日本大震災で、当時の菅直人・民主党政権は国会開会中などを理由に災対法に基づく「災害緊急事態」布告を見送り、「重大緊急事態」に対処する安全保障会議も開かなかった。

菅元首相は国家の指導者として不作為責任を免れないが、災対法などに使い勝手の悪い面があったことも否定できない。

災対法については昨年6月、被災自治体の要請を待たずに国や都道府県が物資を支援したり、被災者の受け入れを円滑に進めたりするための改正が行われた。

その後、政府の防災対策推進検討会議が、非常時の私権制限の必要性にも踏み込んだ重要な最終報告をまとめたが、これはまだ法改正に至っていない。

最終報告は現行の災対法が緊急措置に関し、生活必需品の配給制限や債務の返済猶予など経済的な対応に限っている問題点を挙げ、「帰宅困難者対策や治安維持」の観点から、私権制限の範囲拡大を検討すべきだとした。緊急事態布告に基づく政令制定が、国会閉会中か衆院解散中などの時期に限られている問題点も指摘した。

東日本大震災では、緊急事態布告が見送られたため、被災地でガソリンや医薬品が不足し、救援活動に支障が出る事態が生じた。

安倍晋三政権は、この最終報告に基づく災対法の改正を今国会で実現してほしい。

これまでも、緊急事態に対処するための法整備の検討はしばしば行われてきた。だが、非常時においても基本的人権を過度に重視する傾向がみられ、抜本的な改正には踏み出せなかった。

国際人権規約第4条は、非常事態が宣言された際の一時的な自由・権利の制限を認めている。これにのっとった法改正は、非常事態規定が著しく不備な現行憲法の改正を待たなくても可能である。

現行憲法は非常時について、54条で衆院解散中の参院の緊急集会しか規定していない。このような欠陥憲法は、世界で皆無に近い。やはり、憲法を改正し、テロや外国の武力攻撃も含めた国家非常事態における政府の対処のあり方を明記する必要がある。

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