「事前報道」 無用のルール即撤廃せよ

朝日新聞 2013年02月07日

国会同意人事 悪しきルールは撤廃を

人事案が報道されたら、その人は受け付けない。国会の同意が法律で義務づけられた政府の人事をめぐる「悪(あ)しきルール」が当面続くことになった。

廃止に柔軟な姿勢だった民主党が、態度を翻したためだ。

総選挙での惨敗からわずか1カ月半で、早くも「抵抗野党」に戻ってしまったのか。

民主党は考えを改め、ルールの撤廃に歩み寄るべきだ。

このルールができたのは「ねじれ国会」になった07年。参院議院運営委員長についた民主党の故西岡武夫氏が主導した。

こんなふうに説明された。

政府側が意図的に人事案を漏らして報道されれば、世間は既成事実と受け止める。それでは国会審議が形骸化する――。

いかにももっともらしいが、これはおかしな理屈である。

メディアが人事案を取材し、報道するのは、それが国民の知る権利に応えるものだからだ。一方、国会同意の目的は、国家機関の重要な人事について、資質や識見から適格性を判断することだ。事前報道があったかどうかは何の関係もない。

だからこそ、民主党政権だった昨夏には、原子力規制委員の人事については適用しないと民主、自民両党で確認したのではなかったか。

なのに野党に転落した途端、政権を揺さぶる武器はやっぱり手放せないということなら、ご都合主義もはなはだしい。

このルールを盾に、民主党は前回の自民党政権の手足を縛った。政権交代後、こんどは民主党がしっぺ返しを食った。

やられたらやり返す足の引っ張り合いを、いつまで続けるつもりなのか。

焦点の日銀正副総裁をふくめ、今国会では100人以上の同意人事の処理が迫られる。公正取引委員会委員長、会計検査院検査官ら、民主党政権のときから欠員が補充されないままで、実務に支障を来している人事もある。

これほど大量の人事が滞っているのは、民主党政権の先送りのせいにほかならない。その反省はどうなったのか。「決められない政治」への国民の厳しい視線を、もう忘れたのか。

そもそも、いまの「ねじれ国会」では、野党がこぞって不適格だと判断すれば参院で白紙に戻すことができる。

国会で十分に所信を聴き、さまざまな観点から人物の適格性を吟味する。

事前報道にこだわるより、国会の場でしっかり判断する審議のあり方を考えることこそ建設的ではないか。

毎日新聞 2013年02月09日

国会同意人事 民主の対応にあきれる

国民からどんな目でみられているか、まったく分かっていないのではないか。もちろん、国会の同意を必要とする人事案件をめぐる民主党の対応である。

経過はこうだ。安倍内閣は8日、公正取引委員会の委員長に杉本和行元財務事務次官をあてるなど14機関41人の人事案を衆参両院の議院運営委員会理事会に提示した。ところが杉本氏の人事案が、一部新聞に提示前に報じられたことから、民主党は「事前に報道された人事案は認めない」というルールを盾に提示を拒否し、理事会を途中で退席したという。杉本氏が適任かどうかの判断以前の問題だというわけだ。

今国会が始まった後、民主党はいったんはこのルールの撤廃に柔軟姿勢を示していたが、結局、国会同意人事案件を国会駆け引きの材料に再び使い始めたということだろう。あきれるような対応というほかない。

「事前報道ルール」は衆参ねじれ国会となった07年に設けられた。メディアの事前報道で人事が既成事実となり、同意人事が形骸化しかねないとの理由だった。しかし、ルール決定当時から私たちが強く批判してきたように、どう考えてもこのルールはまったくおかしなものだ。

そもそも事前に報道されたかどうかはその人事が適切かどうかにまったく関係がない。むしろ、その人物が適任かどうか、与野党がきちんと判断するという国会同意の趣旨をないがしろにするものだろう。

