朝日新聞 2013年02月14日
PC遠隔操作 サイバー捜査力向上を
この事件をきっかけに、警察にはサイバー捜査の能力を高めてもらいたい。
コンピューターウイルスで遠隔操作されたパソコン(PC)から犯罪予告が書き込まれた事件の容疑者が逮捕された。
捜査のハードルは低くない。猫に首輪をつけたのが容疑者本人で、首輪についていたメモリーカードからこのウイルスの設計図が見つかったとしても、それだけで書き込みをした犯人だという証明にはならない。
そのうえ、4都府県警が4人を誤認逮捕したいきさつもある。うち2件では、初めは否認していた人に容疑を認める偽りの供述をさせてしまった。
今回逮捕された容疑者は全面否認しているし、仮に今後なにか供述を得られたとしても、真実かどうかを慎重に吟味する必要がある。
そのため、容疑者のパソコンや遠隔操作に悪用されたパソコンを解析して何らかの足跡を見つけるなど、客観的な証拠を積み上げなくてはならない。
捜査が進展したのは、サイバー犯罪の捜査能力が発揮された結果とは言いがたい。容疑者が猫に首輪をつけにいかなかったら、あるいは防犯カメラに姿が映っていなければ、警察は彼にたどり着けただろうか。
仮想空間から現実世界に舞台が移ったために従来の捜査手法が使えたにすぎない。匿名化ソフトによる壁といったサイバー捜査の課題は残されたままだ。
供述に寄りかからない捜査を行うためにも、客観証拠を集める捜査力を磨く必要がある。
警察庁は昨秋、サイバー犯罪に対応するため、不正プログラム解析センターを設けた。全国から技術を持つ捜査員約20人を集め、ウイルス情報の分析やデータベース化を進める。
県や国の境が意味をもたない犯罪だけに、都道府県警の垣根を越えた情報と人材の集約をさらに進めてほしい。
ウイルス対策の関連企業などから中途採用した捜査員は全国で約80人にとどまる。即戦力の採用も強化すべきだ。
世界で1日10万種以上というウイルスの増殖には、警察だけでは追いつけない。知識と人材の蓄積は民間に一日の長があろう。捜査情報の守秘義務をしっかり取り決めたうえで民間の企業や技術者との協力を深め、情報の交換や解析の委託を進めていくのが現実的だ。
捜査機関が書き込みの監視と解析を強化することは、プライバシーの面からは微妙な問題をはらむ。乱用に歯止めをかけるルールの議論も要る。
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毎日新聞 2013年02月15日
遠隔操作事件 海外捜査機関と連携を
4人が誤認逮捕されたパソコンの遠隔操作事件で、警視庁などの合同捜査本部が30歳の会社員を威力業務妨害容疑で逮捕した。
容疑者は否認しているとされる。捜査当局は供述に頼らず、押収したパソコンなどの解析を通してウイルス作成や感染させたことを示す客観的な証拠を示すべきだ。
慎重な捜査を尽くし、証拠に基づいて真相を示すことでしか、誤認逮捕を繰り返して失った警察への信頼を取り戻す道はない。
それにしても特異な事件だ。昨年6~9月にかけ6台のパソコンが遠隔操作され、殺人予告などが書き込まれた。
ネット上の住所であるIPアドレスに頼り、裏付けを欠いた捜査によって各地で誤認逮捕が生まれた。10月に入り、「真犯人」から弁護士や報道機関に「犯行声明」のメールが届き、警察は誤認逮捕を正式に認め、本格的な捜査を始めた。
だが、匿名化ソフトが使用されていたため捜査は難航。今年に入って「真犯人」から報道関係者らに再びメールが送りつけられた。事件のヒントを書き込んだ記憶媒体を神奈川県の江の島にいる猫の首輪に取り付けた、との内容だった。報道機関を利用して警察の捜査をあざ笑う劇場型犯罪の様相も呈した。
結果的に警察は猫を発見し、周辺の防犯カメラに残った容疑者の画像が逮捕の決め手になった。
裏返せば、パソコンなどの追跡捜査だけで容疑者にたどり着くのは難しかったということだ。事件は、サイバー犯罪への対応が喫緊の課題であることも示したと言える。
近年、サイバー犯罪に携わる捜査員の増員など態勢の充実化が図られつつある。民間との連携強化や機材の整備、専門家の育成や研修などさらに加速化しなければならない。
また、遠隔操作による誤認逮捕が四つの警察にまたがったように都道府県警察単位の捜査では対応が難しいのもサイバー犯罪の特徴だ。初期捜査を警視庁が一元的に行い、警察庁が各警察と調整する「全国協働捜査方式」が既に行われているが、さらに進めるべきだろう。
海外の捜査機関との連携も必要だ。サイバー犯罪で「真犯人」が匿名化ソフトを利用して自らの足跡を消す「なりすまし」の手口には、海外の捜査機関も頭を痛めている。
警察庁が専門家らで設置する「総合セキュリティ対策会議」は11年度の報告書で、匿名化ソフトの悪用防止には国内だけの対策では限界があると認め、国際協力が欠かせないと強調した。外国捜査機関との情報共有、国際会議などの場を通じた意見交換の充実に取り組んでほしい。
