規制委人事承認 信頼される組織たれ

毎日新聞 2013年02月16日

規制委人事承認 信頼される組織たれ

原子力規制委員会の田中俊一委員長をはじめ委員5人の人事を衆参両院が可決した。5人は昨年9月、原発の緊急事態を理由に首相権限で任命されていた。国会同意を得ないまま活動するという仮免許状態から、やっと抜け出したことになる。

規制委の権限は強大だ。原発の新安全基準作りや防災対策強化など仕事は山積している。田中委員長は参院の所信聴取で「人と環境を守ることが規制委の使命。世界で最も高いレベルの安全を確保する規制を目指す」と述べた。その言葉を忘れずに重責を果たしてほしい。

国会同意は得たものの、規制委が国民から信頼される組織たり得るかは、今後の取り組み次第だ。意思決定過程を透明化し、判断の根拠を国民に分かりやすく説明していくことが大前提となる。安全基準作りや原発の活断層調査で、審議過程を公開してきたことは評価できるだろう。

活断層調査では、原発敷地内に活断層が存在する可能性が高いとする規制委側の判断に、電力会社側が反論する事態も起きた。だが、調査や審議過程を公開したからこそ対立も明らかになったのであり、規制委と事業者が議論を闘わせることは、水面下で意見をすり合わせるよりも、よほど健全なことだ。

その最中、規制委の事務局となる原子力規制庁の審議官が、日本原子力発電敦賀原発(福井県)の活断層評価報告書案を事前に原電側に渡していたことが発覚した。東京電力福島第1原発事故で、旧原子力安全・保安院や原子力安全委員会が事業者ともたれあう構図が指摘された。規制庁の職員も保安院や安全委からの転籍組が多い。新組織も体質は同じだ、と思われても仕方あるまい。

規制庁は今後、独立行政法人「原子力安全基盤機構」を統合して専門性の向上を図る予定だが、徹底した意識改革が必要だ。先月、衆院に設置された原子力問題調査特別委員会は、規制委や規制庁に対するチェック機能を発揮してほしい。

もちろん、規制委の判断が、政治や経済的圧力に左右されてはならない。国会の採決では、与党・自民党で原発立地県の議員らが欠席した。規制委は7月以降、新基準に従い原発の安全審査をするが、「科学的なジャッジ」(田中委員長)がよりどころとなるのは当然だ。

田中委員長は参院の所信聴取で、電力事業者に対し「自ら積極的に安全対策に取り組むよう意識改革を促していきたい」とも述べた。これは規制委自身にもあてはまる。海外の規制機関とも交流しながら、常に最新の情報を取り入れ、規制を深化させていくことが、原子力安全行政への信頼につながるはずだ。

産経新聞 2013年02月17日

規制委「承認」 健全運営なお見極めたい

この5人に任せたままで、原子力安全行政に対する国民の信頼を回復できるのか。原発の再稼働はどうなるのか。

原子力規制委員会の田中俊一委員長と委員4人の国会同意人事が衆参両院で事後承認された。

国会同意がない「仮免許」状態にようやく終止符が打たれたが、肝心の規制委が目指す方向性がはっきりしていない。

昨年9月の発足から約5カ月の規制委の運営は、脱原発に向けての暴走を危惧させるような言動が目についた。

例えば、原発敷地内の活断層調査である。島崎邦彦委員長代理とともに現地調査にあたった研究者は、いわゆる「原子力ムラ」の人材を排除し、学術団体からの推薦をもとに人選された。その結果、専門分野が偏り、科学的な妥当性や中立性について有識者の間から疑問の声が上がっている。

地震・津波対策は原発の安全性を高めるうえで重要な柱だが、規制委の活断層評価では、期間を40万年に拡大するなど現実的な安全対策からかけ離れた議論になる傾向もみられた。

原子力規制委の委員には、専門知識だけでなく原子力の規制と活用を冷静に見極める見識も求められている。経済、社会的な要請を無視するかのような姿勢では、国民生活や日本経済再生を脅かす存在になりかねない。

規制委は放射性物質の拡散予測でも初歩的なミスを繰り返し、原発周辺自治体や住民を混乱させた。これまでの取り組みでは発足時の期待に応え、国民の信頼を得つつあるとは言い難い。

残念なのは、国会が田中委員長以外の4委員から意見聴取をしていないことだ。委員の判断は、原発の再稼働や存続、日本のエネルギー政策に影響を及ぼす。個々の委員が原子力の規制と利用についての考え方を表明し、国会と国民に改めて納得してもらう機会を設定すべきだ。

原子力規制委は高い独立性と権限が保障された組織である。外部の声を遮断すると、独断に陥りやすい。委員各人が批判や疑問に真摯(しんし)に耳を傾ける姿勢を示すことが「信頼される組織」への第一歩となるはずだ。

規制委の健全性の維持のためには、国会に新設された原子力問題調査特別委員会に、その監視役を強く期待したい。

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