いじめ体罰提言 今すぐできることから

毎日新聞 2013年02月27日

いじめ体罰提言 今すぐできることから

教育改革論議を進めている政府の教育再生実行会議が学校のいじめや体罰対策をまとめ、安倍晋三首相に第1次提言をした。

学校が解決できないいじめの通報を受け、解決する第三者的な組織。道徳の教科化。対策法の制定。加害生徒への毅然(きぜん)とした対応や懲戒、警察との連携。体罰のない部活動に向けガイドライン策定−−。こうしたことなどを挙げる。

政府がこの問題に強い懸念と危機意識を持ち、対応しようとするのは当然だろう。だが、今回を見る限りその提言は漠然として具体性に乏しく、実効性が見えてこない。

例えば、いじめ対策と道徳の教科化の結びつきはわかりにくい。道徳教育は道徳の時間だけではなく、学校教育のすべてを通じて行われるものとされてきた。いじめの発生と、道徳が教科でないということの関連づけに飛躍はないだろうか。

また教科となれば、評価や成績づけはどうするのか、そうしたことが道徳になじむのか、検定教科書は……とさまざまな課題が出てくる。

肝心なのは、今すぐできることから速やかに、かつ着実に対策を進めることではないか。

今回のいじめ対策論議の大きなきっかけになった大津市の中学生自殺問題で、詳細な検証をした第三者調査委員会の報告書は、問題の背景に教員の多忙を指摘した。

校内での仕事に優先順位をつけて「選択と集中」で仕分けすることや行事の精選を挙げ、教育委員会には学校現場への依頼文書や事項の整理を行うよう求めている。これはただちに進められることではないか。

書類づくりに追われ子供とじっくり向き合う時間がとれないということならば、本末転倒である。この「忙しすぎる先生」の問題は以前から指摘されてきた。また、教員のほかに専門スタッフを充実させることも有用だ。

加害生徒の出席停止や必要に応じての警察との連携は、これまでも可能だった。

それが必ずしも行われてこなかったのは、消極性や怠慢ゆえというだけでなく、その難しさや、ちゅうちょもある現場の苦悩にも目を向けるべきだろう。

いじめは発生認知件数の統計はあるが、未然に、あるいは初めに芽を摘んだという、机上論ではない実践例はなかなか表に出ない。

そうした体験や教訓を共有できる仕組みは作れないものか。

教育再生実行会議は早速次のテーマ、教育委員会制度改革の論議に入った。これは「自治」という戦後学校教育制度の基本理念ともかかわってくるテーマでもある。

熟議を望みたい。

読売新聞 2013年03月01日

教育再生提言 いじめの抑止につなげたい

安倍首相直属の教育再生実行会議が、いじめ対策の法制化や体罰禁止の徹底などを求める第1次提言をまとめた。

政府は提言を踏まえ、自治体や学校における体制整備や実効性のある対策の実現に取り組んでもらいたい。

注目したいのは、いじめの発見や調査を行う第三者組織の設置を提案した点だ。

大津市の中学生が一昨年秋に自殺した事件では、学校がいじめの兆候をキャッチしながら適切な指導をせず、教育委員会による自殺の原因調査もなおざりだった。

学校や教委が機能しないケースが多いことを考えれば、自治体単位で弁護士や臨床心理士らで構成する第三者組織を設け、子供や保護者から相談を受け付けるのは有効だろう。外部の視点で解決策を探ることが期待できる。

学校にスクールカウンセラーの配置を進め、子供の異変に気付く体制を整えるべきだとする指摘も妥当である。

提言は、加害生徒に対する出席停止措置の活用や、警察との連携の必要性も強調している。

いじめへの対応では、まず、教師による加害生徒への粘り強い指導が必要だ。だが、あらゆる手立てを尽くしてもいじめがやまなければ、被害生徒を守るために毅然(きぜん)とした対応をとるのは当然だ。

特に、暴力や金品のたかりなど法律に抵触する行為が確認された場合には、警察への通報をためらってはなるまい。普段から学校と警察が信頼関係を構築していくことが重要である。

提言には、道徳を教科に格上げすることも盛り込まれた。道徳の教科化は、第1次安倍内閣時の教育再生会議が2007年に提案したが、成績評価の対象になじまないなどの理由で見送られた。

現在は正規の教科となっていないため、教科書はない。効果的な指導法がわからないといった声も現場の教師から出ている。

教科化を通じて、教材の開発や指導法の研究を重ね、道徳教育の充実を図るべきだ。道徳の授業で相手の気持ちを思いやる人間性を育むことは、いじめの未然防止に役立つだろう。

一方、体罰根絶に向けた対策として、提言は部活動の指導指針を作成するよう国に求めている。

子供への暴力を厳しい指導の一環と誤解してきた指導者は少なくない。体罰の定義と行為を具体的に示し、いかなる場合でも暴力は許されないとの意識を教育現場に浸透させていく必要がある。

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