イタリア総選挙 欧州危機の再燃を招かないか

朝日新聞 2013年02月27日

イタリア選挙 借金と民主主義の相克

イタリア政治が袋小路に入り込んでしまったかのようだ。下手をすれば、欧州発の金融危機が再燃しかねない。

5年ぶりの総選挙で、民主党中心の政党連合が下院で勝利した。モンティ首相が進める財政緊縮と改革を引き継ぐという。

しかし改革に反対する反緊縮派の諸政党が、上院で大きく議席を伸ばした。それにより、上院ではどの勢力も過半数を得ることができなかった。

この国の問題は借金まみれの財政だ。市場は政治が再び混迷するとの見方から、動揺している。ここで財政再建が滞れば、不安は世界に広がりかねない。各政党は、最大限の努力で打開しなくてはならない。

一昨年、ベルルスコーニ前首相と交代したモンティ氏は、政治家を含まない実務型内閣で立て直しを進め、国際金融市場から評価を受けた。だが国民に改革の意義を十分に示すことができず、批判にさらされた。

今回、下院で勝利した民主党のベルサーニ書記長は新政権への意欲を見せている。しかし、この国では首相選びに上下両院の承認が必要だ。

その上院では、反緊縮を訴えたベルルスコーニ氏の「自由の国民」と第1党を争っている。

新首相を選ぶ見通しは立っていない。政党は根気よく話しあい、政権作りへの必要な妥協をまとめなければならない。

第三の勢力として出現したのは、元コメディアンのグリッロ氏が率いる市民政党「五つ星運動」だ。国内を広く遊説して、左右の既成政党の特権と堕落ぶりを痛烈に批判した。

ベルルスコーニ氏が減税による金のばらまきで国民の歓心を買おうとするのとは違い、五つ星運動は、インターネットを利用した政治参加やユーロの是非をめぐる国民投票を訴え、市民の共感を集めた。

既成政党への市民の不信と怒りが、この新しい政党を後押ししたのだろう。しかし、新党が勢力を伸ばせば、政治が安定を取り戻すわけではない。

市場の要求と選挙で示される民意が食い違いを見せることは少なくない。ギリシャやフランス、スペインでも緊縮を求める政党が批判にさらされた。

国民に負担増を求めなければならない時代には、民主主義のあり方も常に刷新されなければならない。

そのために政治家に求められるのは、政界の腐敗を正すことはむろん、失業や年金削減への国民の怒りの声から逃げず、財政の緊縮がなぜ必要なのかを誠実に説明することだ。

毎日新聞 2013年02月28日

イタリア総選挙 慢心への警鐘と捉えよ

しばらく遠のいていた危機の足音が再び−−。混とんとした結果を生んだイタリアの総選挙は、浮かれ気味になっていた金融市場に、欧州の債務問題が依然として収束にほど遠いことを思い出させた。

ベルルスコーニ前政権下で失墜した国家の信用回復を目指し、困難な改革を進めてきたモンティ暫定首相だったが、その中道勢力連合が大敗したのは何とも残念だ。モンティ氏は、もともと政治家ではなく経済学者、実務家だったが、緊縮財政を実行し、一時は危険水準にあった国債の利回りを大幅に好転させた。

おかげで単一通貨ユーロの崩壊懸念は薄らいだが、皮肉なことに、これがイタリアの国民や政治家、欧州諸国の指導者らを慢心に導いたようである。有権者は改革に伴う痛みの緩和を求め、政治家は人気取りの政策になびき、ユーロ圏の指導者らも、危機感を緩めてしまった。その結果が今回の選挙だ。

だが、緊縮財政を攻撃した新党「五つ星運動」の躍進を、反ユーロ、反改革の勝利と結論づけるのは誤りだ。イタリアでは、依然としてユーロ支持が高く、改革の必要性を認めている国民も少なくない。

