TPP交渉 参加を決断する時だ

朝日新聞 2013年02月15日

TPP交渉 主体的に関わってこそ

米国と欧州連合(EU)が、自由貿易協定(FTA)に向けて協議を始める。

世界貿易機関(WTO)を舞台にした多国間交渉が暗礁に乗り上げた後、さまざまな国や地域が、FTAや、より幅広い経済連携協定(EPA)の交渉を進めている。

合わせて世界の国内総生産の5割を占める米国とEUの動きは、通商ルール作りを両者が主導し、「世界標準」を決めてしまおうという狙いだろう。

世界3位の経済大国として、海外との通商を基盤に発展してきた国として、日本はこの流れにどうかかわっていけるか。

EUとの間では、近くEPA交渉に入る。米国と向き合う場は、環太平洋経済連携協定(TPP)である。

まもなく日米首脳会談が開かれる。絶好の機会ではないか。安倍首相は交渉への参加を表明すべきだ。

当事者となってTPPの実態をつかみ、わが国の利害を反映させる。農産物などの関税引き下げに加え、サービスや投資など20を超える交渉分野全体で利害得失を見極め、実際に加わるかどうかを決める。

これが基本だ。恐らく、首相もわかっているのだろう。

ところが、総選挙で自民党が掲げた「聖域なき関税撤廃を前提にする限り反対」という公約に沿って、オバマ米大統領との会談で自ら感触を得た上で判断する、と繰り返している。

農協はTPPに猛反対している。夏の参院選で農業票を失いたくない。オバマ氏から何らかの発言を引き出し、農業関係者への説明に使いたい――。首相の狙いはこんなところか。

TPPは、関税交渉では「全ての品目を対象にする」のが原則だ。ただ、「完全撤廃」とは限らない。

当の米国が、豪州と締結したFTAで砂糖の輸入関税を残すことになっているのを踏まえ、「TPPでは再交渉しない」としているのが好例だ。

昨年秋からTPP交渉に加わったカナダは鶏肉や乳製品の農家を関税などで保護している。かつてこの仕組みの維持を前提に交渉への参加を模索したが果たせず、「すべてを交渉のテーブルに乗せるが、譲歩すると約束したわけではない」との姿勢に転じ、認められたという。

交渉の現状を見すえつつ、あとは自らの交渉力次第、ということである。

首相は、オバマ氏の言質を取ろうと躍起になるより、新たなルール作りに主体的にかかわっていくべきではないか。

毎日新聞 2013年02月15日

TPP交渉 参加を決断する時だ

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加に向け、残された時間が少なくなってきた。政府与党内では、参加の是非を巡る綱引きが続くが、決断が遅れるほどTPPの貿易・投資ルールに日本の意向を反映しにくくなる。

安倍晋三首相は、今月下旬に予定されるオバマ米大統領との首脳会談で参加の意向を示すべく、リーダーシップを発揮すべきだ。

自民党の外交・経済連携調査会は、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対する」という「基本方針」をまとめた。衆院選の公約を再確認する内容だが、交渉参加の余地を残したことで、参加表明に向けた環境整備がわずかに進んだ格好だ。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、成長戦略を「三本の矢」のひとつに位置づけている。経済が成長するには、日本の企業や事業者の活躍の場を潜在力豊かなアジア太平洋地域に拡大する必要がある。そこでの貿易や投資のルールを決めるTPP交渉への参加は、「アベノミクス」のためにも不可欠といえる。

もっとも党内には、農業団体などの意向を反映した強い反対論がある。7月の参院選を不利にしたくないとの思惑から、決断の先送りを求める声も根強い。

しかし、それでは時間切れになりかねない。米国はじめ交渉に参加している11カ国は、今後、3、5、9月に会合を重ね、10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPP協定に基本合意することを目指している。

今回の日米首脳会談後に日本が交渉参加を表明したとしても、米国には新しい参加国を認める手続きに議会が90日以上かけるルールがあるため、交渉のチャンスは9月の1回しかない。参院選後にずれ込めば、その機会も失われることになる。

もちろん、基本合意が遅れる可能性はある。与党内には、それを見越した「決断先送り論」もある。しかし、それは無責任に過ぎる。

オバマ大統領は先日の一般教書演説で、「TPP交渉を完了する」と表明した。一般教書演説に「TPP」の言葉が盛り込まれたのは初めてで、合意に向けた大統領の強い意欲の表れといえるだろう。楽観的な「先送り論」は、協定に日本の主張を反映させる機会を奪い、国益を損なうことになりかねない。

安倍首相は日米首脳会談で、「聖域」の余地が認められるかどうかの感触を探る意向だという。しかし、「聖域」を守るためにも早く参加し、交渉力を発揮すべきではないか。「アベノミクス」を掲げる首相の政治決断を期待したい。

産経新聞 2013年02月17日

TPP交渉 決断し「新しい自民」示せ

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で、いま問われているのは、安倍晋三首相自身のリーダーシップなのである。

首相は、ワシントンで22日(現地時間)に行うオバマ米大統領との初の首脳会談に合わせて交渉参加を決断し、「新しい自民党」を国民に示す必要がある。

懸念されるのは首脳会談を前にした自民党の動きだ。党の外交・経済連携調査会がTPPに関する基本方針をまとめたが、これは米国側が「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」とした昨年末の衆院選公約堅持を改めて確認したものだ。

だが、これは票と既得権益で特定業界と結びついた、いわゆる族議員が幅をきかせた、かつての自民党ともダブる。それが国内改革を滞らせてきた側面もある。こうした状況が続けば、内実に乏しい「新しい自民党」に失望する有権者も少なからず出てこよう。

首相も首脳会談では米国の感触を探るにとどめる構えのようだ。「聖域の設定」が可能と判断した場合の交渉参加にも含みを持たせているが、7月の参院選に向け、農業団体や日本医師会などへの配慮が発言ににじむ。首相としてあまりにも消極的ではないか。

首脳会談の最大の眼目は、民主党政権下で亀裂が入った日米関係の修復と強化だ。TPPはオバマ大統領が一般教書演説で「交渉妥結をめざす」と明言するほど力を入れるテーマなのだ。

TPPは、中国の動きが活発化するアジア太平洋地域の経済秩序形成のカギとなる。中国をにらんだ場合、日本にも大きなメリットがあることを忘れてはならない。首相が目指す脱デフレにも、アジアの活力を取り込み、成長戦略の柱とする国内の規制改革を進めるてこになり得る。

政府の規制改革会議では、保険外診療を併用する混合診療の拡大や、農業への参入規制緩和などが議論される。医師会や農業団体の反発は必至だ。それらに抗せないのなら、金融緩和や財政出動で一時的に景気は浮揚しても、日本再生という大きな目的は、とうてい達成できまい。

TPP参加の前段階である交渉に加わるかどうかの議論でさえ、特定団体への配慮で立ち往生するようでは、安倍政権の成長戦略の先行きは危うい。

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