首相沖縄訪問 普天間移設へまず信頼回復だ

朝日新聞 2013年02月04日

首相沖縄訪問 不信の源に向き合え

安倍首相が就任後初めて、沖縄を訪問した。

「緊密な日米同盟の復活」は首相が経済再生とともに掲げる柱だ。だが、同盟を支えてきた足元が揺れている。在日米軍基地の74%を引き受ける沖縄が負担軽減を求め、政府への異議申し立てを強めているのだ。

沖縄との信頼関係を結び直して足元を固め、今月後半の訪米にのぞみたい。首相にすれば、そんな思いだったのだろう。

信頼は結び直せたか。

首相と仲井真弘多知事の会談は、残念ながら、従来の平行線を出るものではなかった。

知事が米軍普天間飛行場の県外移設を求めたのに対し、首相が基地負担の軽減に努力するとしながらも、「普天間の固定化はあってはならない。米国との合意の中で進めていきたい」と述べたからだ。

もちろん、首相なりに努力した形跡はある。

首相は2013年度の沖縄振興予算の増額や、那覇空港第2滑走路の完成を早めることを強調し、知事は謝意を示した。

普天間問題では、政府がいつ名護市辺野古の海の埋め立てを知事に申請するかが焦点だが、首相は訪米前の申請は考えていないと記者団に語った。

沖縄の負担を考えれば、予算増額は理解できる。知事の承認を得るめどのない申請の見送りは当然のことだ。しかし、それだけで信頼回復がかなうはずはない。では、どうしようとしているのか。首相の考えがみえないのが残念でならない。

沖縄の市町村長や議長らが先月末に首相に渡した「建白書」は、「差別」に触れている。世界一危険な普天間飛行場に、事故を繰り返す垂直離着陸機オスプレイを配備するのは、差別以外の何ものでもない、と。

不信の源は、差別されているという実感だ。沖縄がなぜ、米軍基地の74%を引き受けなければならないのか。本土の人々による沖縄差別ではないのか。

首相がなすべきは、この問いに耳を傾け、応えることだ。

単に政権の問題ではない。本土の人々が、数の上では少数派の沖縄の人々に負担を強いている。総論で沖縄の負担軽減に賛成しても、ならばうちで引き受けようという地域が出てこない現実を、本土に住む私たち自身が直視しなければならない。

首相が先頭に立って本土の人々に沖縄の現状を説明し、負担の分かち合いを説かない限り、「差別」の疑念は晴れないだろう。それをせず、日米同盟の深化といっても、足元から崩れることになりかねない。

毎日新聞 2013年02月03日

普天間問題 沖縄の声に耳を傾けよ

安倍晋三首相が就任後初めて沖縄を訪問し、仲井真弘多知事と会談した。民主党政権下で悪化した関係修復を図り、今月下旬の日米首脳会談に向けて米軍普天間飛行場の移設問題で意見交換するのが目的だった。

知事は会談で、普天間移設について「県民には県外へという強い願いがある。願いに沿う形で解決してもらえればありがたい」と県外移設を要求した。これに対し、首相は「普天間の固定化はあってはならない」としつつ、「米国との合意の中で進めていきたい」と述べ、名護市辺野古への県内移設に理解を求めた。

移設先をめぐる沖縄と政府の対立の構図は政権交代後も変わらない。

一方、首相は、沖縄振興費について、沖縄の意向を踏まえ、来年度予算案で満額の3001億円とし、那覇空港第2滑走路の工期を予算の拡充によって当初計画から前倒しすると説明した。知事は謝意を示した。

日米両政府の普天間返還合意から4月で17年となる。政府はこの長い年月から教訓をくみ取り、沖縄に対する今後の対応に生かすべきだ。

第一は、普天間返還に伴う代替の施設という理由であっても、沖縄県内に新たな基地を建設することは至難ということだ。その背景には米軍基地の過重負担がある。

沖縄の本土復帰以降、本土の米軍基地は約65%削減されたが、沖縄では約15%減にとどまった。沖縄の基地の比重が高まり、国土面積比0・6%の沖縄に在日米軍全体の施設面積の約74%が集中する。

先月末、東京都内で、沖縄県の市町村長らが垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの普天間配備撤回と、普天間の県内移設断念を求める集会を開き、「建白書」を首相に提出した。県内全市町村の代表がそろって東京で集会を開くのは異例のことだ。基地問題の深刻さを象徴している。

日米両政府が合意している米空軍嘉手納基地以南の基地施設・区域返還を早急に具体化すると同時に、本土への基地・訓練の移設・移転が必要だ。本土の自治体、国民にはこれを引き受ける覚悟が求められる。

第二は、普天間問題で沖縄が当事者として参加する協議機関を設けることである。日米両政府の合意を沖縄に強いるやり方はもう通用しない。辺野古への移設に必要な、知事への公有水面の埋め立て申請を強行するようなことは避けなければならない。

