北方領土交渉 「仕切り直し」へ戦略練り直せ

朝日新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 TPPは消費者視点で

安倍首相がオバマ米大統領との会談後、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わる考えを事実上、表明した。

10年秋に当時の菅首相が交渉参加に意欲を見せてから2年半近く。農業団体をはじめとする国内の根強い反対を受けて迷走が続いた末、ようやく軸足が定まった。

首相の姿勢を評価する。

安倍政権は、デフレと低成長からの脱却を最優先課題に掲げる。そのためには海外との経済連携を強め、その成長を取り込むことが欠かせない。

ただ、すぐに交渉に入れるわけではない。TPPを主導する米国では、政府が通商交渉に入る場合、議会の承認を得るのに90日間かかる。一方で、オバマ政権は今年中に交渉を終えるとしている。日本に残された時間は多くない。

これから米国との事前協議が本格化する。米政府は議会の声を受けて、自動車と保険、牛肉の3分野で日本市場に関心があると表明済みだ。

米国との事前協議、その後の本交渉を通じて、政府が守らねばならない原則がある。

まず、情報をできるだけ開示することだ。通商交渉では手の内を全てさらすわけにはいかないが、TPPに不安を感じる国民は少なくない。丁寧な説明を心がけて欲しい。

米国との事前協議で、交渉に早く加わりたいからと理不尽な要求を秘密裏に受け入れるようでは、TPPへの反発を強めるだけである。

なにより大切なのは、特定の業界の利害にとらわれず、「消費者」の視点に基づいて総合的に判断していくことだ。

TPPのテーマは物品の関税引き下げ・撤廃にとどまらず、投資や知的財産、電子商取引、環境など20を超える。さまざまな分野で規制・制度改革が求められるのは必至だ。

当然、恩恵を受ける業界があれば、打撃が予想される分野もある。いかにプラスを増やし、マイナスを抑えるか。

高関税で守ってきたコメなどの農産物について、激変を避けるよう交渉するのは当然だ。

それと並行して、高齢化や耕作放棄地の増加など山積する課題への対策を急ぎ、体質強化をはかる必要がある。

むろん、TPP交渉の見返りに予算をばらまくのは許されない。コメの「聖域化」ばかりに目が向いて、他の分野が二の次になるのも論外だ。

TPP交渉で、安倍政権は外交、内政両面での総合力が問われる。

毎日新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 「安全運転」を外交でも

久しぶりに多岐にわたる重要なテーマを論じ合った日米首脳会談だった。安倍晋三首相とオバマ米大統領の初会談は日米同盟強化で一致し、安倍氏は強力な同盟の絆の復活を強調した。日米同盟を基軸に「強い日本」を目指すという安倍外交が、本格的なスタートを切った。

日米だけではない。日露関係も改善の兆しが見えてきた。週明けには韓国で朴槿恵(パククネ)新大統領の就任式があり、来月は中国の習近平総書記が正式に国家主席に就任する。日本を取り巻く東アジアの国際政治が大きく動き出しているのである。

北朝鮮の核開発や尖閣諸島をめぐる中国との対立など深刻な不安定要因を抱える日本にとって、今ほど外交力が試される時はない。その基盤となるのが米国との連携であることは言うまでもないだろう。必要なのは、「強固な日米同盟」を背景にした賢明で注意深い外交だ。

首脳会談では、オバマ氏が「あなたの在任中、(自分という)力強いパートナーがついている。安心してもらっていい」と安倍氏に語りかけた。尖閣諸島の問題を念頭に置いた発言だろう。安倍氏も尖閣で冷静に対処する考えをオバマ氏に説明し、記者会見では「エスカレートさせるつもりはない」「習総書記といろいろなことを話す機会があればいい」と対話への意欲をみせた。

日本から対立をあおるようなことはしない。領土をめぐる問題は力ではなく対話で解決する。この2点を日米両首脳が世界に向かって発信したことを、中国は重く受け止めるべきだ。領海侵犯などの度重なる挑発をただちにやめ、対話と外交で問題を処理する姿勢に転換する道を探るよう、改めて強く求める。

