米アフガン増派 苦しい戦いがなお続く

朝日新聞 2009年12月03日

アフガン新戦略 増派だけで安定はない

オバマ米大統領が、新たなアフガニスタン戦略を発表した。米軍3万人を増派し、アフガン治安部隊の育成などにあたる。2011年7月から米軍は撤退を始めるという内容だ。

タリバーン政権の打倒から8年近い。だが、米兵の犠牲は増えるばかりで、戦費も巨額に膨れあがっている。かつてのベトナム戦争のような泥沼にはまるのではないか。そんな懸念が米世論に根強い中での決断だ。政権の命運がかかっていると言っても過言ではあるまい。

増派の一方で撤退開始の時期を明示したのは、いつまでも戦争を続けられないという判断からだ。カルザイ政権に自立を促す狙いもある。

ブッシュ前政権のイラク戦争に反対したオバマ大統領だが、アフガニスタンについては「必要な戦争だ」と強調してきた。タリバーン勢力が再び政権を握って国際テロの拠点になれば、米国や国際社会の安全が脅かされる。そんな危機感にかられての決断だったに違いない。

今回の増派で、アフガン駐留の米軍は10万人規模に達することになる。兵力が増えれば米兵だけでなく、巻き添えになるアフガン人の犠牲が増える危険も大きくなる。それが反米感情を高め、タリバーン勢力の伸長を招くという悪循環も覚悟する必要がある。

新戦略の成否のカギを握るのは、アフガン国軍や警察の育成である。2期目のカルザイ政権が、テロ勢力の復活を阻止するだけの統治能力を備え、治安を安定させることができるかどうか、という問題でもある。

だが、これまでの実績を見る限り、悲観的にならざるを得ない。政府の汚職や麻薬の栽培、密輸はひどくなるばかりだ。現地政府が腐敗していては、いくら精鋭部隊を投入しても、巨額の民生支援を振り向けても徒労に終わる。それが8年間の教訓だ。

アフガン国民の多くは、いまだに水や電気すら十分に確保できず、暮らしは一向に改善されていない。失望感の広がりが、タリバーン勢力の復活の根底にあるのではないか。

アフガンのタリバーン勢力がすべて過激主義ではないし、国際テロリストであるわけでもない。交渉を通じて穏健派を取り込み、民族や宗派を超えた幅広い和解を実現していくための現政権の真剣な努力が欠かせない。

軍事力だけでそれを達成するのはとうてい不可能だ。民生面での国際的な支援を広げ、和解や国家再建の取り組みを支えていかねばならない。その点で、今後5年間で50億ドルの拠出を表明した日本政府は、大きな役割を果たせるはずだ。

今度こそ、イスラム諸国を含めて、国際的な支援の枠組みをしっかりと組み直したい。

毎日新聞 2009年12月03日

米アフガン増派 苦しい戦いがなお続く

いかにも苦しげな演説だった。アフガニスタンへの米兵3万人増派について、オバマ米大統領は「容易な決断ではない」と繰り返して国民の理解を求めた。全土で強まるタリバン(イスラム原理主義勢力)の攻勢に対しては「現状では支えきれない」と戦況悪化を率直に認めた。

大統領が抱く危機感は「政権転覆の差し迫った恐れはないが、タリバンは弾みがついている」という言い方からも伝わってくる。米国が手を引けばカルザイ政権は崩壊の危機に直面する。誰もが思い出すのは、ソ連を後ろ盾としたナジブラ元大統領が失脚し、96年にタリバンによって惨殺された出来事だろう。

タリバンや国際テロ組織アルカイダのメンバーはパキスタン国境付近に隠れながら活動している。パキスタンは核兵器を持つ国だ。アルカイダの幹部は、核兵器を入手したら米国に対して使うと予告している。核テロが起きれば、米国だけでなく国際社会の打撃は計り知れない。

その意味でも増派はやむを得ない決断だろう。米国は今春2万1000人を増派した。それでも足りずに来年初めから3万人を増派し、アフガン駐留米軍は現在の6万8000人から10万人規模になるという。その結果、軍事的経費が年300億ドルに達するとは尋常ではないが、増派がアフガン情勢の悪化に歯止めをかけ、平和と安定への転換点を作り出すよう願わずにはいられない。

だが、巻き返しへの明確な展望があるとは思えず、なお苦しい戦いが続きそうだ。米軍が倒したイラクのフセイン政権は通常、イスラム勢力とは言わない。これに対しアフガンではさまざまな立場のイスラム教徒たちが、タリバンの下に結束して戦っているとも言われる。たとえ米軍が一時的にアフガンを平定しても、イスラム勢力の「聖戦」に終止符を打てるかどうかだ。

時間の尺度が違うのである。宗教上の使命として何十年でも戦うと思われる反米イスラム勢力に対し、オバマ氏は再選がかかる2012年の大統領選までに成果を上げたいところだ。「11年7月までの米軍の撤退開始」を目指しているのも、そのためだろう。しかし、功を焦って危険な南部などに米軍を重点的に送り込めば、米兵の犠牲者が増えて選挙に不利になるというジレンマがある。

