朝日新聞 2013年02月06日
レーダー照射 危険極まる中国の挑発
中国軍艦が先月、東シナ海で自衛隊の護衛艦に射撃用の管制レーダーを照射したと、小野寺五典防衛相が明らかにした。
別の日には、海上自衛隊のヘリコプターにも同様の照射があったとみられるという。
状況に不明な点は多いが、一歩間違えば軍事衝突に発展しかねない危険な挑発行為だ。断じて許されるものではない。日本政府が、中国政府に抗議したのは当然である。
日本政府が昨年9月、尖閣諸島を購入して以来、中国の公船が繰り返し尖閣周辺の日本領海を侵犯している。
昨年12月には、国家海洋局のプロペラ機が領空を侵犯。その後、警戒する自衛隊機や米軍偵察機に対し、中国軍機が緊急発進するなど、空でも緊張が高まっていた。
ただ、今回のレーダー照射はこれまでとは質が違う。
中国の軍部や世論の一部には「戦争も辞さず」という声さえ上がっているという。そうした声に押され、挑発をエスカレートしているとしたら見過ごせない。自制を強く求める。
心配されるのは、こうした緊張状態が偶発的な衝突につながることだ。まずは危機回避のためのチャンネルづくりを、日中両国政府は急ぐべきだ。
日中間ではここに来て、関係改善を探る動きがようやく始まっていた。
先月には、公明党の山口那津男代表が安倍首相の親書を携えて訪中。会談した習近平(シーチンピン)総書記は、日中関係の発展のため大局に目を向けるよう求めた。
ようやく見え始めた対話への糸口が再び遠のきかねない、今回のレーダー照射である。
中国共産党は、尖閣問題で軍や国家海洋局などが連携して対応するよう、新たな組織を立ち上げた。そのトップは習氏だ。
レーダー照射という行為まで習氏が把握していたのかは不明だが、責任は免れない。「大局」を求める自身の言葉とは全く相いれない今回の事態をどう考えるのか。
日中の対立に、関係国も懸念を強めている。
クリントン前米国務長官は退任前の先月、日米外相会談後の記者会見で、尖閣をめぐって「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と、中国の挑発行為を戒めた。
中国は、この米国のメッセージも無視した形だ。
力を振りかざす中国の姿に、国際社会は違和感を強めている。そのことを中国は自覚すべきである。
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毎日新聞 2013年02月07日
射撃レーダー照射 一線越えた挑発行為だ
武力衝突を招きかねない、極めて悪質で危険な挑発行為である。
中国の艦船が1月30日、東シナ海の公海上で、警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダー(FCレーダー)を照射していたことがわかった。19日にも、護衛艦の搭載ヘリに照射された疑いがある。
FCレーダーは、ミサイルなどを発射する際、目標との距離や針路、速度などを正確に把握するために照射される。相手は自らが攻撃対象となったと受け取る。反撃も可能だ。
30日の事案では、中国艦船と護衛艦の距離は約3キロ、FCレーダー照射は数分間に及んだという。護衛艦が自衛措置に踏み切れば、戦闘状態に発展する可能性もあった。
中国軍が日本の艦船などにFCレーダーを照射したのは初めてだ。小野寺五典防衛相は「極めて特異な事例だ」と強く批判し、政府は中国側に抗議した。当然である。
今回は自衛隊側の冷静な対応で事なきを得たが、中国政府、共産党指導部は事の重大性をはっきりと認識すべきだ。挑発行為を二度と繰り返さないよう中国側に強く求める。
FCレーダー照射について、中国側の意図や、政府、共産党指導部が容認していたのか、軍の一部や現場の判断なのかなどは不明だが、日本政府には後者の見方が強いようだ。
習近平・中国共産党総書記が1月下旬、山口那津男公明党代表と会談し、対日関係改善を模索する姿勢を示したことも、そうした見方の根拠の一つになっているのだろう。
中国外務省の報道官は6日の記者会見で、「われわれも報道で初めて知った」などと述べた。
懸念されるのは、軍の突出した行動である。1月中旬には、軍総参謀部が「戦争の準備を」と軍に指示を出したと軍機関紙が報じた。米軍が1月に東シナ海上空に空中警戒管制機(AWACS)を投入し、クリントン前米国務長官が尖閣諸島をめぐり日本側の立場を支持する踏み込んだ姿勢を表明したことに軍が反発しているとの情報もある。
中国の文民統制(シビリアンコントロール)には疑問符が付くとの指摘がある。日本政府は、同様の事案が繰り返されるかどうかを注視しているが、戦前の日本のように、軍の暴走を政治が追認することになれば深刻だ。
中国側の行動には、挑発に乗らず冷静な対応が必要だ。同時に、日本政府が挑発行為の実態を正確に国際社会に発信することも重要である。
また、今回の事案について詳しい説明を中国政府に要求するとともに、不測の事態回避のための「海上連絡メカニズム」構築に向けた日中防衛当局間の協議再開を中国側に求めることも必要だろう。