一方、日米同盟強化は他国とことさら対立するためではなく、アジアに安定をもたらすためのものでなければならない。中国や韓国との関係がこじれたままでは、米国の思い描く同盟の形とは矛盾するし、日本の国益にもならないはずだ。

安倍政権の高い支持率は、慎重な外交姿勢を保っていることも大きな要因だろう。安倍氏には歴史認識問題でのタカ派色を抑制しながら、現実主義的な外交をこれからも続けてもらいたい。外交の「安全運転」は、米国が望んでいることでもある。

そして日米同盟をテコにしっかりした外交を展開していくには、日本の政治の安定が欠かせない。毎年のように交代し、自己紹介から始まるような首相が相手では、オバマ氏もまともに日米同盟を考える気にはならないだろう。日本の政治家すべてが考えるべき問題である。

読売新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 アジア安定へ同盟を強化せよ

◆TPP参加の国内調整が急務だ◆

安倍首相に対する米政府の期待の大きさが鮮明になった。首相は政治、経済両面で「強い日本」を復活させ、その信頼に応えるべきだ。

安倍首相とオバマ米大統領がホワイトハウスで初会談し、日米同盟を強化することで合意した。

大統領は「日米同盟はアジア太平洋地域の安全保障にとって中心的な礎だ」と述べた。首相は「日米同盟の強い絆は完全に復活したと宣言したい」と応じた。

◆エネルギー協力も重要◆

アジアは、北朝鮮、中国など多くの不安定要因を抱える。地域の平和と繁栄を維持するには、強固で安定した日米同盟という「公共財」を基盤に、両国がそれぞれの役割を果たすことが肝要だ。

日本の民主党政権の3年余、日米関係は迷走し、連動するように日中・日韓関係も悪化した。

オバマ米政権も、安倍政権との間で日米関係を再構築することがアジア全体の安定につながり、自らのアジア重視戦略にも資する、と判断しているのだろう。

焦点だった日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、日米両首脳は共同声明を発表した。全品目を交渉対象にするとの原則を堅持しながら、全ての関税撤廃を事前に約束する必要はないことを確認した。

首相は訪米前、「聖域なき関税撤廃を前提とする交渉参加には反対する」との自民党政権公約を順守する方針を強調していた。

公約と交渉参加を両立させる今回の日米合意の意義は大きい。

成長著しいアジアの活力を取り込むTPP参加は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の重要な柱となり、経済再生を促進する効果が期待されよう。

自民党内の一部や農業団体には反対論が根強い。だが、首相は、経済連携の狙いを丁寧に説明して指導力を発揮し、TPP参加へ国内調整を急がねばならない。

米国にとっても、世界3位の経済大国の日本がTPPに参加するメリットがある。日米が連携した自由貿易圏作りは、台頭する中国への牽制(けんせい)効果を持つからだ。

安倍首相が米国産シェールガスの対日輸出の早期承認を求めたのに対し、大統領は「同盟国の日本の重要性は常に念頭に置いている」と応じた。3月にも輸出が解禁され、割安なガスを調達する道が開けるとの見方がある。

首相は、「2030年代の原発稼働ゼロ」という民主党政権の方針を見直す考えを強調した。

エネルギー・原発政策を含め、経済面での日米協力を幅広く進展させることが大切だ。

◆対「北」圧力を強めよ◆

安全保障分野で安倍首相は、防衛大綱の改定や、集団的自衛権の行使問題、日米防衛協力指針(ガイドライン)見直しなどに積極的に取り組む方針を説明した。

いずれも日米同盟を実質的に強化する重要課題だ。優先順位をつけて、着実に実績を上げたい。

米軍普天間飛行場の移設問題では、日米合意に基づき辺野古移設を進める方針で一致した。

沖縄県は「県外移設」を求める立場を崩していないが、地元の基地負担の軽減には辺野古移設が最も近道だ。粘り強く関係者を説得することが求められる。

北朝鮮の核実験について、日米両首脳は「挑発行為を容認すべきではないし、報奨を与えるべきでもない」と確認した。

国連安全保障理事会での追加制裁決議の採択を目指すとともに、日米などによる独自の制裁を検討することでも合意した。

2006年の北朝鮮の第1回核実験後、ブッシュ米政権は、核施設廃棄と「テロ支援国家」指定解除との取引に応じた。今年の第3回核実験によって、北朝鮮が利益を得ることは避けるべきだ。

