武器三原則 F35部品の輸出は当然だ

朝日新聞 2013年02月05日

F35部品輸出 決定過程が見えない

自衛隊の次期主力戦闘機F35について、安倍内閣が、国内で製造した部品の輸出を認める方針だという。

では、いったいどんな部品を輸出するのか。国際紛争に使われる恐れはないのか。部品だけでなく、完成品も輸出するのか。肝心なことは、いっさい明らかになっていない。

レーダーに映りにくいステルス機だが、日本が果たす役割まで見えないというのでは話にならない。日米間の密室協議で結論を急ぐべきではない。

主力戦闘機はこれまで、米国が開発した機体を日本企業がライセンス生産する方式をとってきた。だが、自衛隊向けだけで輸出はしていない。

今回、事情が違うのは、国際的な共同生産の輪に日本も加わろうとしているからだ。

F35は米国など9カ国が共同開発中で、生産も国際的に分業で行う。日本も、国内向けの機体の最終組み立てにとどまらず、「部品製造に参画すべく米側と調整している」(菅官房長官)という。

従来、日本は武器輸出三原則を掲げ、原則として武器の輸出を禁じてきた。野田前内閣はこれを緩和し、共同開発・生産に加わりやすくした。一方で「国際紛争等を助長することを回避する」方針は維持するという。

だが、現実には米国はたびたび戦争をしているし、周辺国と紛争を繰り返すイスラエルもF35を導入する方針だ。

日本製部品が組み込まれたら、この原則を逸脱することにならないか。

背景には、兵器の開発・生産をめぐる環境の変化がある。

最新鋭戦闘機の開発費は巨額で、もはや一国では難しい。日本の調達機数は減っており、国内向けだけではコストが高すぎるという事情もあるようだ。

さらに、民生用の日本製部品はすでに各国の武器に組み込まれているという現実もある。

かといって、なし崩しに武器輸出が拡大するようなことを許してはなるまい。

現在でも輸出の是非を判断する基準はある。日本製部品が組み込まれた兵器を第三国に輸出する場合、日本の事前の同意を必要とする。政府は日本の安全保障に資するかどうかなどで判断する――。だが、これだけでは不十分だ。

武器は攻撃的な性格が強いものか、防御的なものか。部品は民生品に近いのか否か。完成品の輸出も認めるのか。

こうした点も含め、国民に開かれたかたちで、武器輸出について一から議論すべきだ。

毎日新聞 2013年02月06日

武器三原則とF35 なし崩し形骸化は反対

政府は、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の国際共同生産に関連して、日本企業が国内で製造した部品の対米輸出を武器輸出三原則の「例外」として認める方針のようだ。近く官房長官談話として発表する。

三原則は、民主党政権下の11年12月に緩和されたが、「国際紛争を助長することを回避する」という理念は堅持された。F35をめぐる今回の措置が、この理念をなし崩しに形骸化するようなことになってはならない。明確な歯止めが必要だ。

三原則は、平和国家の立場を明確にするため、佐藤内閣が1967年に表明、政府方針となった。その後、対米武器技術供与や、ミサイル防衛(MD)の日米共同開発・生産などが例外扱いとされてきた。

今回、問題となっているのは、三原則が「国際紛争の当事国やそのおそれのある国」への武器輸出を禁止していることと、イスラエルのF35導入計画との関係である。

米国の同盟国・イスラエルは、核開発を進めるイランを先制攻撃する可能性が指摘され、イスラム原理主義組織ハマスやシリアを空爆するなど周辺国などと緊張関係にある。

日本企業が約4割の部品製造に参画するとされるF35が、米国からイスラエルに渡れば、国際紛争助長回避という理念は有名無実となる。

11年の三原則緩和にあたって、日本が開発や生産にかかわった武器を「第三国」に移転する場合、日本政府による事前同意など「厳格な管理」が条件になっていた。F35部品の対米輸出でも、これを適用することが最低限、必要である。イスラエルが現在の政策を維持したままであれば、F35供与の日本同意は三原則の理念に反することになろう。

また、今回の第三国移転の議論とは別に、共同開発・生産の相手国が「紛争当事国またはそのおそれのある国」となる可能性を指摘し、共同開発・生産に参画するために三原則の見直しを求める意見もある。

たとえば、米国や英国もイラク戦争のように紛争当事国になりうるのだから、紛争当事国などへの武器禁輸方針そのものを破棄すべきだ、という考え方だ。

しかし、これでは武器開発の経済性や軍需産業の基盤整備を優先して、平和国家としての立場を捨て去ることになる。

政府の対応について、石破茂自民党幹事長は「三原則の趣旨を逸脱すべきでない」と語り、公明党も三原則を尊重するよう求めている。

装備品(武器)が防衛的なものかどうかをはじめ、その性格・使用目的によって共同開発・生産への参加を判断するなど、あくまで三原則の理念を堅持することを前提に、対応方針を検討すべきである。