そして、第三は、沖縄振興策など基地を抱える自治体への経済支援と引き換えに基地負担を押しつける古い手法から脱却することである。

沖縄の基地負担は限界を超えている。安倍首相には、沖縄の「叫び」に真摯(しんし)に耳を傾け、基地問題、普天間問題に取り組んでもらいたい。

読売新聞 2013年02月03日

首相沖縄訪問 普天間移設へまず信頼回復だ

1996年の米軍普天間飛行場返還の日米合意から17年にも及ぶ、多くの関係者の努力を無に帰させてはなるまい。政府は、普天間移設の前進に全力を挙げてもらいたい。

安倍首相が就任後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多知事と会談した。2013年度予算案で沖縄振興費を増やしたことを説明するとともに、普天間飛行場の名護市辺野古移設に理解を求めた。

知事は、沖縄振興予算の増額を高く評価し、謝意を表明した。

沖縄振興予算は、野田政権が12年度に25%増やしたのに続き、安倍政権も13年度は4%増の3000億円を計上した。那覇空港第2滑走路の工期も当初の7年から1年以上短縮する方針だ。

長年の懸案である普天間問題の進展には、民主党の鳩山政権が崩壊させた沖縄県との信頼関係の再構築が欠かせない。安倍政権が沖縄振興策の拡充をその第一歩にしようとする意図は理解できる。

重要なのは、きちんと結果を出すことだ。民主党政権は、振興予算の特別扱いなどで沖縄県に配慮したが、「振興予算と米軍基地問題は関連させない」といった建前論に終始し、肝心の普天間問題を前進させられなかった。

会談で仲井真知事は、普天間問題について「県民には県外に出してほしいとの強い願いがある」と語った。首相は「普天間の固定化はあってはならない。米国との合意の中で進めたい」と応じた。

首相は会談後、今月下旬の訪米前は辺野古沿岸部の埋め立てを沖縄県に申請しない考えを示した。信頼関係構築の一環だろう。

今のところ、辺野古以外に現実的な普天間の移設先はない。知事の埋め立て許可が得られない場合、普天間の危険な現状が長期間固定化する恐れが濃厚だ。

そうした最悪の事態を避けるよう、政府と沖縄県は真剣に多角的な協議を尽くす必要がある。

普天間飛行場返還後の跡地利用策について、地元の宜野湾市を交えて話し合うのも一案だろう。跡地の有効利用策がないため、地主らが消極的になり、米軍施設の返還が遅れる例も少なくない。

キャンプ瑞慶覧など他の米軍施設の返還と一部訓練の県外移転による地元負担の軽減や、辺野古移設に伴う県北部の地域振興の協議も着実に進めることが大切だ。

自民党政権は96年以降、地元関係者と地道な対話を重ねて、普天間移設への理解を広げた実績がある。今こそ政府・与党が一体となり、説得作業を加速すべきだ。

産経新聞 2013年02月03日

首相沖縄訪問 普天間移設に県は協力を

安倍晋三首相が新内閣発足後初めて沖縄を訪問し、陸海空自衛隊員らを激励するとともに、仲井真弘多県知事との会談で米軍普天間飛行場移設に理解と協力を求めた。

尖閣諸島への攻勢を強める中国を念頭に、首相が「日本の領土、領海、領空や主権に対する挑発が続いている。私も先頭に立って危機に立ち向かう」と隊員らを激励し、自ら中国を強く牽制(けんせい)した姿勢を高く評価したい。

日本防衛の最前線の一つである沖縄は、日米同盟の抑止態勢強化が喫緊に必要な最重要拠点だ。普天間移設が急がれるのもそのためであり、現状固定化の回避と対中抑止力向上のためにも、首相は地元との信頼を再構築し、移設促進へ全力を傾けてほしい。

普天間移設は、日米の抑止力を強化しつつ地元の基地負担軽減を図る18年越しの宿題だ。とりわけ中国の海洋権益拡大など安全保障環境の激変に直面している日米にとって、今や一刻も猶予のならない緊急課題といえる。

その意味で、首相が仲井真知事に「普天間の固定化があってはならない。負担軽減に力を尽くし、日米合意の中で進めていきたい」と名護市辺野古への移設に理解を求めたのは、極めて当然だ。

知事は改めて県外移設を求めたが、移設が進まなければその先は現状の固定化しか選択はない。基地負担は減らず、住民への危険は逆に高まる。知事らはそうしたマイナスも認識し、国民全体の平和と安全を守る大局的な見地に立って移設に協力してもらいたい。

米海兵隊新型輸送機オスプレイ配備問題もあって地元説得の道は険しいが、首相は先月30日の衆院代表質問への答弁でも、「沖縄の声に耳を傾け、信頼関係を構築しつつ移設を進める」と語った。日米首脳会談へ向け、誠実かつ着実に努力を重ねて成果を得ていくことが何よりも大切だ。

首相が尖閣周辺の海上警備にあたる第11管区海上保安本部に足を運び、激励したのもよかった。

米国では1日、ケリー新国務長官が就任した。ヘーゲル次期国防長官も上院公聴会で在日米軍再編計画を継承し、引き続きアジア太平洋の米軍態勢の強化を約束するなど、オバマ政権2期目の態勢づくりが着々と進んでいる。

日本もオバマ政権と足並みをしっかりとそろえ、共同防衛の強化に確実な歩を進めていきたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1302/