オバマ大統領はベトナム戦争との違いとして、アフガンでは43カ国が共に戦っていることを挙げた。だが、外国軍隊の駐留が長引けばアフガン国民の反発は強まろう。アフガン治安部隊の訓練を急ぎ、自前で治安を確保する能力を高めること。「アフガンのものはアフガンに返す」ことこそ出口戦略のカギである。

読売新聞 2009年12月03日

アフガン新戦略 増派で戦局を好転できるか

悪化の一途をたどるアフガニスタン情勢の流れを、今度こそ変えることはできるのか。

オバマ米大統領が、新たに米軍3万人を来年上半期に増派すると発表した。これで、アフガン駐留米軍は約10万人規模に増大する。

大統領は就任直後、アフガン政策を抜本的に見直す包括的戦略を発表し、2度にわたり計2万1000人の増派に踏み切った。にもかかわらず、混迷は深まった。

大統領は今回初めて、米軍の撤収開始時期を「2011年7月」と明示した。国内の厭戦(えんせん)気分を払拭(ふっしょく)し、アフガンの状況を何としても好転させるという不退転の決意を表明したものだろう。

問題は、18か月間で撤収を可能にするような成果をあげられるかどうかだ。課題は多い。

まず、治安の確保の問題だ。

アフガンでは旧支配勢力タリバンが巻き返し、欧米諸国が派遣する国際治安支援部隊(ISAF)との交戦は急増している。巻き込まれた住民の間では、駐留外国軍への反感が広がっている。

重要なのは、治安活動の責務をアフガン政府が担うことだ。大統領は、国軍と警察組織の養成や、アフガン治安部隊との協力をさらに強化する方針を打ち出した。

肝心のカルザイ政権の基盤はきわめて脆弱(ぜいじゃく)だ。米軍としても、地方の有力な部族と信頼関係を構築していく努力が欠かせまい。

次に、雇用の確保だ。タリバン兵士が増えるのは、働き場がないためだ。農地もケシ栽培にあてられ、タリバンの主要な資金源になっている。民生向上への開発支援の拡充が急務である。

パキスタンとの協力も、新戦略の成否を決める重要な要素だ。

アフガンとの国境沿いの山岳地帯に、アル・カーイダや一部タリバン勢力が拠点を築いている。パキスタン軍による掃討が成果をあげなければならない。

国際社会の協力も大切である。オバマ大統領は、「これは米国だけの戦争ではない」として、アフガン安定化の責任分担を国際社会に求める考えを表明した。

アフガンが安定しなければ、国際テロ勢力の跳梁(ちょうりょう)を許し、米同時テロの再現を招く恐れがある。

ISAFに参加している欧州諸国も、できるだけの人的貢献で応える必要があろう。

日本も50億ドルの民生支援だけに安住してはならない。ISAFの活動を支えるインド洋での海上自衛隊の給油活動継続など、人的貢献の具体策を探るべきだ。

産経新聞 2009年12月03日

アフガン新戦略 日本は同盟協力再検討を

オバマ米大統領が米兵3万人増派や出口戦略を柱とするアフガニスタン・パキスタン新戦略を発表し、「米国や同盟国、世界の安全がかかっている」と国際社会の協力と団結を強く訴えた。

新戦略の成否は世界規模のテロとの戦いも左右する。これを失敗させてはならない。現地情勢が正念場を迎えるのに、鳩山由紀夫政権は来年早々にインド洋補給支援を撤収し、代替支援で乗り切ろうとしている。同盟国とはいえない対応だ。新戦略発表を機にどう参画していくか、政府は改めて真剣に論じる必要がある。

米兵増派決定は3月以来2度目だ。情勢が「予想以上に深刻で、現状維持は不可能」とする現地報告も踏まえ、大統領はアフガン駐留米軍を初めて10万人規模へ拡大する決断に踏み込んだ。

人口密集地の安全確保やアフガン治安部隊の育成を急ぐ。国境の部族地域を越えて活動する国際テロ組織アルカーイダやイスラム原理主義武装勢力タリバンを掃討するためにパキスタンと連携を深め、核の安全を守る。腐敗根絶に向けて、業績や成果を指標とする新たな支援方式も導入する。

軍事、民生、対パキスタン連携を3本柱とする新戦略のカギはスピードと効率といっていい。初年だけで派兵費用は300億ドル(2兆6千億円)にのぼる。米国内の厭戦(えんせん)気分も根強く、1年半後に「米軍撤退開始」の出口戦略を示さざるを得なかった。

オバマ氏にとって新戦略は国運を背負った賭けでもある。これを成功させ、アフガン・パキスタンに安定と平和の基盤を築くには、同盟国を含めた国際社会の協力と参加が不可欠といっていい。

にもかかわらず、鳩山政権はテロとの戦いの一環で進めてきた補給支援打ち切りを決め、アフガン政府や米欧を失望させた。先月まとめた対アフガン50億ドル、パキスタン10億ドルの代替支援策も金額は大きいが、大半は無償資金だ。現地での実施や達成度の検証に不可欠な治安対策が欠落している。

米国の主な同盟国の中で、日本だけが自衛隊参加の選択肢を排除しているのは問題だ。新戦略発表にあたり、欧州や中国などオバマ氏自ら事前連絡した各国首脳リストから日本が外されたのは、日米同盟の現状を象徴している。

鳩山首相は補給支援継続を含めて、同盟協力や国際共同行動のあり方を再検討すべきだ。

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