◆尖閣問題で国際連携を◆

本来は、実効性ある安保理の制裁決議を採択することが望ましいが、中国は慎重姿勢を示している。日米韓3か国を中心に、安保理決議以外の「圧力」を具体的に検討することが重要である。

首脳会談後に行われた日米外相会談では、ケリー国務長官が日中関係に関連し、尖閣諸島には日米安全保障条約が適用され、米国の対日防衛義務の対象に含まれるとの見解を表明した。

クリントン前長官の見解を踏襲したことを歓迎したい。

日本は、中国軍の火器管制レーダー照射などの挑発に動じず、冷静な対応を続ける一方、自衛隊と海上保安庁による警戒監視活動を強化すべきだ。中国に示威活動の自制を促すため、米国など関係国との連携も深めねばならない。

産経新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 「強い絆」復活を評価する TPP参加へ国内調整急げ

日米両首脳が過去3年の民主党政権下で失われた信頼を回復し、「強い同盟」の再構築をめざす新たな出発点を確認した。

安倍晋三首相とオバマ大統領の初の日米首脳会談で、首相は「同盟の信頼と強い絆が完全に復活した」と宣言し、大統領は「日米同盟はアジア太平洋の安全の中心的基盤で、米国は強力かつ頼れるパートナーだ」と応じた。

中国が尖閣諸島問題で挑発と攻勢を強め、北朝鮮が核・ミサイル開発を進める中、日米同盟を名実ともに強化することで合意したことを高く評価したい。

≪最大の「障害」を越えた≫

両首脳はさらに、最大の焦点である環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉では「全ての関税撤廃を約束するものではない」との共同声明を発表、日本の交渉参加へ向け大きく踏み出した。

自民党の「聖域なき関税撤廃を前提とした交渉には参加しない」とした選挙公約を満たす内容で、交渉参加の決断を阻む最大の障害は越えたといえる。

だが、首相が触れた集団的自衛権の行使容認の議論や普天間飛行場移設は何も具体化していない。TPP問題でも高いハードルが待つ。安保・経済の両面で日米の絆を完全に回復させるには、日本が率先して行動することが何よりも重要だ。首相にはスピードと実効性のある措置を進めてほしい。

とりわけ急がれるのは、オバマ氏も「両国経済の成長と繁栄の活性化がナンバーワンの優先課題」と述べたように、TPP問題を速やかに前進させることだ。

米国を中心にアジア太平洋の11カ国が交渉を進めるTPPは日本の成長戦略に欠かせず、地域の成長を取り込む上でも重要だ。中国が参加していない点で、安全保障面でも大きな意義を持つ。

日米共同声明は、全ての物品を関税撤廃交渉の対象とする原則を掲げる一方、日米双方に「センシティビティー(慎重な検討を要する重要な品目)がある」と明記し、「一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束させられるものではない」としている。

安倍首相も会談後の会見で「なるべく早い段階で決断したい」と交渉参加に意欲を示した。だが、交渉参加を決断しても、実際に交渉に加わるには米国内の承認手続きだけで3カ月程度かかる。他の参加国の承認も必要だ。

11カ国は「年内の交渉妥結」を目指している。参加が遅れるほど、日本の国益を満たすルールづくりの議論や交渉に参画する機会と時間が失われてしまう。

速やかに交渉参加を表明し、国益上守るべき例外品目の獲得などの実質協議に入らなければならない。国際競争力を持つ「強い農業」に向けた政策も打ち出す必要がある。

≪スピード感持ち行動を≫

首相はTPP反対論が根強い自民党の役員会で参加の一任を取り付ける考えだ。米国は農業だけでなく、自動車の対日輸出の拡大にも関心をみせている。実のある交渉にするためにも、首相自ら国民や党内の説得を急ぐべきだ。

