米歳出削減 チキンレースいつまで

朝日新聞 2013年03月03日

米歳出削減 チキンレースいつまで

米国が、連邦政府の歳出を10年間で1・2兆ドル(約110兆円)、強制的に削減していく措置に入った。

オバマ大統領と民主、共和両党による財政再建に向けた協議が不調に終わったためだ。

年内は歳出の1割に相当する1100億ドルが削られる。内訳は国防費と、社会保障などその他の費目が半々。安全保障や経済に影響が広がる懸念がある。

大統領・民主党と共和党は不毛な非難合戦をやめ、混乱回避を最優先すべきだ。強制削減を打ち切るため、歳出見直しと増税のバランスに配慮した新しい財政再建策をまとめなければならない。

強制削減は昨年末の「財政の崖」の際に発動される予定だったが、2カ月先送りされ、回避策が探られてきた。オバマ政権と民主党が年内分の1100億ドル分の半分は増税で埋めるよう求めたのに対し、共和党は増税に猛反発し、決裂した。

削減の影響が大きいのは国防費だ。別に進む削減計画に今回が上乗せされるためで、オバマ政権は西太平洋や中東などで海軍の戦力が低下し、世界の安定に影響すると警告している。軍の職員80万人がレイオフを迫られるうえ、教員など他の政府職員の削減などにより国民生活への影響も予想される。

ただ、足元の金融・証券市場は平静だ。昨年末の「崖」では国内総生産が4%減るとされたが、今回は0・5%程度にとどまるとみられ、レイオフや補助金の削減なども実行はまだ先と踏んでいるからだ。

強制削減の仕組みは、一昨年の債務上限問題をめぐる混乱のなかで生まれた。与野党で抜本的な赤字削減策を作ることになり、失敗した時の「保険」として用意された。

ところが、大統領選を挟んで「大きな政府か小さな政府か」といった両党の溝は一向に埋まらず、「誰も望まない発動」(オバマ氏)に至った。

対立がこじれる背景には、今月27日に今年度の暫定予算の期限が切れる事情もある。大統領選を理由に棚上げされた本予算を改めて組む必要がある。

ここを入り口に包括的な財政再建策をまとめ、強制削減を葬り去れば望ましい決着だ。

しかし、雲行きは怪しい。共和党はここを「本番」とばかりに増税阻止と歳出削減の拡充を目指す構え。民主党も社会保障費などの削減には徹底抗戦の姿勢を崩さない。

今後も延々とチキンレースを続けるのでは、政府と議会が自らの信認をおとしめるだけだ。

毎日新聞 2013年03月04日

米・強制歳出削減 政治ゲームに終止符を

米国で政府予算の過激な圧縮が、ついに始まるのだろうか?

議会の民主、共和両党が財政改善策の期限内合意に至らなかったことを受け、オバマ大統領が手続きに従い、歳出の強制削減措置を発動した。途端に市民が痛手を実感するわけではないというが、だからといって政党間のにらみ合い、非難合戦を続けるのは有害で無責任だ。強制削減に代わる賢い財政改善策を早期に練り上げ、合意してもらいたい。

今回の強制歳出削減は、今年初めにかけて緊張が高まった「財政の崖」の一部にあたる。「崖」のうち、大型増税はぎりぎりの政治決着で回避されたが、歳出削減は合意期限を2月末に延ばしていた。

このままでは、10年間で計1.2兆ドル(約110兆円)の歳出削減が義務付けられることになる。今年度分は約850億ドル(約7.8兆円)だ。削減の半分が国防関連でまかなわれ、特に安全保障上の支障を懸念する声が国内外で高まっている。

生活や経済への悪影響もじわじわと広がるだろう。公務員の一時解雇をはじめ、空港管制業務の縮小で航空便の遅延・欠航も心配されている。いずれ妥協が成立するとの楽観論もあるが、不透明な状況が長引けば、消費や雇用の足を引っぱる。株式市場や為替相場を通じて、日本経済にも波及の恐れがある。

米政治の対立の構図は全くと言ってよいほど変わっていない。民主党が歳出削減に歳入増を組み合わせた財政再建を主張する一方、「小さな政府」を標ぼうする共和党は国防費を除いた歳出の大幅圧縮を求めている。追加増税には断固反対の構えだ。

具体的な影響が出始め、国民の非難が相手の党に向かうのを待って、交渉を優位に進めようというのでは、無駄な犠牲を払うことになる。

問題の多い強制歳出削減ではあるが、日本が見習ってよい点もある。財政の膨張を抑える、効力の強いルールが存在することだ。今回の措置はもともと、連邦政府の借金の上限を引き上げた際に、導入された。財政再建策を議会が自力で決められなければ、有無を言わさず歳出に大なたを振るうというものだ。あえて国防費への影響を大きくすることで、政治に妥協を迫る工夫も凝らした。

日本にはそうした財政再建のための“仕掛け”がない。あるのは、赤字の削減目標だけだ。安倍晋三首相の施政方針演説も、この目標にさらりと触れただけだった。

達成への具体策とそれを担保する措置を決める時だ。米国がそうであるように、政権に圧力をかけるのは野党の役目である。一方、米国にはさらに、与野党の歩み寄りで、仕掛けのパワーを実証してほしい。