事前報道されれば認めないという発想自体、報道の自由に照らしても問題だ。

衆参のねじれ状態に、この奇妙なルールが重なり、政府の人事案件は国会の手続きが進まず、国会停滞の一因となっている。とりわけ民主党政権で国会同意人事は滞り、今度の通常国会では100人以上の処理を迫られている。こうした責任を重視したからこそ、民主党も一時、ルールの撤廃に傾いたはずだ。

一転してルール温存に転じた今回の対応は、輿石東参院議員会長が主導したとされ、与党主導の国会運営となることを輿石氏は警戒したとの見方がある。だが、こんなルールを頼りにしなければ安倍内閣に立ち向かえないのでは情けない限りだ。

民主党は政権を手放したら、何でも反対の抵抗野党に舞い戻るというのか。それでは国民の失望感は増すばかりだろう。

党内でも輿石氏の対応には批判が出ているという。今後、日銀総裁人事も控えている。民主党は拒否方針を撤回し、ルールはすみやかに撤廃すべきだ。そして人事案は是々非々で判断するというあたり前の原則に立ち返るべきだ。

読売新聞 2013年02月08日

国会同意人事 事前報道で拒む参院民主の愚

「抵抗野党」に先祖返りしたかのような参院民主党の態度には、唖然(あぜん)とするしかない。

民主党の輿石東参院議員会長が記者会見し、公正取引委員会委員長に杉本和行元財務次官を充てる政府の人事案を読売新聞などが報道したとして、「党としては政府からの提示を受けない」との意向を示した。

政府が国会に人事案を提示する前に、それが報道された場合、原則として当該者の提示は受け付けないとする与野党の「事前報道ルール」を振りかざしたものだ。

輿石氏の発言にあわてた民主党執行部は、政府から事前報道について納得のいく説明があれば人事案の提示を受けると軌道修正を図っている。

党の方針を巡ってまとまった対応の出来ない民主党の姿をまたもや露呈したとも言えよう。

このルールは2007年参院選で衆参ねじれ国会になったことを機に設けられた。一部の同意人事案が、提示前に新聞報道されたことに対し、参院で多数を占める野党の民主党などが国会審議の形骸化を招くと反発したためだ。

だが、国民の関心が高い人事は、政府の提示前でも報じられることが十分あり得る。事前報道ルールは、報道規制につながりかねない上、情報の意図的な漏えいによって、人事案をつぶすことも可能だ。廃止すべき悪弊である。

民主党政権下の昨年7月、原子力規制委員会の人事案が事前に報道された時には、野党だった自民党が反対した。民主党はその際、ルール廃止を提案したことをもう忘れたのだろうか。

民主党の細野幹事長は、「与党時代に苦しんだ」として廃止に賛意を示していた。今国会では与野党がルールの廃止を確認する方向で協議してきたのに、輿石氏の発言は、それを“ちゃぶ台返し”するようなものだ。

与野党が攻守所を変えた不毛な争いはやめるべきである。

今国会では、公取委員長や原子力規制委員長など重要な国会同意人事案件が多数控えている。

注目されるのは3月19日に辞任する白川方明日銀総裁の後任だ。前回08年に政府が示した人事案は野党だった民主党が反対して参院で否決され、1か月近くも総裁が空席となる事態を招いた。

輿石氏は、あくまで事前報道ルールを盾に抵抗する姿勢を貫くのだろうか。

与党としての経験を生かすことなく、抵抗野党に戻るようでは有権者に見放されよう。

産経新聞 2013年02月09日

参院民主党 「何でも反対」に戻ったか

民主党は、3年余に及んだ政権与党の経験から何も学んでこなかったようだ。

公正取引委員会委員長に、杉本和行元財務事務次官を充てるとした政府の人事案提示を拒否し、衆参両院の議院運営委員会理事会を途中退席したことだ。

公取委員長は昨年9月から空席が続いている。これ以上の混乱が許されないことは、政権を担った政党ならば十二分に承知しているはずである。

国会攻防を有利に運ぶために何でも反対する「抵抗野党」では通用しない。即刻、政府提案を受け入れ、空席解消に責任を果たすべきである。

事前に報道された人事案の国会提示を認めないとする与野党の申し合わせルールに抵触するというのが拒否の理由だが、全く理屈になっていない。

政権当時の民主党が原子力規制委員会の人事をめぐって、ルール見直しを求めたことを忘れてもらっては困る。杉本氏を候補とすることも、民主党政権当時からの既定路線ではなかったのか。