読売新聞 2013年02月06日

F35部品輸出 3原則の例外扱いは妥当だ

武器の輸出など防衛装備政策では、日本の安全保障と国益を踏まえた総合的な視点が肝要だ。

政府は、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35について、日本企業が製造した部品の輸出を武器輸出3原則の例外として認める方向で調整している。

日米の防衛技術協力を深め、同盟関係を強固にするだけでなく、日本国内の防衛技術・生産基盤の維持や育成にも役立とう。輸出容認は妥当な判断である。

野田政権は2011年12月、武器輸出3原則を大幅に緩和し、武器の国際共同開発・生産を解禁する新基準を策定した。

「国際紛争の助長を回避する」との従来の理念は踏襲しつつ、厳格な輸出管理や、武器の第三国移転における日本の事前同意などを共同開発国に義務づけている。

巨額の費用を要する戦闘機や艦船などの開発は近年、複数の国が最新技術を持ち寄り、共同で実施するのが国際的な潮流だ。

日本だけが武器輸出3原則を墨守し、“技術鎖国”を続ければ、技術面で各国の後塵を拝するし、武器も一段と割高になる。その悪影響は甚大である。

特に戦闘機分野では、11年9月に国内生産が終了しており、産業衰退の恐れも指摘されている。それだけに、日本がF35の共同生産に参加する意義は大きい。

日米が共同生産するF35は、レーダーに捕捉されにくいステルス性を持つ次世代機だ。周辺国と緊張関係にあるイスラエルが導入することについて「国際紛争の助長」を懸念する声も一部にある。

だが、F35の開発・生産の主体は米国である。日本が製造するのはエンジンやレーダーなど一部の部品にすぎず、その役割は限定的だ。イスラエルがF35を導入しても、中東地域の不安定化に直結するわけではあるまい。

そもそも国際紛争を助長しないという基準を過度に厳格適用すれば、同盟国の米国への輸出さえ成り立たず、非現実的である。

日本の安全保障環境は、中国の軍備増強、北朝鮮の核・ミサイル開発によって悪化している。中国軍は尖閣諸島周辺などで示威活動を活発化させ、国産ステルス機の開発にも力を入れている。

日本は、今年度から始まった計42機のF35の導入を着実に進めるとともに、F35の共同生産体制を軌道に乗せて、関係国との国際連携を強めることが欠かせない。

同時に、政府には、こうした状況をきちんと国民に説明し、理解を広げる努力が求められよう。

産経新聞 2013年02月05日

武器三原則 F35部品の輸出は当然だ

航空自衛隊の次期主力戦闘機となるF35戦闘機の部品の共同生産をめぐり、部品を輸出した場合に「国際紛争の助長を回避する」という武器輸出三原則の理念に抵触しないかとの議論が政府内で起きている。

武器輸出三原則は日本の武器輸出をほぼ全面的に禁止し、防衛技術の競争力低下や関連産業の停滞をもたらした。その弊害の大きさから、一昨年に野田佳彦内閣で国際共同開発への参加や人道目的での装備品供与を解禁する三原則の緩和が行われた。

だが、緩和後も「紛争の助長回避」という理念を曖昧なままに残してしまった。

共同生産相手の米国ですら「紛争の助長」が適用されかねず、共同開発の実効性を損なうものだと指摘せざるを得ない。

その意味で「日本の安全保障に資する」という緩和の目的から、F35部品の輸出は当然、認められるのが筋だろう。

菅義偉官房長官は「三原則との関係をどう調整するか検討している」と語っている。部品輸出の正当性を明確に主張し、三原則の緩和が日本の防衛に現実に役立つものとなるよう政府の見解を示してもらいたい。

敵レーダーに捕捉されにくいステルス性を持つ「第5世代」戦闘機は、尖閣諸島への攻勢を強める中国もJ20(殲20)などの開発を急いでいる。日本の現在の主力であるF15は第4世代で、防衛費の削減が続けられた中、改修などによって使われ続けている。

このままでは太刀打ちできないのは明らかで、東シナ海の空軍力のバランスを崩さないためにF35の導入は不可欠だ。ただ、1機あたり約150億円と高額で、将来の調達コストを下げる上でも部品の共同生産が重要となる。

部品輸出をめぐる議論では、F35の導入予定国に周辺国との緊張が続くイスラエルが含まれていることが指摘されている。外務省が紛争の助長につながるとの懸念を主張しているようだが、まだ日本が共同生産にも入っていない段階で、参加を見送るような議論は極めて問題である。

最新の防衛技術が第三国に渡った後、自国の安全保障にどのような影響が生じるかを探ることは当然だ。同時に、国民の平和と安全を守ることは、国家が最優先すべき責務である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1303/