両首脳は北の核・ミサイルに日米韓が連携し、「断固として対処する」ことで一致した。国連安保理の追加制裁決議の早期採択や独自の金融制裁で日米が協力する重要性を確認した。首相が日本人拉致問題解決に協力を求め、大統領が支持したことも評価したい。

尖閣諸島問題について、首相は「日本は常に冷静に対処してきた」と説明し、オバマ氏が「日米が協力して対応していく。日米協力が地域の安定につながる」と応じたことは重要だ。

同時に開かれた岸田文雄外相との外相会談でも、ケリー国務長官は尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲にあるとする米政府の「揺るぎない立場」を確認した。

ただ、米側には「重大な衝突に発展しないように」日中双方に自制を求める姿勢も強い。中国の行動や意図に対する共通認識を日米で深めていくと同時に、共同訓練などを通じて有事への備えを強化していくことが必要だ。日本は自らの力で尖閣を守り抜く態勢を固めるべきだ。

両首脳は普天間移設や嘉手納以南の米軍基地・施設返還の加速を確認した。首相は民主党前政権の「原発ゼロ」政策をゼロベースで見直すことも約束した。いずれも迅速に行動しなければ、同盟の信頼は回復できない。

朝日新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 懐の深い同盟関係を

日米同盟強化に完全に一致できた。強い絆は完全に復活したと宣言したい――。

安倍首相は日米首脳会談のあと、高らかに成果をうたった。

日米同盟が大切であることには、私たちも同意する。

だからといって、中国との対立を深めては、日本の利益を損なう。敵味方を分ける冷戦型ではなく、懐の深い戦略を描くよう首相に求める。

首相は、軍事面の同盟強化に前のめりだった。

首脳会談では、防衛費の増額や、集団的自衛権行使の検討を始めたことを紹介し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの検討を進めると述べた。

一方で、中国を牽制(けんせい)した。

会談後の演説で、日中関係は最も重要な間柄の一つとしつつ、尖閣問題について「どの国も判断ミスをすべきではない。日米同盟の堅牢ぶりについて、だれも疑いを抱くべきではない」と述べた。

そういう首相と、米国側の姿勢には温度差があった。

オバマ大統領は記者団の前で「日米同盟はアジア太平洋地域の礎だ」と語ったが、子細には踏み込まず、「両国にとって一番重要な分野は経済成長だ」と力点の違いものぞかせた。

ケリー国務長官は外相会談で、尖閣に日米安保条約が適用されることを確認する一方、日本の自制的な対応を評価すると述べたという。

背景にあるのは、日米同盟を取り巻く状況の変化だ。

東西冷戦期には、米国とソ連が敵対していた。米国には、日本を引きよせておく必要があったから、同盟は強固だった。

だがいまは、経済の相互依存が進み、米国は中国と敵対したくない。米中よりも日中のあつれきのほうが大きく、米国には日中の争いに巻き込まれることを懸念する声が強い。

だから米国が日本に求めるのは、いたずらにことを荒立てない慎重さだ。そこを見誤れば、日米の信頼も崩れてしまう。

そもそも、グローバル化が進むこの時代、世界を二つの陣営に分けるような対立は起こりにくい。アジアの国々も、どちらにつくかと踏み絵を迫られる事態は望まない。

日米同盟を大切にしつつ、いろんな国とヒト、モノ、カネの結びを深め、相手を傷つけたら自身が立ちゆかぬ深い関係を築く。日中や日米中だけで力みあわぬよう、多様な地域連携の枠組みを作るのが得策だ。

対立より結びつきで安全を図る戦略を構想しないと、日本は世界に取り残される。

毎日新聞 2013年02月24日

日米首脳会談 TPPで早く存在感を

日米首脳会談で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加問題が、大きく前進した。共同声明で、全ての関税撤廃を前提とするものではないことが確認され、安倍晋三首相が示していた参加を阻害する条件が除かれたからだ。

