安倍政権が日銀の正副総裁3人の後任人事案を決め、近く国会に提示する。
「金融政策の転換を実現できる人」と首相がこだわった総裁候補には、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏が選ばれた。インフレ目標の設定が持論で、従来の日銀の政策を批判してきた。
副総裁には、強硬な緩和論者で首相ブレーンでもある学習院大教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏をあてる。
中央銀行の首脳はあくまで実務家だ。専門的な知見のほか、危機対応や組織運営の能力、市場や国際金融界との対話力も問われる。
与野党は国会で3人の考え方を問いただし、資質を見極めて可否を判断してほしい。
黒田氏に白羽の矢が立った背景として、国際金融での豊富な人脈が評価されたのは間違いない。諸外国がアベノミクスに伴う円安に警戒感を抱いているなかでは、なおさらだ。
ただ、いくら歴戦の「通貨マフィア」でも、日銀の独立性が疑われるような金融緩和を続ければ、海外からの批判をかわすことはできない。
そこで、黒田氏には以下のことを約束してもらいたい。まず国債の直接引き受けには断固として応じないこと。さらに、引き受けほど露骨ではなくても、日銀が政府の借金の尻ぬぐいに手を染めていると疑われる政策を避けることである。2人の副総裁候補も同様だ。
岩田氏は「2%のインフレは2年で達成できる」という。だが、金融政策だけで短期間にインフレを進めようとすると、副作用は大きい。国民も2%のインフレで経済が好転すると言われてもピンとこないだろう。
過去には、食料品や燃料などの生活必需品が高騰する一方、不要不急の製品は下落が続き、平均値であるインフレ率は横ばいのまま、生活弱者が圧迫される経験をした。
今回はどう違うのか。賃金の上昇との好循環にどのように結びつくのか。具体的な姿を説明してほしい。
岩田氏は学者として長く自説を貫いてきたが、実務家になる以上、むしろ自説がはらむリスクを幅広く捉え、予想外の事態にも対応できることを示す必要がある。
中曽氏は危機対応の経験が豊富で、国際金融界からの信頼も厚い。日銀の組織と業務を知り尽くす人材を首脳陣の一角に置くことは妥当である。過去の日銀の政策を批判する人たちも、現実的に判断すべきだ。
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