PM2.5指針 国内の削減策も怠るな

朝日新聞 2013年03月04日

PM2.5 大気汚染のもや晴らせ

先週末、九州北部から関東にかけて「春一番」が吹いた。心はずむ季節の到来を告げる南風なのだが、西風に変わったらと考えると、今年はちょっぴりゆううつになる。

大気汚染を引き起こす微小粒子状物質「PM2・5」が、中国から大量に飛んでくるのではないかと心配になるからだ。

環境省は先週、PM2・5について、一般の人が健康上注意を必要とする値を「1日平均で1立方メートルあたり70マイクログラム」と暫定的に決めた。これを超すときは、不急な外出を控えたり、窓開けを最小限にしたりするのが望ましいと勧めている。

ここからさらに研究を進め、対策をとることが大切だ。

PM2・5は、大気中に漂う大きさ(粒径)2・5マイクロメートル以下の粒子状物質だ。髪の毛の太さの30分の1ほどと非常に小さいため、肺の奥深くまで入りやすく、ぜんそくや肺がん、心臓病などのリスクを高める。

「小さい粒子は健康に悪い」とわかってきて、米国は1997年に望ましい環境の基準をつくった。

やっかいなのは発生源が多様なことだ。ばい煙や粉じんを出す施設、自動車など人の活動に伴うものだけでなく、土壌や波のしぶき、火山など自然からのものもある。硫黄酸化物や窒素酸化物などのガス状汚染物質が大気中で化学反応し、粒子になることも知られる。

日本でも各地の大気汚染公害訴訟で論点になった。「1立方メートルあたり日平均で35マイクログラム以下、かつ年平均で15マイクログラム以下」という環境基準ができたのは2009年と遅かった。

工場などのばい煙規制や自動車の排ガス規制などが間接的にきき、国内での濃度は下がってきた。だが都市部で環境基準を超える地点がまだかなりある。北京に比べれば数分の1といった汚染であり、「国産」のPM2・5が主因とみられるが、実態をつかむ観測網もまだ満足に整備されていない。

今回、環境省は中国の大気汚染が耳目を集めるとすぐに注意の目安を決めた。環境基準を2倍にしたもので「とりあえず」といったものだ。

研究を進めた米環境保護局は今月、PM2・5の環境基準を厳しくする。06年以降の300以上の疫学研究が根拠で、ディーゼル車の規制などで達成をめざしている。

中国に環境の改善を求めるのはむろん、先をゆく米国に学んだうえで、中国や韓国と協力して観測や疫学調査、対策にあたる必要がある。

毎日新聞 2013年03月01日

PM2.5指針 国内の削減策も怠るな

中国からの大量飛来が懸念されている大気汚染物質の微小粒子状物質「PM2.5」について、外出自粛などの注意喚起をする暫定指針値を環境省が決めた。PM2.5の濃度が高まると懸念される黄砂や花粉のシーズンに間に合うよう、わずか半月でまとめられたものだ。

国民の不安軽減が目的だが、観測体制の強化や疫学調査の充実などにより、指針値をより信頼性の高いものに改めていく必要がある。

PM2.5は直径2.5マイクロメートル以下の微粒子の総称で、肺の奥深くまで入り込みやすく、ぜんそくや肺がんを引き起こす恐れがある。国は大気中濃度の環境基準を1年平均で1立方メートル当たり15マイクログラム以下、かつ1日平均で同35マイクログラム以下と定めている。

まとまった暫定指針値は日平均で同70マイクログラムで、日平均の環境基準の2倍となった。米国の指標や過去の研究データを参考に決めたが、小児や高齢者、ぜんそく患者などは指針値以下でも影響が出る恐れがあるという。注意が必要だ。国や自治体は、そうした弱者のためにも、相談を受け付けたり、きめ細かな情報提供をしたりする体制を整えてほしい。

