朝日新聞 2009年12月02日
臨時国会 「言論の府」が泣いている
これほど議論のない国会も珍しい。
日本郵政グループ3社の株式売却凍結法案がきのう、委員会での実質審議わずか1時間半で衆院を通過した。参院でもスピード審議され、4日の会期末までに成立する見通しだという。
鳩山政権が進める郵政民営化見直しの第一歩となる法案だ。4年前の総選挙で圧倒的な支持を得た小泉郵政改革の方向を大きく転換しようかという大問題なのに、まともな議論もなしに素通りとはあきれる。立法府の存在理由が問われる。
そもそも、国会の会期延長を4日間にとどめた政府・与党の判断に疑問がある。一日でも早く来年度予算の編成作業に専念したいという事情はあろうが、これほど土俵を狭くしては最初から議論を逃げていると見られても仕方なかろう。
党首討論もなさそうだ。急激な円高・株安への対応、マニフェスト実行の優先順位、普天間飛行場の移設などなど、国民が聞きたい論戦のテーマはたくさんある。それを来年に持ち越すとは何とも情けない。
首相は「党首討論に消極的な発言は一度もしていない。いつでも結構だ」と言う。ならば、今からでも遅くはない。与党に指示して党首討論の場を進んでつくるべきだ。
審議を欠席している自民党の対応も嘆かわしい。党首討論や予算委員会での集中審議に与党が応じないことを理由にしているが、与党時代に野党の審議拒否戦術を批判していたのは、他ならぬ自民党だ。国会で堂々と論戦を挑んでこそ、健全野党の名に値する。
民主党の小沢一郎幹事長は、政府・与党が一元化された結果、国会は政府と野党の議論の場になったという。となればなおさら、野党抜きの国会など成り立つはずがない。与野党が円滑な審議の環境づくりに協力しあうことがなぜできないのか。
国会のていたらくの背景に何があるのか。民主党にとっては、鳩山首相の虚偽献金問題の追及を避けたいという思惑も大きいに違いない。
自民党には、抵抗戦術で新政権の足を引っ張りたいという底意がうかがえる。郵政株式売却凍結法案に賛成する議員が出かねないため、審議拒否で欠席のまま与党に採決させた方が得策、という計算もありそうだ。
これでは、政権交代で国会も政治家同士がフェアに激しく議論する場に変わると期待した国民を裏切ることにも等しい。
この間、全面公開で行われた行政刷新会議の事業仕分けには、日本中から大きな関心が寄せられた。
本来なら、議員が有権者になりかわって議論を戦わせる国会こそ、もっと注目されてしかるべきなのだ。そのことを与野党に自覚してもらいたい。
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毎日新聞 2009年12月01日
国会延長 4日だけとはあきれる
臨時国会の会期延長が30日決まった。しかし、延長は12月4日までのわずか4日間だ。政府・与党はあまりに急ぎ過ぎであり、しかも、鳩山由紀夫首相と谷垣禎一自民党総裁との党首討論は一度も開かれずに閉会する見通しだ。これでは、首相の資金管理団体をめぐる偽装献金問題など「疑惑隠し」のための短期延長と批判されても仕方がない。
与党3党は4日までに国が保有する日本郵政グループの株の売却を凍結する法案などを成立させて国会を閉会し、新年度予算案編成などに専念したい意向といわれる。
だが、凍結法案は、05年の総選挙では最大の争点だった郵政民営化の見直しにつながる最初の法案だ。それをこんな短期間の審議で決着をつけようとするのは、やはり強引で、民主党が野党時代に自民党を批判していたのと同じように国会軽視、審議軽視と言わざるを得まい。
今国会で民主党はいったん、強行採決の手段に出たものの、国民の批判を受けると一転、その後の採決を控え、この日の会期延長に至った。だが、再三指摘してきたように、元々、今国会は開会するのが遅く、会期も短期過ぎたのだ。
会期を延長しても党首討論も開かないというのは、ともかく鳩山首相の献金問題を追及されたくないという逃げの姿勢が一段と鮮明になったというほかない。党首討論が開催されないのなら、なおのこと首相は献金問題にしぼった記者会見を開き、長時間かかっても説明を尽くすべきだと改めて求めておく。
一方、自民党は反発して会期延長を決める衆院本会議を欠席し、今後も審議に応じない構えという。与党時代、野党の審議拒否を非難していたのは自民党だ。これもほめられた対応ではない。
特に郵政株式売却凍結法案は自民党内にも賛成する議員がおり、本会議での採決となれば造反議員が出る可能性があるとも指摘されている。党内の不一致を覆い隠すため、実は与党の強行採決は渡りに船なのではないかとの見方さえあるほどだ。
一体、いつまで旧態依然とした駆け引きを続けるのか。国会が議論の中身ではなく、相変わらず日程をめぐる与野党対決に明け暮れている間、国民の関心のほとんどは行政刷新会議の事業仕分けに向いていたことを深刻に受け止めるべきである。
予算案の査定は無論、政府の仕事だが、税金の無駄遣いを審議を通じてあぶり出すのは本来、国会の大きな役割でもある。国会改革に関する法案提出は来年の通常国会に先送りされるようだが、そもそも国会の役割とは何か、与野党通じて原点から考え直す必要がある。
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産経新聞 2009年12月05日
郵政株式凍結 次は貯金残高縮小めざせ
日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却を凍結する「日本郵政等株式処分停止法」が参院で可決、成立した。小泉政権による郵政民営化路線の終焉(しゅうえん)であり、「公社化」をめざしているとしか思えない。このまま突き進んで民業圧迫の愚を繰り返してはなるまい。
株式売却の凍結は政府が100%株を保有し、国有を続けるという意味だ。民営化の当初の計画では3社の株式を平成29年9月までに上場して売却する計画だった。政府は今後、経営形態を一体化の方向で見直し、来年1月召集予定の通常国会に「郵政改革法案」を提出するという。
凍結法成立後、亀井静香郵政改革・金融相は「来年3月ごろ通常国会に提出したい。大変な作業だが見直したら悪くなったといわれたら大変」と語った。だが、亀井氏が目指すような方向では逆にその懸念が現実になってしまうのではないか。
そもそも役員人事がそれを物語る。元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を日本郵政社長に据え、他の幹部も元財務官僚や元郵政官僚などにすげ替えた。鳩山由紀夫政権の「官僚依存からの脱却」という旗印を自己否定したことにもなる。経営陣に官僚らを起用したのは再度民営化をめざすことはないという意思表示だろう。
さらに問題なのは民業圧迫が一層強まりかねないという点だ。ゆうちょ銀行は郵便貯金を通じて集めた約180兆円の資金の8割を国債で運用している。政府の新たな方針に沿って、今後全国一律のサービスを充実させれば、コストがかかる。そのため、斎藤社長は民間貸し付けを強化する意向だが、それでは地方金融機関と競合することになる。まして、銀行法と保険業法の適用を除外され、特別扱いされるとなれば、民間の反発は必至だろう。
こういう経緯をみれば、亀井氏の「民業圧迫にはならない」という説明は信じられない。かつての財政投融資のような政府の「財布」に使われる可能性も否定できない。
こうした郵貯のゆがみを是正するには残高の大幅縮小しかあるまい。新規預入限度額を現行の「1人あたり原則1000万円」から引き下げるべきだ。
民業を圧迫する巨大な公的金融を縮小させることこそが、郵政改革の核心なのである。
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