五つ星運動が予想以上の支持を得た原動力は、むしろ既成政党に対する有権者の不信と捉えた方がよい。国民に緊縮財政や構造改革を強いる一方で、不正やスキャンダルが絶えず、政治家自らが率先して痛みを受け入れようとしない現状への怒りをうまく吸収したのが五つ星運動といえる。インターネットを駆使して、「カネのかからない政治」の実現を訴え、特に若い世代から賛同を得た。

政治への信頼なしに、国民に負担増や痛みが降りかかる改革は成功しないということを物語っている。

選挙結果を受けて、新しい政権の枠組みがどうなるのか、予測するのは難しい。数カ月内に、再選挙となる可能性も低くないようである。それを視野に、各党が改革を更に緩めかねない人気取り策で競争するようでは、イタリア発ユーロ危機となって再び世界経済を混乱させよう。

財政再建や労働市場改革などは、イタリアの将来のために先送りできない課題だ。これまでの路線から逆戻りすることなく、同時に政治の安定化、コスト削減につながる選挙改革、政治改革を実行していくしかない。

イタリアでの選挙結果を受けて、スペインなど南欧諸国の国債利回りも久々に反騰したが、独仏をはじめとするユーロ加盟国は、慢心に対する警鐘と受け止めるべきだ。財政問題を抱えた国に緊縮を求めるだけでなく、ユーロ圏の財政統合など、単一通貨の信頼を高める歩みを加速させる必要がある。

読売新聞 2013年02月27日

イタリア総選挙 欧州危機の再燃を招かないか

財政再建路線に対するイタリア国民の強い不満が表れた結果だ。政局混乱で、欧州危機が再燃する恐れが出てきた。

モンティ政権の改革路線の是非を問う総選挙で、反緊縮派のベルルスコーニ前首相の中道右派連合が、事前の予想を上回る議席を獲得した。

下院では、改革路線を大枠で支持する中道左派連合が議席の過半数を辛うじて制したが、上院では、いずれの政党連合も過半数獲得には至らなかった。

選挙結果を受け、日米の為替市場ではユーロが急落し、円高・ユーロ安が進んだ。世界各地の株式市場も軒並み株安となった。ユーロ圏3位の経済大国の財政再建後退に警戒感を示したものだ。

2011年秋に発足した経済学者モンティ氏を首相とする実務者内閣は、増税や年金改革などで財政赤字の削減を図った。労働市場に柔軟性を持たせる法改正など構造改革にも乗り出した。

市場の評価は高かったが、モンティ首相が進めようとした改革は、中道右派各党の支持を得られず、中途半端に終わった。

選挙で、中道右派連合は、増税見直しなど反緊縮の大衆迎合的な政策を掲げ、支持を広げた。

景気後退に陥り、失業率が増加したことに批判的な国民の受け皿になったと言える。

一方で、既成政党の腐敗体質を批判した新党が第3党に食い込んだのは、国民の間に根強い政治不信を反映している。

今後の焦点は、連立交渉を試みると見られる中道左派連合の政権作りだ。しかし、中道右派との大連立は、政策の隔たりが大きく、先行きは不透明だ。

再選挙で打開を図る可能性もある。いずれにしてもイタリア政治の混迷は長期化しかねない。

イタリアが、はたして政局を安定させられるかが問われよう。

ギリシャに端を発した欧州の財政・金融危機は、昨秋以降、欧州中央銀行(ECB)による大胆な国債買い取り方針などで、ようやく沈静化の兆しが見えていた。

ただ、マイナス成長に陥ったユーロ圏では実体経済の低迷は深刻で、今後の展開も波乱含みだ。

スペインでは金融不安がくすぶり、与党への不正献金疑惑も浮上している。9月にはドイツで、メルケル首相の欧州危機対応が争点となる総選挙が控えている。

ユーロ圏全体はもちろん、世界経済に悪影響を与えないよう、イタリアの改革が頓挫する事態は避けなければならない。

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