マイナンバー制 将来像も含め議論を

毎日新聞 2013年03月05日

マイナンバー制 将来像も含め議論を

国内居住者全員に番号を割り当てる社会保障・税の共通番号(マイナンバー)制度を創設する法案が国会に提出された。納税や年金の受け取りなどの際に活用するもので、行政サービスのコストが下がり、国民の利便性が向上し、記載の誤りなど行政処理のミスがなくなるのであれば、歓迎できる。

一方で個人情報が一元的に管理されることへの懸念や、将来、民間分野を含め、どこまで番号の利用が拡大されるのか分からないことに対する不安もある。国民の関心や理解が深まるような国会審議を望みたい。

政府の計画によれば、15年10月に、全国民と中長期滞在の外国人に対し、それぞれの識別番号が通知され、16年1月から行政機関での利用が始まる。顔写真付き「個人番号カード」の付与も予定され、システムの整備などに2000億~3000億円が投入される見通しだ。

当初は、納税や年金・健康保険の保険料納付・受け取りをはじめ、生活保護や児童手当などさまざまな政府からの給付の手続きで番号を活用することになる。複数の役所に分かれた情報を照合するのにかかっていた手間が省かれ、利用者も申請に必要な書類を集めに何カ所も窓口を訪ね歩く必要がなくなるという。

だが、3000億円という投資に見合うメリットがあるのか分からない。利用範囲が狭いままでは恩恵も限定的だろうが、他方、野放図に利用を広げると、個人情報の管理や不正利用への不安も膨らむ。医療分野への適用や民間企業による活用については将来の議論に委ねるというが、制度の創設前に、将来像や民間利用の原理原則をできるだけ明確にしておいた方がよい。なし崩しで利用範囲が拡大するようでは問題だ。

公正な税負担や各種手当の不正受給を防ぐ上で欠かせない所得の正確な把握を、どのように実現するかも、議論が必要だろう。

個人が社会保障の負担・受益など自らの情報に簡単にアクセスできるようになる制度でもある。政府の誰がいつ自分の情報を閲覧・利用したかを知ることも可能になる。インターネットを使い国民が自分の個人情報を管理・監視する仕組みだ。

国民の主体的参加が広がることは、不正利用への抑止力となる。だがそれには、制度が十分周知されていることや、行政による情報利用を本人が閲覧するシステムにできるだけ例外がないこと、などが必要だ。

自民、公明、民主の3党協議を踏まえた法案であるだけに成立する公算が大きい。だが、国民の支持がなければ制度は育たない。国会審議を通じ、国民の「何のために?」「大丈夫?」の声に答えてほしい。

読売新聞 2013年03月06日

共通番号法案 今国会こそ確実に成立させよ

政府は、国民一人ひとりに番号を割り振る「共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)」を再度、国会に提出した。

与野党の多くは、制度の必要性を認めている。早期に審議入りし、今度こそ確実に成立させるべきだ。

この制度は、顔写真やIC(集積回路)チップの入った「個人番号カード」を交付し、行政機関が社会保障制度と納税を個人番号で管理する仕組みだ。2016年からの利用開始を目指している。

野田内閣が昨年、法案を社会保障と税の一体改革関連法案とともに国会に提出したが、年末の衆院解散で廃案になった。自民、公明、民主3党が法案を修正し、政府が出し直した。

制度導入に伴う国民生活上のメリットは大きい。複雑な社会保障給付の申請手続きが大幅に簡素化されるからだ。

例えば、年金の給付を申請する際、現在、住民票と所得証明書などを提出しなければならないが、その手間や費用が不要になる。

国民は、個人用ウェブサイトを使って、自宅のパソコンから社会保障や税に関する自分の情報を見ることができる。年金の記録漏れを自ら監視することも可能だ。

手続きに時間や費用がかかっている社会保障給付など、行政のコスト削減効果も期待されよう。

国や市町村が個人の納税記録や所得情報を把握し、税を公平に徴収する環境が整う。所得の過少申告や税の不正還付を防ぐ有力な手段にもなる。

共通番号を活用し、低所得者らに対するきめ細かな社会保障給付を行うべきだ。消費増税の際、逆進性を緩和するための「給付付き税額控除」を導入する場合にも、共通番号が欠かせない。

国会審議の焦点は、個人情報をいかに保護するかである。信頼できるシステム構築が肝要だ。

情報漏えいを監視するため、法案が独立性の高い委員会の設置を盛り込んだのは妥当と言える。

委員会には強力な調査権限が付与され、不正があった場合に勧告や命令ができる。違反者には刑事罰も科す。番号の管理を徹底し、不正利用を防がねばならない。

番号を利用する適用範囲の拡大も将来的な課題になる。法案は診療情報を利用対象としていないが、いずれ検討すべきだ。

患者が複数の医療機関で重複検査・投薬を受ける無駄を省く仕組みに生かすことも有益だろう。

国民が納得できるよう、与野党は審議を尽くしてもらいたい。

産経新聞 2013年03月08日

マイナンバー 使いやすい制度に工夫を

全国民に番号を割り振り、社会保障や納税などの行政情報を一元管理する、共通番号制度(マイナンバー)関連法案が再び国会に提出された。

行政事務の効率化や手続きの簡素化などにつながる制度である。昨年の国会では、与野党の調整がつかず廃案になった。今度こそ法案を成立させなければならない。

欧米ではすでに同様の制度が普及している。個人情報の漏洩(ろうえい)や不正利用などの防止を徹底しつつ、社会的な基盤として積極的に活用すべきだ。国民の理解を得たうえで、利用対象を民間などに広げることも検討してもらいたい。

マイナンバーは、顔写真が付いたICカード(個人番号カード)を交付し、健康保険料の納付や年金の受給手続き、納税などを一括して管理する仕組みだ。

複数の行政機関が個別に管理していた情報をまとめるから、二重受給などの不正防止や国や地方の行政の効率化につながる。自営業者らに対する課税の公平性を確保することにも役立つという。

国民の利便性も高まる。

例えば、現在は年金などの受給申請には、納税証明書や源泉徴収票を提出する必要がある。利用が始まる平成28年からは、このカードを窓口に提出すれば手続きが可能になる。自宅のパソコンで自分の情報を確認でき、納税や年金記録も把握しやすくなる。

個人情報の漏洩や不正利用の監視機関として独立性が高い委員会を設け、不正利用した公務員への罰則規定も盛り込んだ。行政機関の情報利用や管理などに問題があれば、是正を求められる実効的機能の付与なども検討すべきだ。

それでも実際に制度が施行されれば問題も生じてこよう。制度を軌道に乗せるには、こうした問題点を不断に見直し、国民の信頼獲得に努めることが欠かせない。

マイナンバーの情報管理システムの構築には2千億円余が必要という。投資を上回る行政経費の削減につなげなければならない。

政府は、マイナンバーを当面は行政機関の利用に限定し、3年後に利用範囲を見直すという。民間企業の利用は制度の普及には欠かせない。情報保護を徹底しながら利用の範囲を拡大してほしい。

来年4月には消費税増税が実施される。国民に負担増を求める以上、課税の適正化につなげる制度にも発展させていくべきだ。

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