韓国大統領就任 新次元の関係構築を

朝日新聞 2013年02月26日

韓国新大統領 静けさからの出発

テレビで就任式を見て新鮮に感じた人も多かっただろう。

韓国の新しい大統領になった朴槿恵(パククネ)氏のことである。男社会のイメージが強い韓国に、日本や中国、米国より早く女性リーダーが登場すると予想した人が何人いただろうか。

だがいま、ソウルの街に浮かれた気分は感じられない。静かな空気が漂っている。

大統領は5年で交代する。韓国の世論調査会社によれば、ここ数代の大統領は就任前後の支持率がほぼ50~80%台。それが今回は50%に満たない。

前任の李明博(イミョンバク)氏は、財閥系の経営者出身。経済に詳しい大統領なら、生活を良くしてくれるのでは。そんな期待は落胆に変わり、支持率が急落した。

韓国経済で大企業は元気に見えるが、所得格差が広がり、非正規労働者らの不満は大きい。日本をしのぐ少子高齢化が進むのに、福祉対策は遅れている。 誰がかじ取りをしても難しい。そう思うから、新政権への期待もふくらまないのだろう。

加えて朴氏は、人事でつまずいた。首相候補は息子の兵役免除などの疑惑が浮上して指名を辞退。側近も発表まで知らないような人事のやり方は「密室人事」と批判を浴びている。

一方で、新たな可能性への期待も決して小さくない。

1960~70年代の大統領として経済発展をとげた半面、民主化運動を弾圧した朴正熙(パクチョンヒ)氏の娘。いわば生まれながらの保守なのに、選挙戦で「経済民主化」「民生」「福祉」など野党のような政策を打ち出した。

父親が産業化を担ったとすれば、娘は民主化後の「国民の幸福」をめざす。就任演説からはそんな決意が読み取れた。

「もどかしいほど慎重で、突発的行動をしない」(崔章集〈チェジャンジプ〉・高麗大名誉教授)といった人物評もある。前任の李氏は、大統領では初めて竹島に上陸、日韓関係を悪化させた。そんな恐れが少ないという意味だ。

外交では、朴氏は北朝鮮を訪問し、生前の金正日(キムジョンイル)氏と2人で話をした経験もある。その手応えを自叙伝にこう書いている。

「真心に基づいて相互の信頼を積み重ねて初めて発展的な交渉と約束を期待できる」

これは日本との関係にも通じる。だが、期待しすぎてはなるまい。朴氏は大統領選で父親への「親日派」攻撃の矢面に立った。日本に甘いと言われぬよう警戒しているはずだ。

互いに刺激の応酬に陥らないように努める。それが「相互の信頼を積み重ねる」第一歩なのは間違いない。

毎日新聞 2013年02月26日

韓国大統領就任 新次元の関係構築を

昨年暮れの韓国大統領選挙で当選した朴槿恵(パククネ)氏が正式に就任した。初めての女性大統領誕生である。

ソウルの国会前広場で挙行された就任式で、新大統領は経済、福祉、文化を重視する姿勢を強調した。北朝鮮の核実験やミサイル開発を非難すると同時に、南北間の信頼構築に努める方針も明言した。

隣国の歴史的な慶事を祝福する。5年の任期中、北朝鮮への対処をはじめ、多難な時代のかじ取りを担当するのは容易なことではあるまい。日韓が協力しあって、共に前進できることを心から願う。

とはいえ、その日韓関係は悩ましい摩擦の迷路にはまり込んでいる。前大統領の竹島上陸と天皇陛下への批判にあたる発言で、多くの日本国民の対韓認識に暗い影が差した。

その後、朴槿恵氏当選で関係改善への期待がふくらんだが、島根県主催の「竹島の日」記念式典が開かれた22日には摩擦が起きた。安倍晋三政権としては事前に決めていた政府主催の式典を見送り、配慮した形だが、韓国政府の抗議や韓国メディアの反発は避けられなかった。

日韓関係は見通しのきかない曲がり角に来ているようにも見える。

新大統領の父である故・朴正熙(パクチョンヒ)元大統領は社会主義陣営との対抗上韓国の安定を望んだ米国の後押しで日韓国交正常化に踏み切り、高度成長を実現した。その後も長期間、日本は韓国経済にとって必要不可欠な存在だったが、状況が変わった。

