レスリング落選 五輪のマットが遠くなった

朝日新聞 2013年02月18日

五輪レスリング IOCは透明な議論を

レスリングが五輪の実施競技から外される危機にある。

国際オリンピック委員会(IOC)理事会は14人による無記名の投票で、2020年五輪の「中核競技」から外した。

五輪の肥大化は限界にある。活性化を促すために、新しい競技に門戸を開き、新陳代謝をはかる姿勢には賛成だ。

しかし多くのアスリートにとって五輪は究極の目標であり、夢だ。その判断には、客観性と透明性が不可欠だ。

レスリングは吉田沙保里選手らロンドン五輪の日本の金メダル7個のなかで、四つを占める「お家芸」だけに、日本の関係者の失望は大きい。

古代オリンピックに由来し、1896年の第1回近代五輪から実施された伝統競技だけに、衝撃は世界に広がる。

IOCは2001年にロゲ会長が就任し、28競技という上限を決めた。活性化のために競技の入れ替えを積極的に進める。

今回、外れたのがレスリングではなく、危ないとうわさされた近代5種だったら、日本でこれほど関心を呼んだだろうか。メディアは自国のメダル有望種目を中心に伝えるから、人気の濃淡に反映される。それは日本に限らない。

IOCは欧州が発祥で、今も欧州色が濃い。101人の委員のうち43人が欧州出身で、15人の理事も過半数を占める。

ロンドン五輪で外れた野球、ソフトボールもそうだが、西欧で不人気な競技は冷遇されやすい傾向がある。スポーツは世界を結ぶ。理事も広い地域から出て、責任を分かつべきだ。

今回、理事の中にレスリング出身者はいなかった。逆に、最後の投票まで争った近代5種の国際競技連盟の副会長がいて、存続のためのロビー活動をしたことを認めている。

IOC委員の3割弱は五輪出場経験者で、国際競技連盟の役員も多い。利害関係者を除いて何かを決めるのは非現実的だ。

ならば、自分の競技だけでなく五輪全体の発展を考える倫理が求められる。そして、運営の透明さがより大切になる。

今回、IOCは国際性、人気、普及・振興、伝統など39項目の評価基準を定めた。だが、「一部情報が足りない」として8月まで公表しない方針だ。

これはおかしい。

何かを決めるとき、その理由はすぐに示されるべきだ。そうでなければ改善も図れない。

追加競技1枠は、5月の理事会を経て9月の総会で決まる。レスリングの採否もふくめ、透明で公平な選考が大切だ。

毎日新聞 2013年02月17日

視点・レスリング除外 戦いは競技場の外でも

東京が招致を目指す2020年オリンピックの「中核競技(25競技)」からレスリングが除外された。国際オリンピック委員会(IOC)の理事14人による非公開の投票で決まった。もし、これが柔道と並ぶ日本のメダル獲得有望競技でなかったとしたら、これほどの論議を巻き起こしていただろうか。

IOCがまとめたロンドン五輪実施26競技の評価報告でレスリングはテレビ視聴者数やインターネットのアクセス数などの人気度や国際レスリング連盟(FILA)の組織体制などで評価が低かった。FILAの意思決定機関に女性委員会がないことなどが指摘されたという。レスリングは古代五輪からの伝統競技だが、女子は2004年アテネ五輪からの採用と歴史は浅い。階級数も男子のフリーとグレコローマンの計14に対し、女子はフリーの四つだけで、アンバランスが際立つ。

01年に就任したIOCのロゲ会長は前任者のサマランチ氏が推進した拡大路線からスリム化路線に転換した。背景には競技数が増え、先進国の大都市でしか開催できなくなってしまった現状への反省があった。実施競技を絞り込み、追加採用する場合はIOC委員の過半数の賛成が必要とした。テレビ映えする競技が有利とされる中、伝統競技といえどもIOCの意向に沿った改革を怠っては除外の対象となることが示された。

除外理由を公表しないIOCを「秘密主義」と批判する声もある。だが、開催都市を約100人のIOC委員が出席する総会での投票で決定する際も落選都市への説明はない。除外候補だった近代五種やテコンドーはロビー活動によって中核競技にとどまったとの見方が有力だが、根回しが欠かせないことはオリンピックの招致活動でも常識だ。FILAはあぐらをかいていたのかもしれない。

よくも悪くも、これが委員の約4割を欧州出身者が占めるIOCの実態なのだ。

除外を知らされたレスリング関係者が「金メダルを取れるレスリングが外れたらオリンピックが盛り上がらない。国を挙げて何とかしてほしい」と言ったことには驚いた。メダルが期待できない競技は価値がないとでも受け取れるような発言で、採用を目指す他競技への配慮に欠ける。メダル獲得を目指しているのは他競技も同じだ。

いずれにしても、オリンピックは競技場の中だけで戦いが行われているのではなく、その外側ではさまざまな利害と思惑がぶつかり合っていることを多くの人は知ったのではないか。(論説委員・落合博)

読売新聞 2013年02月15日

レスリング落選 五輪のマットが遠くなった

東京都が招致を目指す2020年夏季五輪の実施競技から、レスリングが除外される可能性が大きくなった。

ロンドン五輪で吉田沙保里、伊調馨両選手が五輪3連覇を成し遂げるなど、日本がメダルを量産してきたお家芸だけに、残念な事態である。

国際オリンピック委員会(IOC)理事会が、競技の入れ替えで五輪の活性化を図るため、除外候補の5競技の中から投票によりレスリングを選んだ。

今後、野球・ソフトボールや空手など7競技と残り一つの枠を争わなければならず、“復活当選”するのは難しい状況だ。

レスリングは古代オリンピックでも行われた伝統ある競技だ。1896年に始まった近代五輪では第2回大会を除き、実施されてきた。五輪の歴史に深くかかわってきた競技だけに、投票結果を意外に感じる人は多いだろう。

今回、レスリング以外で除外候補となったのは、近代五種、テコンドー、ホッケー、カヌーだ。IOC理事会は選考の際、競技の普及状況やテレビ中継の視聴者数などを判断材料にしたという。

近代五種とテコンドーが除外の有力候補とされたが、投票権を持つ14人の理事には両競技の関係者が含まれていた。存続に向けたロビー活動にも取り組んだ。

これに対し、14人の理事にレスリング関係者はいなかった。レスリング界には「五輪の根幹のスポーツだから大丈夫」という油断があった。日本のレスリング関係者が投票結果に「寝耳に水」と驚いたのが、それを物語っている。

近年の五輪で、IOCの大勢力である西欧の選手は振るわず、IOCにとって魅力の乏しい競技と判断された可能性もある。

今回の事態はIOCでの日本の発言力低下とも無縁ではあるまい。日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が現在、IOC委員に名を連ねているが、理事のポストは得ていない。

組織の中核に人材を送り込まなければ、日本の利益を運営に反映させるのは困難だ。正確な情報を入手するのも難しいだろう。

IOCに限らず、各競技団体でも同様だ。スキーのジャンプで、長身の選手ほど長い板が使えるようにルールが変更されるなど、日本には苦い経験が数々ある。

ルールを作ったり直したりする側に回らなければ、与えられたルールを甘んじて受け入れるしかない、というのが現実だ。何もスポーツだけの話ではない。

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