人事案が報道されたら、その人は受け付けない。国会の同意が法律で義務づけられた政府の人事をめぐる「悪(あ)しきルール」が当面続くことになった。
廃止に柔軟な姿勢だった民主党が、態度を翻したためだ。
総選挙での惨敗からわずか1カ月半で、早くも「抵抗野党」に戻ってしまったのか。
民主党は考えを改め、ルールの撤廃に歩み寄るべきだ。
このルールができたのは「ねじれ国会」になった07年。参院議院運営委員長についた民主党の故西岡武夫氏が主導した。
こんなふうに説明された。
政府側が意図的に人事案を漏らして報道されれば、世間は既成事実と受け止める。それでは国会審議が形骸化する――。
いかにももっともらしいが、これはおかしな理屈である。
メディアが人事案を取材し、報道するのは、それが国民の知る権利に応えるものだからだ。一方、国会同意の目的は、国家機関の重要な人事について、資質や識見から適格性を判断することだ。事前報道があったかどうかは何の関係もない。
だからこそ、民主党政権だった昨夏には、原子力規制委員の人事については適用しないと民主、自民両党で確認したのではなかったか。
なのに野党に転落した途端、政権を揺さぶる武器はやっぱり手放せないということなら、ご都合主義もはなはだしい。
このルールを盾に、民主党は前回の自民党政権の手足を縛った。政権交代後、こんどは民主党がしっぺ返しを食った。
やられたらやり返す足の引っ張り合いを、いつまで続けるつもりなのか。
焦点の日銀正副総裁をふくめ、今国会では100人以上の同意人事の処理が迫られる。公正取引委員会委員長、会計検査院検査官ら、民主党政権のときから欠員が補充されないままで、実務に支障を来している人事もある。
これほど大量の人事が滞っているのは、民主党政権の先送りのせいにほかならない。その反省はどうなったのか。「決められない政治」への国民の厳しい視線を、もう忘れたのか。
そもそも、いまの「ねじれ国会」では、野党がこぞって不適格だと判断すれば参院で白紙に戻すことができる。
国会で十分に所信を聴き、さまざまな観点から人物の適格性を吟味する。
事前報道にこだわるより、国会の場でしっかり判断する審議のあり方を考えることこそ建設的ではないか。
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