日本企業が韓国企業に敗れる例が目立っているのは周知の事実だ。

ソウルから聞こえてくるのは、今や韓国の関心は圧倒的に中国へと傾いている、という話である。

韓国は中国との貿易から最大の利益を得ている。北朝鮮の脅威に対処するため中国の協力を得る努力も必要だ。対中傾斜は無理もない。

だが中国の軍事的膨張や北朝鮮をかばう姿勢を甘く見るのは危険だ。安保に関する日米韓の結束に緩みが生じるようでは本末転倒である。

日本側にも配慮すべき点がある。日本が朝鮮半島を支配した歴史を背景に、韓国では「親日」という言葉自体に嫌悪感が伴う。日本の政治家が新大統領を「親日的」と評価すれば、新政権に批判的な勢力から攻撃材料にされ、逆に負担になる。こうした現実を軽視してはならない。

領土や歴史認識を巡る日韓対立には誤解のほか慢心、屈辱、憎悪といった負の感情がからみ、解決は難しい。だからこそ新しい次元の相互関係構築を共に目指すべきだ。

その第一歩は、政治指導者同士の真摯(しんし)な対話だろう。勇気ある歩み寄りを重ねてこそ、真の和解が進む。歴史が教えるところである。

読売新聞 2013年02月26日

朴大統領就任 日韓関係の改善を期待したい

韓国新政権発足を機に日韓関係が改善に向かうことを期待したい。

課題山積の中で、韓国の朴槿恵氏が大統領に就任した。初の女性大統領であり、朴正煕元大統領との初の親子2代にわたる大統領だ。

朴氏は、就任式に出席した麻生副総理と会談した。日韓両国が未来志向で緊密に協力していく必要性で一致したのは評価できる。

ただ、現状は厳しい。李明博前大統領の竹島訪問と「天皇の謝罪」要求発言で日韓関係は悪化したからだ。島根県主催の「竹島の日」式典への内閣府政務官出席に韓国政府は抗議したばかりである。

歴代の韓国政権は、未来志向をうたいながら、歴史認識や領土問題で結局は対日外交を暗礁に乗り上げさせた。その(てつ)を踏まないのか、朴氏の指導力が問われる。

好調を維持してきた韓国経済にはかげりも見える。経済成長率は昨年、2%台にまで落ち込んだ。輸出主導モデルにウォン高の逆風が吹いている。グローバル化の潮流に乗って財閥は発展したが、国内の雇用創出につながらない。

少子高齢化時代が到来し、老後不安の解消へ年金や医療保険制度の充実を図らねばならない。

こうした課題の解決に向け、朴氏は就任演説で、経済発展を成し遂げた父・正煕氏の「漢江の奇跡」に言及し、「第2の奇跡」を起こすと強調した。

中小企業の競争力強化や、ベンチャー企業の育成によって、雇用と内需の拡大につなげる構想を、具体化することが必要だろう。

外交・安全保障を巡っては、朴氏は北朝鮮に「一日も早い核放棄」を求めた。「確実な抑止力を土台に、南北の信頼関係を積み重ねる」と、対話へ意欲も示した。

増大する北朝鮮の脅威に対し、韓国では弾道ミサイルの射程延長など国防力を強化する動きが顕著だ。世論調査では、韓国の核武装を支持する声も60%を超える。

緊張が高まる朝鮮半島情勢に対処するには、周辺国の連携強化が欠かせない。朴氏が、アジア地域の緊張・対立の緩和と平和・協力の推進へ、「米国、中国、日本、ロシア」などと信頼を築き上げると述べたのは当然だろう。

韓国で、中国の存在感は圧倒的だ。対中貿易は、対米、対日を合計した額を凌駕(りょうが)しており、中韓の人的往来は日韓のそれを年間100万人以上も上回っている。

韓国が、朝鮮半島で存在感を増す中国への傾斜を深めるかどうかは、日本の安全にも影響する問題だけに、目を離せない。

産経新聞 2013年02月26日

朴槿恵大統領 「奇跡」再現へ日韓協力を 安倍首相は早期会談に動け

韓国で朴槿恵(パク・クネ)大統領の時代がスタートした。初の女性大統領で、しかも親子2代の就任である。父の朴正煕元大統領は1965年、日韓国交正常化を実現した決断の人だった。娘の朴槿恵氏も「度胸と品位の指導者」といわれる。

