明石歩道橋事故 強制起訴の課題示す免訴判決

朝日新聞 2013年02月22日

歩道橋判決 混雑警備に残した教訓

兵庫県明石市で2001年7月、大勢の花火見物客が、混雑した歩道橋で折り重なるように倒れ込み、11人が亡くなった。

検察審査会の議決によって、当時の明石署副署長が強制起訴された。だが、神戸地裁は「免訴」を言いわたした。

この事件で神戸地検は、現場で警備を指揮していた明石署の地域官や明石市部長ら5人を起訴したが、署長(07年死亡)と副署長は不起訴にした。

地域官の裁判では事故当日の過失だけが問われ、地検は警備計画をつくった段階の責任は不問にした。

検察の不起訴の判断に誤りがないかを、市民がチェックするのが検察審査会だ。「起訴相当」を2度議決すれば強制的に起訴する制度ができて、この事件が最初のケースとなった。

10年春の強制起訴で始まったこの裁判の特徴は、警備計画段階にさかのぼって責任を追及したことだ。法廷で初めて明らかになった事実も少なくない。

だれが歩道橋の通行規制の必要性を判断するのか。主催者の市側と警察の連絡態勢は心もとないものだった。現場での警察官の具体的な行動計画も定められていなかった。

判決は副署長の刑事責任に言及してこう指摘した。

署内で監視カメラの映像をモニターで見ていたが、透明な歩道橋の側壁が熱気で曇ってよく見えず、規制の必要があるという現場からの報告はなかった。警備計画も不十分だったが、それは署長が適正に権限を行使しなかったからだ――。

副署長には「過失なし」の結論ではあるが、モニターが見づらければ、現場と連絡して実態を把握できたはずだ。警備計画が不十分なら、署長に進言できる立場でもあった。

強制起訴の結果、警察の責任を幅広く見つめ直すことができ、事故から10年以上をへてようやく問題の背景を浮き彫りにできたのが、この裁判だった。

安全と命を優先するには何をすべきなのか。警察の使命を考えると、混雑時の警備について多くの教訓を残したといえる。

見逃せないのは検察の対応である。地検は当初、署長の刑事責任も追及するはずだったが、高検などとの協議をへて起訴を見送った。

だが、地域官の刑事裁判や遺族が起こした民事裁判では、不十分な警備態勢にふれて、その責任のかなりの部分が署長にあると言及する判決が続いた。

署長の存命中に司法の場に持ち込まれていれば、事件の全容がもっとはっきりしただろう。

毎日新聞 2013年02月21日

歩道橋事故判決 免訴でも意味はあった

11人が死亡した01年7月の兵庫県明石市の歩道橋事故で、業務上過失致死傷罪に問われた県警明石署の元副署長に対し、神戸地裁は、公訴時効(当時5年)の成立を理由に裁判を打ち切る免訴を言い渡した。

市民で構成する検察審査会の起訴議決を受けて強制起訴された全国で初めてのケースだった。判決は、署内にいた元副署長が歩道橋の危険な状況を認識できず事故を予見できなかったと判断し、現場責任者で有罪が確定した部下の元地域官との共同正犯も認めなかった。事実上の無罪判決と言える。

強制起訴事件の1審判決で、沖縄県の未公開株詐欺事件と小沢一郎・生活の党代表の資金管理団体による政治資金規正法違反事件の2件が無罪となり、制度見直し論が出た。だが今月、罪状が軽微なため起訴猶予とした事件とはいえ、暴行罪に問われた徳島県石井町長が初の有罪判決を受けた。元副署長の判決も強制起訴の手続きは適法と認めた。

検察は起訴する権限を独占し、起訴するかどうかの裁量もある。今回のように警察官が対象の事件で起訴を見送れば、恣意(しい)的に刑事責任の追及を避けたという疑いを招きかねない。不起訴の判断が適正かどうかを市民の目で吟味するのが審査会の役割である。

警察の組織として取り組むべき警備にミスがあったのに当時の署長(07年死亡)と副署長が刑事責任を問われないのは、遺族らにとっては納得のいかないことだろう。元地域官の判決も元副署長らの責任に触れており、起訴議決が、公開の裁判で事実関係と責任の所在を明らかにするよう求めたのは理解できる。

警備計画で事故防止の具体策が定められず、署内の警備本部も機能しなかったことなど法廷で明らかになった事実も少なくない。元副署長も「花火大会の主催者などと意思疎通が図れず、徹底した規制を早めにしておけば事故は起きなかった」と述べた。雑踏警備の教訓となろう。

遺族は被害者参加制度で元副署長に率直な思いを直接示すことができた。免訴という結果にかかわらず、強制起訴には意味があったと言える。

課題も見える。事故から8年を過ぎて被告となった元副署長は退職後の職を失うなど負担は大きかった。被告に苦痛を強いるのに、審査員に法的助言を与える弁護士がどう説明したのか、どのような資料をもとに議決したのかなど審査内容がわからない。