もっとも国内には、農業団体を中心に強硬な反対論がある。政府は速やかに交渉参加を決めるとともに、そのメリットをしっかり説明し、国民の理解を得る必要がある。

米国にとってTPPは、アジア太平洋戦略の要といえる。台頭する中国をけん制する意味からも、日本の参加を強く期待しているはずだ。

日本にとってもアジア太平洋地域の貿易・投資ルールを決めるTPP交渉は、経済を成長させるために避けて通れない。日中韓自由貿易協定(FTA)などの貿易交渉で主導権を握るためにも、TPPで存在感を示す意味は大きい。

異例の共同声明で関税撤廃に例外があり得ることを認めたのは、安倍、オバマ両首脳のTPPに対する意欲の表れと考えられるだろう。

「聖域なき関税撤廃が前提であれば交渉に参加しない」と説明してきた安倍首相はこれで、最大の障壁をクリアしたといえる。今後は交渉に日本の意向を反映させるため、参加の決断を急ぐべきだ。

一方で、国内の反対論や慎重論にも耳を傾け、参加が国益につながることに理解を得る必要もある。

反対派の急先鋒(せんぽう)は、農業団体だ。輸入障壁がなくなることで農産物輸入が急増し、国内農業が深刻な打撃を被ると主張する。農水省がコメの9割、農業生産全体では半分近くが失われるという試算を公表したことも、そうした不安を増幅している。

TPPの影響は、経済産業省、内閣府もそれぞれ異なる試算を示している。政府内がばらばらでは説得力はない。政府は足並みをそろえ、合理的な理由を挙げて「損得勘定」を示す必要がある。

農業への影響は避けられないだろうが、現状でも高齢化や担い手不足は深刻だ。国内に欠かせない重要品目については、直接支払いなどで激変緩和を図りながら、農業改革を急ぐ必要がある。安倍首相は産業競争力会議で農業を成長産業と位置付け、改革を加速させる考えを示した。「聖域」化ありとの思惑から、その手を緩めてはなるまい。

国民皆保険制度の形骸化や食品安全基準の切り下げなどを心配する声も根強い。交渉の中で守るべき課題であり、政府は交渉の情報をできる限り開示し、こうした不安の払拭(ふっしょく)にも努めるべきだ。

読売新聞 2013年02月23日

北方領土交渉 「仕切り直し」へ戦略練り直せ

日露首脳会談への地ならしという狙いは達成された。具体的に交渉をどう進めるか、安倍外交の戦略が問われよう。

森喜朗元首相が、ロシアのプーチン大統領とモスクワのクレムリンで会談した。

プーチン氏は、北方領土問題が障害となり、日露両国が平和条約をいまだ締結していないことを「異常な事態」と表現した。

柔道の試合場をメモ用紙に描いて、「両国は試合場の端にいてプレーが出来ない。真ん中に引っ張ってきてそこから始めるということだ」とも語り、交渉を仕切り直す意向を明らかにした。

メドベージェフ前大統領は自ら国後島を訪問し、「我々の古来の土地だ。一寸たりとも渡さない」と強硬な姿勢を見せつけた。

安倍首相は、領土問題に前向きなプーチン氏のシグナルをきちんと受け止めなければなるまい。その真意を見極めつつ、粘り強く交渉に当たってもらいたい。

森氏はプーチン氏との会談で、北方領土問題について昨年3月「引き分け」を目指すと発言したことの意味を(ただ)した。プーチン氏は「勝ち負けなしの解決だ」と述べるにとどめたという。

歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言が、領土交渉におけるプーチン氏の立場の原点だ。ロシアは近年、国後、択捉両島などの基盤整備に予算を投入し、北方領土の「ロシア化」を着々と進めている。