就任をお祝いするとともに、世界で重要な位置を占めるに至った国の新指導者として成熟し安定感のある内外政策を期待したい。

朴槿恵氏は両親ともに政治テロで失うという数奇な人生を歩んできた。政治家の経験は15年だが、その前に青瓦台で同じぐらい過ごしている。父がテロで倒れた時は27歳だったが、悲報に接しての最初の言葉は「南北休戦ラインは大丈夫ですか?」だったという。

≪中国への注文忘れるな≫

指導者としての心構えは十分できているとみていい。

韓国はその後、成長を続け、戦後の世界で「途上国として経済発展と民主化を実現した最初の国」と呼ばれる。「援助される国から援助する国」になったのである。今や経済力では世界の上位を占め、文化やスポーツなどを含め国際的に注目される存在だ。

韓国では近年、国際化や先進国化がよく語られる。「国際化」という意味では、既に国連事務総長は韓国人だ。現在、韓国は国連安全保障理事会の議長国である。今や国際社会に重要な責任を負う国になったのだ。

朴槿恵氏が国際関係で日米韓協力体制の維持、強化を強調しているのは大いに歓迎できる。核実験を繰り返す軍事独裁国家・北朝鮮の脅威に対応するためには、これは不可欠である。

同時に、朴槿恵氏はこれまで中国との親しい関係が伝えられる。就任演説でも、「米、中、日…」と中国を2番目に挙げて重視している。経済を中心とした韓中関係の深まりを背景に、中国への配慮は当然かもしれない。

しかし中国の軍事的膨張、領土問題に見られる覇権主義的態度、さらには北の核開発への「黙認」などを見過ごしてはならない。中国指導部との親しい関係を通じ必要な場面では、中国を厳しく説得し、注文してもらいたい。

大きくなった韓国は以前のように他国に不平、不満、批判ばかり言ってすむ状況ではなくなった。国の品格として、国際協調や国際貢献とともに、国際的マナーに合った行動が求められている。その点でいえば、日本との関係では、いまだ国際的感覚に欠けているようにみえる。

韓国社会でしばしば見られるいわゆる「反日無罪」がそうだ。例えば、在韓日本大使館前の慰安婦記念像は国内的にも国際的にも不法な存在だが、今なお放置されたままだ。日本への批判、非難なら「何でも許される」という感覚は韓国の品格にふさわしくない。

≪「反日無罪」は品格欠く≫

朴槿恵氏は、就任演説でまず経済を課題に挙げ、「第2の漢江の奇跡を起こす」と宣言した。昨年度の成長率は約2%で、既に低成長時代に入りつつある。高齢化社会も急速に進行中だ。「増税無き福祉」が公約だが、その実現にはかなりの困難が予想される。

いずれも日本が経験してきた道である。日韓は領土問題や歴史問題を除けば、高齢化対策などでいくらでも協力し合えるのだ。

韓国に国民感情があるように、日本にも国民感情がある。李明博前大統領の竹島上陸や天皇陛下への謝罪要求は、日本の国民感情をいたく傷つけた。日本人の多くはこれを挑発と受け取った。

相手を批判、非難ばかりしながら協力というのは難しい。相互理解とは自分の立場や考え方を相手に押しつけることではない。抑制と同時に、時には不平不満を互いに棚上げにする知恵がほしい。

朴槿恵氏の父は対日関係改善を追い風に利用して韓国発展の基礎を築いた。日本との協力関係がいかに重要だったかは、南北の発展の格差を見れば明白だ。そのことも改めて確認したい。

就任式後、朴槿恵氏と会談した麻生太郎副総理は安倍晋三首相の祝意を伝えた。日韓新政権が未来志向で緊密に協力することでも一致したことは評価できる。

だが、本来は首相自ら出席すべきだった。祝賀訪問として互いに懸案抜きで会えば、首脳同士が親近感を確認するいい機会だったはずだ。安倍首相は早い時期に初会談の場を設定し、胸襟を開いて信頼関係を築いてほしい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1325/