読売新聞 2013年03月05日

米国歳出削減 大統領と議会は混乱収拾急げ

米国政府の歳出を強制的に削減する制度が発動された。オバマ米大統領と民主、共和両党は妥協点を探り、混乱の早期収拾を図るべきである。

歳出削減額は10年間で1・2兆ドル(約110兆円)に上り、2013会計年度(12年10月~13年9月)では、歳出の約1割に相当する850億ドルがカットされる。

強制削減制度は、財政再建を巡る11年夏の与野党攻防の際に設けられた。中長期的な財政赤字削減策をまとめられない場合、今年1月に発動する予定だった。

「財政の崖」をひとまず回避するため、発動期限は2か月先送りされたが、それでも大統領と与野党の協議が決裂し、発動を防げなかったのは深刻な事態だ。

大統領と与党・民主党は、富裕層への追加増税と歳出カットによる赤字削減を主張しているのに対し、共和党はあくまで、増税に反対する強硬姿勢を崩さない。

昨年の大統領選挙前からの根深い対立を浮き彫りにしている。

歳出の強制削減によって、ただちに米国経済や国民生活に不都合が生じるものではないが、発動が長期化すれば、影響は内外に広がる。要警戒である。

例えば、国防費削減で米軍の職員約80万人が一時帰休を強いられて、西太平洋や日本などの安全保障に支障が生じかねない。

航空管制官の削減で管制塔が閉鎖したり、教員が大量解雇されたりする事態も現実味を帯びる。

ようやく景気回復の傾向が出てきた米国経済の足を引っ張り、世界経済にも打撃を与えそうだ。

今年度予算はまだ成立せず、暫定予算の失効が27日に迫っている。それまでに本予算も新たな暫定予算も決まらないと、政府窓口の一部閉鎖という、さらなる混乱に拡大するだろう。

当面の焦点は、そうした悪影響が広がる前に、対立に終止符を打てるかどうかである。

大統領と議会の責任は重大だ。不毛な非難合戦を続けるのではなく、財政再建と経済成長を両立させる抜本策について、速やかに歩み寄ることが肝要だ。

財政を巡る懸案は多い。5月半ばまでに連邦債務上限を引き上げられない場合、債務不履行(デフォルト)に陥る恐れすらある。

大統領と与野党はこれまで、協議が行き詰まるごとに、問題先送りを繰り返してきた。だが、その場しのぎの策では、根本的な解決にならない。

「決められない政治」から脱することが厳しく問われよう。

産経新聞 2013年03月04日

歳出強制削減 世界経済への責任果たせ

米連邦予算の強制削減が発動された。削減される歳出の規模は10年間で1・2兆ドルに達する。

オバマ米大統領と議会指導部の強制削減回避に向けたぎりぎりの財政再建協議が、与野党による短時間の主張に終わったのは残念でならない。

強制削減発動は今年の米実質経済成長率を0・6ポイント押し下げ、来年までに100万人の失業をもたらすとされる。自国経済のみならず世界経済を揺るがしかねないことを、米政府、議会には認識してもらいたい。

国防費の削減額が10年間で約5千億ドルに上るのも懸念材料だ。米軍の訓練が減ったり、西太平洋での米海軍の対中国警戒活動が鈍ったりする可能性があり、日本の安全保障リスクは増大する。

確かに、わずかではあるが時間が残されている。政府職員の一時帰休などには一定の通知期間が必要なうえ、政府機関も当面の資金繰りに支障はなさそうだ。このため、実際に深刻な影響が出てくるのは4月以降とみられている。

また、強制削減は確実との見方が強まった1日も、ニューヨーク株式市場は経済指標の改善を好材料に5年5カ月ぶりの高値で取引を終えた。市場は当面の影響は限定的、とみているようだ。

ただ、こうした空気が米議会の緊張感を失わせているとすれば、本末転倒といわざるを得ない。楽観は許されない状況なのだ。

2013会計年度の暫定予算の失効期限は3月27日に迫る。期限延長されなければ、政府機関の窓口閉鎖が現実となって思わぬ混乱が生じ、米国民の消費意欲をも急速に冷やす可能性が高い。

この期限延長協議と強制削減の影響が顕在化する時期がほぼ重なることに、市場が着目してくるのもそう先ではあるまい。

米国の景気回復と欧州債務危機の小康状態で落ち着きを取り戻した世界経済は、反緊縮財政派の躍進で改革後退懸念が強まるイタリアと、米国の財政問題という2つの不安要因を抱えた。米国は、その1つを解消するのが大国としての責務だと自覚し、今度こそ財政再建協議を進展させてほしい。

一方、景気回復と脱デフレ期待が高まる日本だが、安倍晋三政権も米欧情勢を対岸の火事ととらえてはなるまい。金融緩和、財政出動に続く「脱デフレ三本目の矢」である成長戦略を一刻も早く策定し、具体化すべきだ。

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