原子力発電所を再稼働させないことを前提とした評価ではないのか、と疑わざるを得ない。
青森県の東北電力東通原発敷地内の断層を調査していた原子力規制委員会の専門家チームが、「過去11万年以内に動いた活断層の可能性が高い」との評価報告書案をまとめた。
さらに、原子炉建屋真下の短い断層についても「更なる検討が必要」と、活動する可能性を否定しなかった。本当に活断層として重視すべきかどうか、議論が割れるところだろう。
原発の安全基準では活断層の真上に重要施設は建てられない。東北電力は東通原発を2015年夏に再稼働させる目標を掲げてきたが、規制委が評価結果を変えない限り、再稼働は難しい。
すでに東北電力は電気料金値上げを政府に申請している。再稼働できないと、追加値上げは避けられまい。東日本大震災からの復興に響くことが懸念される。
難題は、専門家チームが敷地内だけでなく、東通原発がある下北半島を含め幅広い再調査を指示したことだ。広域に地盤が動いた結果、敷地内に縦横に走る活断層が生じたと判断したためだ。
専門家チームとして「活断層である可能性を否定するデータが必要だ」と東北電力に求めている。事実上、「100%活断層なし」の証明を課したことになる。
5人の専門家チームを統括する規制委の島崎邦彦委員の考えを反映している。他の4人も含め、人選に偏りがないのか。
そもそも、今の地震学の水準では不可能な要求と言える。しかも専門家チームは活断層であったとしても活動度は低い、と評価している。原発の耐震性が十分かどうかを評価する方が現実的だ。
実際、規制委が策定中の原発の新安全基準でも、活断層の完全な把握は困難であることが前提になっている。活断層が見つからなくても、活断層の存在を仮定し、必要な耐震強度を決める手順だ。
専門家チームの評価作業も、公正さを欠いている。
報告書案の内容は、これを決めた評価会合当日まで東北電力に知らされなかった。専門家チームから厳しい指摘があっても、東北電力が反論できるはずがない。
手順を踏んで事前に報告書案を送付し、適切なデータに基づいて論議した方が、原発の安全性向上には有益なのではないか。
規制委は今後、最大8か所の原発で断層評価を進める。評価手法の再考が必要である。
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