韓国で朴槿恵(パク・クネ)大統領の時代がスタートした。初の女性大統領で、しかも親子2代の就任である。父の朴正煕元大統領は1965年、日韓国交正常化を実現した決断の人だった。娘の朴槿恵氏も「度胸と品位の指導者」といわれる。
就任をお祝いするとともに、世界で重要な位置を占めるに至った国の新指導者として成熟し安定感のある内外政策を期待したい。
朴槿恵氏は両親ともに政治テロで失うという数奇な人生を歩んできた。政治家の経験は15年だが、その前に青瓦台で同じぐらい過ごしている。父がテロで倒れた時は27歳だったが、悲報に接しての最初の言葉は「南北休戦ラインは大丈夫ですか?」だったという。
≪中国への注文忘れるな≫
指導者としての心構えは十分できているとみていい。
韓国はその後、成長を続け、戦後の世界で「途上国として経済発展と民主化を実現した最初の国」と呼ばれる。「援助される国から援助する国」になったのである。今や経済力では世界の上位を占め、文化やスポーツなどを含め国際的に注目される存在だ。
韓国では近年、国際化や先進国化がよく語られる。「国際化」という意味では、既に国連事務総長は韓国人だ。現在、韓国は国連安全保障理事会の議長国である。今や国際社会に重要な責任を負う国になったのだ。
朴槿恵氏が国際関係で日米韓協力体制の維持、強化を強調しているのは大いに歓迎できる。核実験を繰り返す軍事独裁国家・北朝鮮の脅威に対応するためには、これは不可欠である。
同時に、朴槿恵氏はこれまで中国との親しい関係が伝えられる。就任演説でも、「米、中、日…」と中国を2番目に挙げて重視している。経済を中心とした韓中関係の深まりを背景に、中国への配慮は当然かもしれない。
しかし中国の軍事的膨張、領土問題に見られる覇権主義的態度、さらには北の核開発への「黙認」などを見過ごしてはならない。中国指導部との親しい関係を通じ必要な場面では、中国を厳しく説得し、注文してもらいたい。
大きくなった韓国は以前のように他国に不平、不満、批判ばかり言ってすむ状況ではなくなった。国の品格として、国際協調や国際貢献とともに、国際的マナーに合った行動が求められている。その点でいえば、日本との関係では、いまだ国際的感覚に欠けているようにみえる。
韓国社会でしばしば見られるいわゆる「反日無罪」がそうだ。例えば、在韓日本大使館前の慰安婦記念像は国内的にも国際的にも不法な存在だが、今なお放置されたままだ。日本への批判、非難なら「何でも許される」という感覚は韓国の品格にふさわしくない。
≪「反日無罪」は品格欠く≫
朴槿恵氏は、就任演説でまず経済を課題に挙げ、「第2の漢江の奇跡を起こす」と宣言した。昨年度の成長率は約2%で、既に低成長時代に入りつつある。高齢化社会も急速に進行中だ。「増税無き福祉」が公約だが、その実現にはかなりの困難が予想される。
いずれも日本が経験してきた道である。日韓は領土問題や歴史問題を除けば、高齢化対策などでいくらでも協力し合えるのだ。
韓国に国民感情があるように、日本にも国民感情がある。李明博前大統領の竹島上陸や天皇陛下への謝罪要求は、日本の国民感情をいたく傷つけた。日本人の多くはこれを挑発と受け取った。
相手を批判、非難ばかりしながら協力というのは難しい。相互理解とは自分の立場や考え方を相手に押しつけることではない。抑制と同時に、時には不平不満を互いに棚上げにする知恵がほしい。
朴槿恵氏の父は対日関係改善を追い風に利用して韓国発展の基礎を築いた。日本との協力関係がいかに重要だったかは、南北の発展の格差を見れば明白だ。そのことも改めて確認したい。
就任式後、朴槿恵氏と会談した麻生太郎副総理は安倍晋三首相の祝意を伝えた。日韓新政権が未来志向で緊密に協力することでも一致したことは評価できる。
だが、本来は首相自ら出席すべきだった。祝賀訪問として互いに懸案抜きで会えば、首脳同士が親近感を確認するいい機会だったはずだ。安倍首相は早い時期に初会談の場を設定し、胸襟を開いて信頼関係を築いてほしい。
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