集団的自衛権 安全保障法制を総点検したい

朝日新聞 2013年02月09日

集団的自衛権 首相は何をしたいのか

集団的自衛権の行使に道を開くため、安倍政権が、有識者による懇談会で検討を始めた。

それによって日米同盟を強化するのだと安倍首相は言う。

では、日米同盟をどう変えたいのか。平和憲法の原則をなし崩しにすることはないか。議論の出発にあたり、首相はまずそのことを明確にすべきだ。

同盟国である米国が攻撃されたら、それを日本に対する攻撃とみなし、米国を守るために自衛隊が戦う。集団的自衛権の行使を日本に当てはめれば、こういうことだ。

日本は戦後、憲法の制約のもと、自衛のための必要最小限の武力行使しか許されないとの立場をとってきた。

日本が直接攻撃されていないのに米国を守るのはこの一線を越え、憲法違反だというのがこれまでの政府の解釈である。

この解釈を改め、いくつかのケースでは米国を守れるようにしよう。さもないと日米の信頼関係が壊れると首相は唱える。

尖閣諸島をめぐって日中間の緊張が続き、北朝鮮がミサイル発射や核実験を繰り返すなか、それへの牽制(けんせい)の意味もあるのだろう。

首相がしばしば挙げるのが次のようなケースだ。

▽自衛艦の近くにいる米艦が攻撃を受けた▽米国に向かうかもしれないミサイルを日本のレーダーが捕捉した――。

だが、政府の見解では、日米の艦船が並走しているようなときに攻撃を受ければ、自衛艦がみずからを守る名目で、これに反撃できる。

さらに、現在のミサイル防衛には、米本土に向かうミサイルを撃ち落とす能力はない。

一方で、日米の防衛体制はすでに深く結びついている。例えば、現代戦のゆくえを決するのは、潜水艦の位置や、ミサイル発射の兆候や軌道などの情報だが、日米は多くの情報を共有している。

これ以上、いったい何をしたいというのか。

東アジア情勢は大きく動いている。日米協力のあり方も、状況にあわせて変える必要はあるだろう。だからといって、なぜ集団的自衛権なのか。

自民党は、その行使を幅広く認める国家安全保障基本法の制定をめざしている。

これによって、憲法が求める「必要最小限の自衛」という原則や、それを具体化するために積み上げてきた数々の歯止めを一気に取り払おうとしているのではないか。

だとすれば、かえって国益を損なうだけである。

読売新聞 2013年02月09日

集団的自衛権 安全保障法制を総点検したい

安全保障政策の立案では、「現行の憲法や法律で何ができるか」にとらわれるだけでなく、「何をすべきか」を優先する発想が肝要だ。

政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、集団的自衛権の行使容認を提言する報告書を安倍首相に提出した。

第1次安倍内閣が設置した懇談会は、首相退陣後の2008年6月に報告書をまとめたが、具体化されなかった。安倍首相にとっては今回が「再チャレンジ」だ。

日本の安全確保に画期的な意義を持つ報告書であり、本格的な法整備につなげてもらいたい。

報告書は、共同訓練中の米軍艦船が攻撃された際や、米国へ弾道ミサイルが発射された際、日本が集団的自衛権を行使し、反撃・迎撃を可能にするよう求めた。

国際平和活動では、近くの他国軍が攻撃された際の「駆けつけ警護」を自衛隊が行えるようにする。「武力行使と一体化」する他国軍への後方支援は憲法違反とする政府解釈も見直すとしている。

「集団的自衛権を持つが、行使できない」との奇妙な政府の憲法解釈を理由に、日本が米艦防護やミサイル迎撃を見送れば、日米同盟は崩壊する。国際平和活動で自衛隊だけが過剰に法的制約を受ける現状も早急に改善すべきだ。

報告書は、基本方針の閣議決定、関連法整備などの歯止め措置も提案している。国内外の理解が得られる内容と言える。

無論、衆参ねじれ国会の下、関連法整備は簡単ではない。公明党や内閣法制局も憲法解釈の見直しには慎重だ。報告書の具体化が夏の参院選後になるのはやむを得ないが、まず政府・与党内でしっかり議論しておくことが大切だ。

安倍首相は、報告書で結論が出た4類型以外に、法整備が必要となる安全保障の課題についても検討するよう懇談会に要請した。報告書策定から5年近く経過し、より悪化した日本の安全保障環境に対応するには、適切な判断だ。

尖閣諸島周辺では中国軍の挑発・示威活動が続いている。自衛隊に「領域警備」の新任務を付与し、武器使用のあり方を含め、警察権と自衛権の法律の隙間を埋める作業は優先度が高い。

集団的自衛権の問題でも、防護対象を、近くにいる米軍艦船だけでなく、離れた海域で活動する艦船や、米軍の航空機などに拡大することも検討していい。

安全保障基本法や自衛隊の海外派遣に関する恒久法の整備に向けて、安保課題を総点検したい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1307/