そもそも、「事前報道ルール」に意味を見いだせない。国会同意人事の対象ポストは、国民生活と深く関わり、影響も大きい。その情報をいち早く国民に知らせ、判断材料を提供することは報道機関の重要な役割だ。それを否定するようなルールの方こそ、廃止されるべきである。

人事案提示への拒否には、輿石東参院議員会長の意向が働いたとされる。民主党は参院第一党であり、衆参ねじれ国会において安倍晋三政権を揺さぶる材料にしたいとの思惑もあろう。

だが、多くの有権者は「決められない政治」に愛想を尽かしている。先の衆院選で民主党が惨敗したのも、党内がまとまらず課題先送りを続けてきたからだ。

民主党の「何でも反対」路線は公取委員長人事だけでない。

憲法改正をめぐる国会の議論も妨害している。参院憲法審査会は6日に幹事懇談会を予定していたが、民主党が直前にキャンセルしたため、延期された。衆院側でも7日に行われた日程調整で開催に反対した。

輿石氏はいつまで同じ愚を繰り返すつもりなのか。海江田万里代表ら党執行部が輿石氏の「暴走」をこのまま許したならば、党の再生はないと言わざるを得ない。

産経新聞 2013年02月07日

「事前報道」 無用のルール即撤廃せよ

いつまで無用のルールに固執するのか。撤廃がほぼ決まっていた国会同意人事の事前報道ルールが、参院民主党の反対で一転存続することになった。ルール存続には意味を見いだせない。直ちに撤廃すべきだ。

衆参両院の承認が必要な国会同意人事では平成19年以降、新聞などで事前に報道された人事案は国会提示を認めないとの与野党間の申し合わせが適用されている。

きっかけはNHK経営委員などの人事案が事前報道され、参院で多数派だった当時野党の民主党が「国会審議が形骸化する」と提示を拒否したことだ。後に参院議長を務めた民主党の西岡武夫参院議院運営委員長が中心になって「事前報道ルール」をまとめた。

当初から「報道規制だ」との反対意見はあった。国会同意人事の対象は、日銀総裁・副総裁や公正取引委員会委員長などだ。国民生活と深くかかわり、影響も大きい。その情報を一刻も早く国民に伝え、判断材料を提供するのは報道の重要な役割である。

事前報道ルールは、その否定にほかならない。一部の政治家などが意に沿わぬ人事案を意図的に漏らして葬り去ることもできる。

実際に日銀審議委員など事前報道を理由に提示が見送られたり、情報漏れを恐れて関係者との調整を慎重に進めるあまり、国会提示が遅れ、人事が停滞したりした。こうした反省を踏まえたのが、今回のルール撤廃の動きだった。

理解できないのが、参院民主党の意図だ。「政権交代したら全部ルールが変わるのか」との声があるというが、理由にならない。なおも参院で第一党の民主党が駆け引きに使おうとしているのなら、筋違いも甚だしいし、そんな意見を受け入れた自民党の対応にも首をかしげざるを得ない。

白川方明日銀総裁が4月8日の任期満了を待たず、副総裁任期の3月19日に辞任すると表明した。総裁人事案は前回、参院で相次いで否決され、総裁が3週間空席となった。その結果生じた副総裁任期とのずれを解消するのが主な目的だ。いわば5年前の政治の混乱のツケを払わされた形である。

総裁の辞意表明で、後任総裁選びは加速するが、このままでは事前報道ルールが適用される。参院民主党は今回も日銀総裁人事を政争の具にするつもりなのか。ルール撤廃を遅らせてはならない。

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