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読売新聞 2013年02月16日
PC遠隔操作 サイバー捜査の強化が急務だ
警察にとって、4人の誤認逮捕という消しがたい汚点を残した事件である。全容の徹底解明を求めたい。
パソコン遠隔操作事件が大きな進展を見せた。インターネット掲示板に殺人予告を書き込み、漫画イベントを妨害したとして、警視庁などの合同捜査本部は東京都内のIT会社社員(30)を威力業務妨害容疑で逮捕した。
だが、会社員は「真犯人は別にいる」と容疑を否認している。
誤認逮捕された4人のうち2人は虚偽の自白をしていた。取り調べで不適切な誘導などがあったことがうかがえる。
強引な捜査は許されない。客観的な証拠を積み重ね、事件の真相に迫ることが肝要だ。押収したパソコンなどを解析し、遠隔操作ウイルスを作成した痕跡などを見つけ出す必要がある。
捜査本部は、この会社員が「真犯人」を名乗って、報道機関や弁護士などに犯行声明のメールを送りつけた人物とみている。
神奈川県・江の島で、そのメールの内容通りに、猫の首輪から記録媒体が見つかり、事件で使われた遠隔操作ウイルスの設計情報が確認された。
江の島の防犯カメラは、会社員らしい男が猫に近づく姿をとらえていた。これが会社員を特定する端緒になった。容疑者がサイバー空間から抜け出し、現実の世界に姿を現さなかったら、果たして捜査は進展しただろうか。
犯罪者が常に一歩先を行くと言われるサイバー犯罪に対し、捜査能力をどう高めていくか。課題は依然、残ったままである。
一連の遠隔操作事件では、海外の複数のサーバーを経由して発信元を分からなくする匿名化ソフト「Tor」が使われていた。渡米した捜査員が一部の記録を持ち帰ったものの、ネット上での追跡は進んでいないのが現状だ。
サイバー空間に潜伏する犯人にたどり着けなければ、同様の事件の再発を防ぐことはできない。
専門知識を持つ捜査員の養成は重要だが、時間もかかるだろう。警察庁は民間の情報セキュリティー会社との連携強化を打ち出した。ウイルスの監視・対策を手がけてきた企業のノウハウを捜査に取り込むのは有益だ。
捜査情報の管理のあり方を検討した上で、民間との協力関係を築いていくべきだ。
欧米の捜査機関では、Tor対策に乗り出す動きがある。ウイルス情報の共有など、各国の捜査官の連携も欠かせない。
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産経新聞 2013年02月15日
遠隔操作男逮捕 大きな課題を残している
地道な捜査で容疑者に行き着いた警察の労は多としたいが、サイバー犯罪に弱い社会の重大な課題は残されたままだ。
遠隔操作ウイルス事件で警視庁などの合同捜査本部は、威力業務妨害容疑で、東京都内在住の男を逮捕した。
男は自己顕示欲のせいか、証拠に直結する記録媒体を江の島のネコの首輪に仕込んだ。その映像が防犯カメラに残され、逮捕につながった。
現実空間に身をさらした敵失を逃さなかった捜査といえる一方、容疑者がネット空間に潜み続けていれば、逮捕に至らなかったことになる。犯罪者が安穏とできる場所がある社会は、正常とはいえない。時代の変化が生んだ新たな犯罪に対応するための態勢づくりと法の整備は喫緊の課題だ。
事件は、パソコンの遠隔操作を通じて爆破や無差別殺人の犯行予告などが送信され、パソコンの持ち主4人が誤認逮捕された。
「真犯人」を名乗る犯行声明は「(警察に)醜態をさらさせてやりたかった」と動機を記した。意図的に冤罪(えんざい)を生み出すことを目的とした極めて悪質な犯罪だ。警察は犯行手口の全容を解明し、再発防止につなげてもらいたい。
だが、多様化、複雑化するサイバー犯罪は、こうした自己顕示型だけに限らない。総務省所管の独立行政法人、情報通信研究機構によれば、平成24年中に日本の政府機関や企業などを狙ったサイバー攻撃は約78億件もあった。
外国からの攻撃も目立ち、特に中国が発信元とされる攻撃は過去2年で25億件に達し、国家の防衛と安全が脅かされている。
警察当局は専門捜査員の育成、登用や民間との連携強化を図っているが、手口の巧妙化も急速に進んでいる。米国では軍事対応も含めて国防総省にサイバー司令部を創設した。日本も国を挙げて対応すべきなのはいうまでもない。
安倍晋三政権は政府一体のサイバー攻撃対策を進めるため、内閣官房に「内閣情報政策監」を新設する方針を決めた。首相が再招集した有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」もサイバー犯罪を「新たな脅威」として検討事項に加えた。
便利なインターネットは全世界規模で生活に定着した一方で、悪意が飛び交う異常空間も作り出した。これに対処するには、米欧などとの安保協力も欠かせない。
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