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読売新聞 2013年02月14日
レーダー照射 危険な習総書記の対外姿勢
瀬戸際まで危機をあおる中国軍の行為が地域の安定を著しく損なっている。中国共産党の習近平総書記は、そのことを十分に認識し、対応を改めるべきだ。
中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射事件について、中国国防省は火器管制レーダーを「使用していない」と事実関係を否定した。さらに警戒用レーダーによる「通常の監視」とも言い繕っている。
日本政府はレーダーの周波数などを詳細に分析しており、両レーダーの違いは明白だ。中国の主張は全く受け入れられない。パネッタ米国防長官も「より大きな危機を招く可能性がある」と述べ、レーダー照射を強く批判した。
日本は懸念を共有する米国と連携し、危険な挑発を行いながら責任転嫁を図ろうとする中国の不当性を、あらゆる手段を講じて国際社会に訴えなければならない。
事件の背景にあるのは、習氏の際立った強硬姿勢である。
習氏は昨年11月中旬、前任の胡錦濤国家主席から、総書記と軍トップの党中央軍事委員会主席の両ポストを同時に引き継いだ。
総書記就任後2年近くたってから軍事委主席に就いた胡氏と異なり、習氏は急ピッチで軍の基盤を固める必要に迫られた。そのためには対外強硬姿勢を保つことが不可欠との判断があるのだろう。
習氏は就任後わずか2か月半の間に、陸海空軍や武装警察の部隊、軍事技術開発の一翼を担う中国西部の衛星発射センターを視察し、戦略ミサイル部隊の党代表とも会見した。一連の活動で目立つのは習氏の勇ましい発言である。
習氏は2月初めの蘭州軍区視察で「軍事闘争の準備の深化に力を入れよ」と語り、即応態勢を強化するよう命じた。昨年12月にも、広東省で、「中華民族の偉大な復興の夢とは強軍の夢だ」と強調している。
こうした習氏の姿勢が、軍拡で自信をつけた軍の挑発行為を助長しているとも見られている。
習氏は文民ながら、軍勤務経験がある。それだけに軍には軍事費の一層の拡大への期待感があろう。習氏の下で軍備膨張に歯止めがかからない恐れがある。
中国軍の首脳部である軍事委で習氏以外はすべて軍人だ。文民統制が有効に機能するのかという制度上の問題も指摘されている。
習政権が軍を統制し、「暴走」を抑えられるか。そうした国際社会の共通の懸念を、習氏はきちんと受け止め、行動してほしい。
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産経新聞 2013年02月09日
レーダー照射 国連への問題提起求める
海上自衛隊護衛艦に対する中国海軍艦艇の射撃管制用レーダー照射問題で、小野寺五典防衛相は武力による威嚇を禁じた国連憲章違反の可能性を指摘したのに対し、中国側は「日本が事実をねじ曲げ、中国脅威論を言い立てている」と、事実関係を全面否定した。
世界の平和と安全に重責を負う安保理常任理事国が自ら説明責任を果たさないばかりか、日本に責任転嫁する姿勢は到底容認できない開き直りである。安倍晋三首相が「中国の問題行動を積極的に公表する」とし、米政府も説明を要求したのは当然だ。
安倍首相は米韓などと連携して「国際社会のルール違反」を国連などに提起し、事実の徹底究明と厳正な対応を求めるべきだ。
国連憲章2条4項は「武力による威嚇や行使をいかなる国の領土保全に対しても慎まなければならない」と定めている。常任理事国には、その模範となる重大な責務が伴うことはいうまでもない。
にもかかわらず、中国外務省は当初、「報道を通じて知った」とし、国防省は8日、「使用したのは通常の警戒管制レーダーで射撃管制用ではない」と否定した。あいた口がふさがらない。
さらに「日本側が至近距離で監視活動をしたことが根本的原因」と日本に責任を押しつけた対応も不当かつ無責任極まりない。
中国が一党独裁国家で、人民解放軍が党の直轄指導下にあるとしても、国際社会の平和と安定を脅かす行動の弁明にはならない。
問題は党指導部が危険な照射を容認したか否かだ。容認していれば党の好戦的体質の表れであり、知らなかったなら軍に対する文民統制の重大な欠如を意味する。いずれも習近平体制の本質が世界に問われる重大事態といえる。
国連憲章34、35条は全ての加盟国に安保理の調査を求め、安保理や総会の注意を促す問題提起を認めている。中国が拒否権を発動する恐れもあるが、安倍政権はひるむことなく、「確かな証拠」(小野寺防衛相)を国連に開示し、広く国際社会に発信すべきだ。
一方、パネッタ米国防長官が中国に警告し、説明を求めたのに対し、ケリー新国務長官が沈黙しているのは首をかしげる。
日米首脳会談へ向けて日米外務・防衛協議も行われた。中国の危険な挑発を抑止するため、連携を一層深めてもらいたい。
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