日本版NSC 「外交安保」強化へ縦割り排せ

朝日新聞 2013年02月17日

日本版NSC 首相は教訓生かせるか

日本の外交・安全保障の司令塔をつくるため、安倍内閣が、有識者による検討を始めた。

司令塔とは「国家安全保障会議」のことだ。同名の米国の組織にならって「日本版NSC」とも呼ばれる。

外交・安全保障をめぐる環境は厳しさを増す一方だ。対応できるよう、政府の態勢を整えたいという思いは理解できる。

しかし、首相は6年前にもこれに取り組み、かなわずに終わっている。教訓を生かし、意味ある仕組みをつくれるか。問われるのはその点である。

紛らわしいが、「安全保障会議」はいまもある。首相を含む9閣僚で、国防に関する重要事項などを審議している。

この会議をNSCに改組しようと、第1次安倍内閣は2007年、国会に法案を提出した。9閣僚の会合とは別に、首相、外相、防衛相、官房長官の4人で頻繁に議論を重ね、外交と安全保障に一体的に取り組むことが主な眼目だった。

この法案は、生煮えの失敗作だったと言わざるを得ない。

閣僚が話し合う程度なら、わざわざ法律をつくり、新組織を設ける必要があるのか。後継の福田内閣は構想を白紙に戻し、法案は廃案になった。

そのせいか、首相は今回、情報の重要性を強調している。

「各部署がとった情報を集めて分析し、首相や官房長官に上げる機関がない。横串をかけた分析能力が劣っているのではないか」。外務省や防衛省、警察庁などが集めた情報を集約し、分析を加えるためにNSCを活用するというのである。

確かに、北朝鮮の核問題やアルジェリアの人質事件にみられるように、情報力の強化はさし迫った課題だ。

それは、組織を設ければかなうわけではない。肝心なのはプロ集団の育成である。

海外での情報収集には、言葉を操り、現地に溶け込む専門家の配置が必要だ。NSCで分析するなら、その能力に秀でているうえ、省益にとらわれない人材をそろえる方法を工夫しなければならない。

情報力を強めようとすれば、秘密保全が問題になる。簡単に漏れるのでは、他国も情報を教えてはくれない。だが、情報公開に真剣に取り組まず、秘密保全ばかり言うのでは、不都合な事実を隠したいだけだと国民に疑われる。

情報は鋭利な刃物だ。

それを扱う組織も、作り方次第で薬にも毒にもなる。首相はどれほどの構想を持っているのか。はっきり語ってほしい。

毎日新聞 2013年02月16日

日本版NSC 権限など十分な検討を

安倍政権は、国家安全保障会議(日本版NSC)創設に向けて、有識者会議を発足させた。日本版NSC創設は、外交・安全保障に関わる国家戦略づくりを首相官邸が主導して進めるのが狙いだ。

07年に第1次安倍内閣が日本版NSCを設置する法案を国会提出したが、廃案になった。再登板した安倍晋三首相の「悲願」なのだろう。

1986年に設置された現在の安全保障会議は、首相から諮問された国防などに関する「重要事項」を審議し、首相に意見を述べることができる。しかし、スタッフも少なく、審議というより決定事項を追認する場になっているのが実情だ。

外務、防衛両省などにまたがる外交・安保政策について縦割り行政の弊害をなくすとともに、少ない情報を元に限られた時間で政策決定を迫られる危機管理課題の特徴を考えれば、そうした政策について最終的決定権者である首相の下に「司令塔」組織を設けるのは合理的である。

安倍首相は、米政府の国家安全保障会議(NSC)を参考に、情報共有と分析、関係省庁の政策調整、戦略・政策の企画、首相への助言などを行う組織を目指しているようだ。米NSCとの協議も念頭にあるのだろう。英国も10年、それまでの組織を改め、NSCを発足させた。

ただし、検討すべき課題もある。

国民から直接選ばれた大統領が指揮する米NSCと、内閣が議会に責任を負う議院内閣制の日本におけるNSCでは位置付けが異なる。NSCにどんな権限を付与し、監督体制をどうするのか、十分な議論が必要だ。その場合、日本と同じ議院内閣制で、議会によるNSC監視を重視している英国の例は参考になろう。

国会や国民に対し、日本版NSCの検討内容の透明性がどの程度、確保されるのかという問題もある。

また、国民から支持される安定感ある外交・安保の戦略、政策を検討するには、国際情勢について知識と見識を持った有能な一定数のスタッフが必要となる。そうした人材の確保、育成のあり方は重要な論点である。そして、戦略や政策、危機管理・対応を検討する前提となるのが、情報の収集・分析能力である。これをどう高めるかも避けて通れない課題だ。

さらに、日本版NSCが政策の企画・立案まで行うとすれば、外務、防衛両省などとの関係も整理しなければならない。法案の作成は、両省にとどまらず、現在の中央省庁の中心的機能である。省庁との役割分担を明確にする必要がある。