審査過程を検証できるよう透明性を高め、審査対象者が反論する機会を義務化することなどを検討してはどうか。議論を重ねて課題を解決し強制起訴制度の信頼性を高めたい。

読売新聞 2013年02月21日

明石歩道橋事故 強制起訴の課題示す免訴判決

雑踏警備の監督責任者に刑罰を科すことを求めてきた遺族にとっては、厳しい結論だ。

2001年7月、花火大会の見物客11人が死亡した兵庫県明石市の歩道橋事故で、神戸地裁は、強制起訴された明石署元副署長に「免訴」を言い渡した。

裁判を打ち切り、元副署長を事実上、無罪とする判決である。

元副署長は、警備の現場責任者だった明石署の元地域官(実刑確定)と共犯関係にあったとして、検察審査会の議決により、業務上過失致死傷罪で強制起訴された。09年導入の強制起訴制度が適用となった初めてのケースだった。

判決は、強制起訴された10年4月の時点で、時効(5年)が成立していたと判断した。時効が成立していれば、免訴とするしか選択肢はなかったと言える。

検察官役の指定弁護士は、「共犯関係にある元地域官は当時、公判中だったため、刑事訴訟法の規定により、元副署長の時効は成立していない」と主張していた。

これに対し、判決はまず元副署長の過失を否定した。「現場から歩道橋への流入規制要請はなく、署内のモニターでも危険は察知できなかった」との理由からだ。

その上で、過失がない以上、元地域官との共犯関係も存在しない、として時効成立を認めた。

しかし、刑事責任は別としても、被害の甚大さから見て、警察の警備や安全対策に落ち度があったことは間違いない。判決も「署長の補佐役である副署長の権限行使は不十分だった」と批判し、警備計画の不備も指摘した。

事故後、警察庁は、雑踏警備の指導責任者を新たに置くよう全国の警察に通達を出した。再発防止の徹底が何より重要である。

強制起訴は全国で7件あり、1審判決は今回で4件目だった。これまでに有罪判決は、徳島県石井町の町長の1件のみだ。

今回の裁判も含め、共通した問題点は、指定弁護士にかかる過度な負担だろう。検察が不起訴とした事件で、有罪を得る証拠を集めるのは容易でない。検察事務官に証拠分析などを補佐させる仕組みを検討すべきではないか。

一般市民が務める検察審委員に対しては、法律的助言が大切だ。時効がポイントとなった今回のような場合は、なおさらである。助言するのが審査補助員の弁護士1人だけでは十分とは言えまい。

強制起訴制度を根付かせるには、裁判例を検証し、課題を改善していくことが欠かせない。

産経新聞 2013年02月22日

明石事故判決 検審否定に結びつけるな

兵庫県明石市で平成13年、花火大会の見物客11人が死亡した歩道橋事故で、神戸地裁は、業務上過失致死傷罪で強制起訴された明石署元副署長に免訴を言い渡した。

公訴時効(5年)の成立を理由としたもので、事実上の無罪判決といえる。平成21年に創設された強制起訴制度で起訴された被告の1審判決は4件目だ。有罪判決はこれまで、科料9千円が言い渡された徳島県の暴行事件があるのみである。

この事実だけをもって、検察審査会(検審)による強制起訴制度を否定すべきではない。

強制起訴制度は、検察が独占してきた起訴権限に民意を反映させることを目的に導入された。検察が不起訴とした事件について、国民から選ばれた検審が2度、「起訴すべきだ」との結論を出せば強制的に起訴される。

元副署長の議決で検審は「審査会の立場は検察官と同じではなく、公開の裁判で事実関係や責任の所在を明らかにし、事故の再発防止を望む」と言及した。

その公判を通じて、警備計画のずさんさも明らかになった。判決後、裁判長は元副署長に「事故を風化させないよう伝えていく道義的責任がある」と説諭した。

生活の党代表の小沢一郎氏が強制起訴された政治資金規正法違反事件でも無罪が確定したが、公判は、政治家本人の罪を問うことが極めて難しい規正法の不備をえぐり出した。

いずれも、検察官による不起訴で終わっていれば浮き彫りにはならなかった。被告にかかる過重な負担や、審査会に対する法的助言のあり方など、克服すべき課題は多い。それでも強制起訴の意味合いは認められるべきだろう。

検察官が起訴した被告の有罪率は99%を超す。これに対し、小沢氏を強制起訴した起訴議決は「検察官だけの判断で有罪となる高度の見込みがないと思って起訴しないのは不当」とした。強制起訴は「検察官が起訴を躊躇(ちゅうちょ)した場合、いわば国民の責任において刑事裁判の法廷で黒白をつける制度である」とも述べた。

多少乱暴ながら、民意を反映させるということの本質を表している。有罪率に差が出るのは当然であり、起訴に異なる基準ができることになる。社会はこれを受容すると同時に、法の不備は正していかねばなるまい。

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