森氏が先月、テレビ番組で択捉島以外の3島の先行返還に言及したのは、現実的な解決を急ぐべきだと考えるからだろう。

麻生副総理も外相時代に4島全体の面積を2等分する「面積等分論」に言及したことがある。

だが、安倍、プーチン両政権による交渉はこれからである。交渉前から譲歩姿勢を示せば一層つけこまれかねない。従来通り4島返還を掲げて交渉に臨むべきだ。

プーチン氏は、石油や天然ガスなど、エネルギー分野での日露協力の拡大に強い期待感を示した。広大な極東で日本の農業技術を生かしたいとも語った。

日本の経済力や技術力は、極東・シベリア開発に力を入れるロシアにとって魅力だろう。領土問題が解決すれば、日露両国がともに利益を享受できる分野は一段と広がるはずだ。経済・軍事面で膨張する中国への牽制(けんせい)ともなる。

日露協力の戦略的重要性について共通認識を深めていくことが大切だ。それが、北方領土問題解決への環境整備につながろう。

産経新聞 2013年02月23日

森・プーチン会談 「異常事態」露が打開せよ

安倍晋三首相の特使として訪露した森喜朗元首相との会談で、プーチン大統領は「日露間に平和条約がないのは異常な事態だ」と語った。

大統領として平和条約締結への真摯(しんし)な意欲を示したのだとすれば、評価したい。だが、平和条約を結べない理由が北方領土への不法占拠にあり、原因を作ったのがロシア自身であることは言うまでもない。

北方四島は先の大戦の終戦時の混乱に乗じてソ連が日ソ中立条約を破棄し、武力占領した。プーチン氏はその後継国家の元首として歴史の不正を正す責任がある。

プーチン氏は資源・エネルギーに農業協力なども加え、今春にも予定される首相の公式訪露に期待を示したが、まずはロシアが北方四島を返還しないかぎり、異常事態の解決はないことを強く認識してもらいたい。

日本政府も「3島返還」「面積折半」といった異論に流されてはならない。原則を堅持して対露協議に臨む必要がある。

今回、留意すべきは、両氏が2001年に日露首脳として発表した「イルクーツク声明」の重要性を再確認したことだ。

声明は北方領土問題を「歴史的・法的事実」に立って「法と正義の原則」を基礎に解決するとうたった「東京宣言」(1993年)を明示、「四島帰属問題を解決して平和条約を締結する」としている。プーチン氏に必要なのは、これを直ちに行動に移すことだ。

だが、プーチン氏は昨年3月に自ら発した「引き分け」発言について「勝ち負けなしの解決だ。双方が受け入れ可能な解決策のことだ」と述べた。従来の発言とほぼ同じで、失望せざるを得ない。

森氏が「最終解決には日露首脳の決断が必要だ」とプーチン氏の背中を押し、首相訪露への地ならしに徹したのは当然といえる。

対日接近の背景には、中国が経済・軍事的に膨張し、米国のシェールガス開発でロシア産石油・天然ガスが守勢に立たされている事情もうかがえる。北朝鮮問題でも日露協力の余地はある。

だが、油断は禁物だ。「北方領土の日」にはロシア戦闘機が日本領空を侵犯し、対日改善を求める誠実な態度とは到底いえない。

日本政府はロシア側に対し、北方領土返還によって信頼を取り戻すことが全ての出発点であることを理解させるべきだ。

毎日新聞 2013年02月23日

森元首相訪露 首脳交流につなげよ

ロシアのプーチン大統領が、安倍晋三首相の事実上の特使として訪露した森喜朗元首相と会談した。首相親書を手渡した森元首相に大統領は北方領土問題解決への意欲を改めて表明。安倍政権発足後、初の首脳会談実現に向け、停滞が続いた日露関係は新たな段階へ踏み出した。

プーチン氏にとって16回目の会談となった森氏は、日本政界で最も信頼する「親友」だ。2人は01年に日露首脳として「平和条約締結後、歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す」と定めた56年共同宣言を領土交渉の出発点とすることで合意している。日本は国後島、択捉島を含む4島返還を求める立場は変えていないが、今回の訪問は、日本が01年当時の姿勢に立ち戻り柔軟な考えで交渉を再開するシグナルだったともいえる。

