通貨安競争の回避 為替への不用意発言慎め

毎日新聞 2013年02月17日

G20金融会議 本質曇らせた円安論争

不毛な論争に乗っ取られた−−。そんな印象が残るモスクワでの主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議だった。

最大の焦点となったのは、安倍政権の経済対策である。昨年末以来、円が急テンポで値下がりし、海外から「円安狙いの金融緩和」「通貨戦争をもたらす近隣窮乏化策」などと非難の声が上がっていた。このため、日本の金融緩和はデフレ脱却という国内目的か、輸出競争力を高める円安目的か、との議論になった。

まずG20に先立ち、先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁らが、通貨安狙いの金融緩和は問題だが国内の景気浮揚目的なら構わないといった不可解な声明を発表した。安倍政権への批判か支持かで解釈が分かれ、市場はかえって混乱した。

結局G20は「通貨の切り下げ競争は控える」と“一致”を取り繕ったが、何ともむなしい決着だ。

確かに、政府や与党の要人が具体的な相場水準にまで言及して円高是正を唱えていた点で日本は突出していた。だがこれを別とすれば、先進国はどこも極端な金融緩和を進めている。リーマン・ショック後、真っ先に前例のない量的緩和を導入したのは米国だった。日本の緩和を正面から批判できないのはこのためだ。

本来、問われるべきは、先進国に広がった際限なき金融緩和策そのものであるはずだ。功罪の問題であり、政策が「国内目的」か「通貨安誘導目的」かと議論することに、あまり意味はない。

極端な金融緩和は実体経済の外でゆがみを生む危険がある。物価は安定していても証券や不動産のバブルを招いたり、原油や穀物などの先物価格をつり上げたりする。また、金融緩和を積極推進すれば、結果的にその国の通貨は安くなろう。先安感のある通貨を安価で借り、高リターンが見込まれる新興国などで運用する投機を加速させる恐れもある。

だが、ゆがみはいつか限界に達し、その衝撃は長期にわたって世界経済を痛めつける。まさにリーマン・ショックで露呈したことだ。

構造改革や財政再建、貿易の自由化にこそ本腰を入れて、長続きする安定成長を目指すのが王道だ。それは後回しで、楽な金融緩和に依存し、市場への影響力が乏しい新興国に「不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきだ」(浜田宏一内閣官房参与)と主張することは先進国のあるべき姿だろうか。

世界経済の安定があってこそ自国の繁栄を望めるグローバル化時代である。「主要国のお墨付きを得た」と解釈して金融緩和路線を突き進み、ゆがみを醸成することのないよう、安倍政権に念を押したい。

読売新聞 2013年02月18日

通貨安競争 対立の火種を残したG20声明

自国通貨の為替レートを安く誘導する「通貨安競争」を避けることで、日米欧の先進国と中国など新興国が一致した。

最近の円安に関し、日本が名指しの批判を回避できた点は評価できるが、対立が再燃する火種を残したと言えよう。

主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、モスクワで開かれた。

安倍政権発足後、大胆な金融緩和と機動的な財政政策を組み合わせた経済政策「アベノミクス」が導入され、急速に円安が進んだことが焦点になった。新興国などから、「円安誘導策ではないか」という指摘が出ていたからだ。

採択された共同声明は、「通貨の競争的な切り下げを回避する。為替レートを競争力を高める目標にしない」と明記した。懸念された日本への言及はなかった。

麻生副総理・財務相が円安誘導策を否定し、「デフレからの早期脱却を目指す」という日本の政策目標を説明したことで、一定の理解が得られたようだ。

ただし、声明は金融政策について、「国内の物価安定や経済回復に当てられるべきだ。負の波及効果を監視して最小化する」と強調した。為替市場などに悪影響を与え過ぎないよう、日本の政策にクギを刺したと解釈できる。

ブラジル、メキシコなど新興国では、日米欧による金融緩和に伴う過剰な資本流入や、自国通貨高への警戒感が強い。円安がさらに進むと不満が高まりかねない。

それだけに、政府・日銀はデフレ脱却に向け、アベノミクスの成果を着実に上げる必要がある。

円安に頼るだけでなく、金融緩和と財政政策と並ぶ「3本の矢」である成長戦略についても、具体化を急がねばならない。

産業界などでは、最近の円相場は、歴史的な超円高がやや是正されたに過ぎず、まだ相当の円高だという見方が出ている。

政府・日銀はそうした状況への理解を他国に求めることが大事だが、併せて、閣僚や内閣官房参与らは具体的な為替水準に言及する口先介入を慎むべきだ。

長期化した欧州危機が最悪期を脱し、米国の「財政の崖」もいったん回避されるなど、世界経済に明るい兆しが出てきた。

だが、G20声明が「世界の成長はまだ弱すぎる」と指摘したのはもっともだ。成長と財政再建の両立も各国の重い課題である。

日本はデフレ脱却と経済再生を急ぎ、世界経済の一層の安定に寄与することが期待される。

産経新聞 2013年02月18日

通貨安競争の回避 為替への不用意発言慎め

安倍晋三政権の経済再生策である「アベノミクス」に海外から円安誘導との批判が上がるなか、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が「通貨安競争の回避」を明記した共同声明をまとめた。

声明では、米欧と日本の「政策措置」は世界経済のリスクの後退に寄与すると評価された。円安誘導の意図はない、という麻生太郎財務相と白川方明日銀総裁の説明が一定の理解を得られたとみてよい。無用の摩擦を解消し、脱デフレ策を進める環境を国際的にも整えたものと歓迎したい。

そもそも、円安誘導との批判は誤解に基づく。やり玉にあげられた日銀の物価上昇目標の設定と達成に向けた金融緩和は、日本のデフレ脱却を目的としたものだ。現在の円安進行も昨秋までの歴史的かつ行き過ぎた円高の是正だ。

ただ、アベノミクスが結果として急速な円安を招き、そこに新興国や欧州勢の不満がくすぶっていることも忘れてはならない。

円安誘導批判のきっかけになったのは、閣僚や与党有力政治家らが「1ドル=85~90円」「100円程度」などと、相次いで為替の適正水準に言及したことだ。最近も、次期日銀総裁候補に名を連ねている副総裁経験者までが同様の発言をしている。

政府や中央銀行、その周辺の関係者は、理由のいかんを問わず為替の水準には触れないのが鉄則だ。市場の思惑を呼び、相場の波乱要因になるからだ。「為替相場を動かすのが狙い」とみられても仕方がない。

今後も不用意な発言があれば、海外の疑念と不満が再燃し、アベノミクスの足をすくいかねない。強く自戒を求めたい。

円安については、エネルギー政策との関係についても触れざるをえない。円高是正は輸出産業にはプラスだが、輸入にはダメージを与える。原油や液化天然ガスなどの輸入が大幅に増えている今、円安はさらなるコスト増を招く。

過度の円安は高騰しているガソリン価格などとともに、好転しつつある日本経済に冷水を浴びせかねない。原子力発電所が再稼働できず、火力に頼らざるを得ない現状では問題は大きい。

原発再稼働問題を放置したままでは、アベノミクスは早晩、深刻なジレンマを抱えることになると指摘しておきたい。

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