有識者会議には、第1次安倍内閣の法案内容にとらわれず、さまざまな論点について説得力を持った方向性を打ち出してもらいたい。

読売新聞 2013年02月16日

日本版NSC 「外交安保」強化へ縦割り排せ

日本の安全保障にかかわる様々な危機に対処するため、政府の司令塔を作る意義は大きい。

国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を検討する政府の有識者会議が初会合を開いた。春にも報告書をまとめる。政府は、通常国会への関連法案の提出を目指す方針だ。

日本版NSCの創設は、安倍首相の念願であり、再挑戦だ。2007年4月に第1次安倍内閣が関連法案を提出したが、同年7月の参院選敗北などで審議は進まず、廃案になった経緯がある。

最近、北朝鮮の核実験、中国軍艦船のレーダー照射など、日本の安全を脅かす事態が相次いだ。

だが、政府の安全保障会議は形骸化し、事実上、首相と関係閣僚が各省の官僚の報告を追認する場に過ぎない。首相、官房長官、外相、防衛相らが外交・安保の重要課題を実質的に協議し、決定する場を設けることが急務である。

日本版NSCには、二つの重要な役割が期待される。

一つは、現在進行中の緊急事態について、迅速かつ適切な政治判断を行い、具体的な対処を指揮することだ。もう一つは、中長期的な安全保障戦略を策定し、危機に備える政策の立案と訓練の方向性を示すことである。

そのためには、外務、防衛、警察など関係省庁の縦割り対応を排し、政府全体で首相官邸を支える制度を構築することが肝要だ。

現在も、政策を総合調整する内閣官房の事務局として、安全保障・危機管理担当や外交担当の官房副長官補が率いる組織がある。

日本版NSCがあらゆる案件を担うのは現実的ではないし、既存組織の「屋上屋」になってはかえって非効率化する。日本版NSCの事務局は、基本的に少数精鋭とし、関係省庁を掌握できる仕組みにするべきだろう。

政策決定の前提となる政府全体の情報収集・分析能力を高めることも重要である。

アルジェリアの人質事件では、途上国におけるテロ・軍事情報を入手する困難さが浮き彫りになった。インテリジェンスの専門家を増員するとともに、中長期的に育成していくことが大切だ。

政府全体の情報を統括する内閣情報調査室も改革が求められる。今は「警察庁の出先機関」と見られており、関係省庁が重要情報をきちんと共有し、有効活用する本来の体制には、ほど遠い。

米国など関係国から提供された情報などの漏えいを防ぐための情報保全法制の整備も必要だ。

産経新聞 2013年02月16日

日本版NSC 国家の危機救う司令塔に

国家の安全保障戦略を一元的かつ継続的に構築する機関が存在していないという戦後日本の「歪(ゆが)み」を一刻も早く正すべきだ。「日本版国家安全保障会議(NSC)」創設に関する有識者会議への期待である。

日本版NSCは首相官邸を司令塔に、目前の危機への対応や中・長期的な外交・安保課題に備える。米国の制度を参考に設置を目指す。

安倍晋三首相は第1次内閣時にも関連法案を提出したが、尖閣諸島への中国の攻勢や北朝鮮の核・ミサイルなど、日本の安保環境は格段に悪化した。政府と有識者会議は速やかに議論を進め、早期実現に全力を挙げてもらいたい。

当時の法案では、NSCは首相を議長に官房長官、外相、防衛相らで構成することとし、外交・安保を含む国家戦略の基本方針や有事対応に関する重要事項などの審議を柱としていた。

有識者会議はこれをたたき台としつつ、その後の安保環境の激変を踏まえて、有事に迅速かつ的確に対処するための組織のあり方やその権限、態勢を検討する。国家の防衛と安全に不可欠な情報についても、その収集と分析の進め方などを議論する方針だ。

アルジェリア人質事件では、各省庁の縦割りが原因となって首相への報告が遅れ、十分な情報集約もできなかった。首相は「さまざまな情報の断片を集めて一つの絵を描く」ために「横串にした危機管理」が重要と強調している。

外務、防衛、警察などが情報を抱え込み、互いに権限や権益を争うようでは、国を挙げての一元的対応はとれない。各省庁の情報を吸い上げ、横断的・重層的に分析できるスタッフも不可欠だ。

具体的にはNSC担当首相補佐官を常設し、情報集約権限を法的に明確化しておくべきだ。その下に当初は20人前後のスタッフを想定しているが、情報分析にはさらに多数の要員が必要だろう。

米NSCは1947年に創設され、長い歴史を誇る。国務省、国防総省、軍、情報機関などの縦割りに陥りやすい政策決定過程を統合し、大統領が総合的、機能的に決断できる。日本もこうしたシステムを学ぶべきだ。

有事や災害時などの緊急事態に首相官邸を司令塔に対処方法を問いかけ、国の総力を発揮できる答えがすぐに返ってくる。そうした組織を作り上げてほしい。

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