プーチン大統領は昨年、「引き分け」という言葉を使って日露双方の譲歩の必要性を訴えた。その真意について大統領は今回の会談で、柔道場の絵を描いて、今は隅で行き詰まっている両国が再び中央に出て試合を再開する必要があるという趣旨の説明をしたという。

ロシアが対日関係改善に積極的な理由はいくつかある。開発が進まず人口流出の激しいロシア極東を、アジア太平洋市場への資源輸出基地として発展させるには、インフラ整備などで日本の技術力が必要だ。米国の「シェールガス革命」がもたらした世界エネルギー市場の地殻変動で、資源の輸出先として日本の可能性が改めて注目されている。さらに、中国の台頭や北朝鮮の核開発などで緊張が高まる東アジア情勢をにらみ、極東の発展や北極海航路の開拓を国家戦略の重要な柱とするロシアの安全保障という意味でも、日本との協力は欠かせない。北方領土問題の解決は、こうした大きな構図の中に位置づけられている。

ロシアの優先課題は経済だ。森元首相の訪露に先立ち、国営石油企業ロスネフチのセチン社長が訪日し、日本企業にオホーツク海の大陸棚共同開発への参加を呼びかけた。26日にはイシャエフ極東発展相が訪日し、極東開発で日本の協力を求める。長期にわたる体力と忍耐が必要な対露経済協力は、日本が国策としてロシアとどう向き合うかという戦略がなくては立ちゆかない。

領土問題の解決にあたって日露間の認識に依然隔たりがあるのも事実だ。しかし、中国などと緊張要因を抱えた日本にとって、地域の安定やエネルギー資源の確保という広い視点からも対露関係をとらえ直す必要がある。その中で領土問題打開への道筋を探っていくために、今回の会談を足がかりに、首脳同士の活発な相互交流にぜひつなげてほしい。

産経新聞 2013年02月21日

安倍首相訪米 対中抑止へ具体的行動を

安倍晋三首相には、自ら米国をリードする覚悟でスピードと実効性ある措置に思い切って踏み込んでもらいたい。

オバマ米大統領と就任後初の日米首脳会談に臨む際の注文である。

過去3年間の民主党政権下で日米同盟の空洞化が進み、北朝鮮の核実験や尖閣諸島への中国の攻勢強化などで東アジアと日本の安全保障環境は急を告げている。

首相が会談で日米連携や同盟強化をめざすのは当然だが、中でも緊急に必要なのは北の暴走をやめさせ、中国の無法で危険な挑発を抑止するための具体的行動だ。

そのためには、首相が掲げる集団的自衛権の行使容認を早急に実現し、在日米軍再編の核となる普天間飛行場移設を遅滞なく進めることが何よりも必要になる。日本の平和と安全のためにも決断し、行動をとってほしい。

会談は、安倍政権の発足後2カ月弱、オバマ政権は2期目の1カ月で新外交安保チームの編成途上というタイミングで行われる。

同盟強化の方向や共通課題を議論し、首脳間の信頼を再構築する意義はこの上なく重要だ。首相自身が「同盟の絆が戻ったと世界とアジアに示すことが日本の国土・領海・領土を守ることにもつながる」と強調している。

問題は、日米の周辺環境の悪化が急速に進み、一刻の猶予もならないことだ。認識や言葉の共有にとどまっていてはなるまい。中国海軍のレーダー照射事件が象徴するように、中国の力ずくの覇権行動は国連憲章の一線も越えた。

これを牽(けんせい)し抑止するには、米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条をいつでも発動できる態勢が不可欠になる。

首相は防衛大綱や日米防衛協力のための指針の見直しなどにも前向きだが、まずは集団的自衛権の問題や普天間移設を実行しなければ同盟の強化につながらない。このことを強く認識すべきだ。

米側新閣僚には対中協調を重視する傾向もある。訪米に同行する岸田文雄外相とケリー国務長官の会談で突っ込んだ協議を行い、対中認識を一致させてほしい。

「同盟の絆」の再構築には、原発・エネルギー協力や、中国をにらんだ新経済秩序のカギとなる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への主体的参加も欠かせない。ここでも、率先実行する指導力と覚悟が問われている。

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