米国政府の歳出を強制的に削減する制度が発動された。オバマ米大統領と民主、共和両党は妥協点を探り、混乱の早期収拾を図るべきである。
歳出削減額は10年間で1・2兆ドル(約110兆円)に上り、2013会計年度(12年10月~13年9月)では、歳出の約1割に相当する850億ドルがカットされる。
強制削減制度は、財政再建を巡る11年夏の与野党攻防の際に設けられた。中長期的な財政赤字削減策をまとめられない場合、今年1月に発動する予定だった。
「財政の崖」をひとまず回避するため、発動期限は2か月先送りされたが、それでも大統領と与野党の協議が決裂し、発動を防げなかったのは深刻な事態だ。
大統領と与党・民主党は、富裕層への追加増税と歳出カットによる赤字削減を主張しているのに対し、共和党はあくまで、増税に反対する強硬姿勢を崩さない。
昨年の大統領選挙前からの根深い対立を浮き彫りにしている。
歳出の強制削減によって、ただちに米国経済や国民生活に不都合が生じるものではないが、発動が長期化すれば、影響は内外に広がる。要警戒である。
例えば、国防費削減で米軍の職員約80万人が一時帰休を強いられて、西太平洋や日本などの安全保障に支障が生じかねない。
航空管制官の削減で管制塔が閉鎖したり、教員が大量解雇されたりする事態も現実味を帯びる。
ようやく景気回復の傾向が出てきた米国経済の足を引っ張り、世界経済にも打撃を与えそうだ。
今年度予算はまだ成立せず、暫定予算の失効が27日に迫っている。それまでに本予算も新たな暫定予算も決まらないと、政府窓口の一部閉鎖という、さらなる混乱に拡大するだろう。
当面の焦点は、そうした悪影響が広がる前に、対立に終止符を打てるかどうかである。
大統領と議会の責任は重大だ。不毛な非難合戦を続けるのではなく、財政再建と経済成長を両立させる抜本策について、速やかに歩み寄ることが肝要だ。
財政を巡る懸案は多い。5月半ばまでに連邦債務上限を引き上げられない場合、債務不履行(デフォルト)に陥る恐れすらある。
大統領と与野党はこれまで、協議が行き詰まるごとに、問題先送りを繰り返してきた。だが、その場しのぎの策では、根本的な解決にならない。
「決められない政治」から脱することが厳しく問われよう。
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