暫定指針策定は中国からの飛来がきっかけだ。中国に対策を求めていくことは当然で、環境分野での技術協力は促進すべきだが、国内のPM2.5対策にも多くの課題がある。

そもそも、環境基準ができたのは09年で米国より10年以上遅い。それも、東京大気汚染訴訟で07年、国と原告のぜんそく患者らが和解した際に、原告側が国に基準の策定を求めたことがきっかけだ。

観測体制の整備も遅れている。環境省は都道府県などに、今年度末までに住宅地など一般大気測定局と道路沿いの自動車排ガス測定局を合わせ計約1300局を設置するよう求めていた。しかし、自治体の財政難もあり設置箇所は半数に満たない。

自動車の排ガス対策などにより、大気中濃度は低下傾向にあるが、環境基準の達成率も低調だ。大陸からの影響が比較的少ないとみられる東京都でも、11年度に基準を達成したのは28局中2局にとどまった。

PM2.5は工場のばい煙や自動車排ガスなどから発生する。火山灰など自然由来や、ガス状物質が大気中で化学反応を起こし、2次生成されるケースもある。発生源や汚染の広がりは、十分には解明されていない。健康影響を判断するための疫学調査も不足している。科学的なデータの蓄積と分析が必要だ。その上で、環境基準の達成目標年次の設定なども検討すべきではないか。

中国のPM2.5汚染にばかり気をとられ、国内対策がおろそかになってはなるまい。

読売新聞 2013年03月04日

PM2.5対策 監視強めて正確な情報提供を

偏西風が強まるこれからの季節に、中国から飛来する大気汚染物質PM2・5の量が急増する恐れがある。環境省などは監視と被害防止に万全を期してもらいたい。

PM2・5は直径2・5マイクロ・メートル以下の物質の総称だ。1マイクロ・メートルは1000分の1ミリにあたる。スギ花粉の約10分の1の微小粒子で、普通のマスクでは防げない。

肺の奥まで入り込みやすく、ぜんそくや気管支炎、肺がんの原因になるという指摘もある。焼却炉からのばい煙や自動車の排ガスなどが発生源とされる。

国内での発生量は排ガス規制などにより減少してきた。だが、今年に入り中国からの越境汚染が問題となり、九州など西日本を中心に住民の健康不安が高まった。

環境省は、PM2・5の観測地点を現在の約550か所から1300か所に増やす方針だ。住民へのきめ細かい情報提供のためには必要な措置と言える。

中国から実際にどの程度の量のPM2・5が飛来しているのか、詳しい分析も必要である。

さらに環境省は、注意喚起が必要なPM2・5の1日平均値を「1立方メートル当たり70マイクロ・グラム超」(1マイクロ・グラムは1グラムの100万分の1)とする暫定指針を設けた。

これに達しそうな日には、都道府県が住民に外出や室内の換気を自粛するよう呼びかける。

暫定指針は、米国の指標や、疫学調査結果を参考に設定した。環境省の専門家会合は、指針値に達したとしても、「すべての人に必ず健康影響が生じるものではない」との見解を示している。

都道府県は、注意喚起の際、ことさら不安をあおらず、冷静な対応を呼びかけるべきだ。

ただ、呼吸器や心臓に疾患のある人や、影響を受けやすい子供、高齢者は、体調の変化に、より留意する必要があるだろう。PM2・5の健康被害については、未解明の部分も多い。研究に力を入れてもらいたい。

PM2・5対策で最も重要なのは、中国での発生抑制である。北京では2月28日、濃度が一時的に1立方メートル当たり500マイクロ・グラムに達し、6段階の汚染指標で最悪の「深刻な汚染」となった。

日本人学校が生徒の屋外活動を制限するなど、邦人の生活にも影響が出ている。

日中両国は2月、日本が技術協力を進めることで合意した。中国政府は大気汚染を克服した日本の経験を参考に、汚染防止に積極的に取り組まねばならない。

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