中国大気汚染 改善は日中の利益だ

朝日新聞 2013年01月30日

中国大気汚染 改善は日中の利益だ

中国の大気汚染が深刻だ。北京などの広い範囲が、有害物質を含んだ濃霧にたびたび覆われている。

ひとごとではない。中国の汚染が風に流されて日本に影響する「越境汚染」も起きている。両国経済は緊密で、中国で暮らす日本人は14万人に上る。

中国政府は、改善を急ぐべきだ。日本が優れた環境技術で協力すれば、双方の利益になる。

尖閣諸島の問題で関係はぎくしゃくしたままだが、こうした面での協力はどんどん進めるべきだ。両国の関係を前に進める力にもなり得る。

ひどい大気汚染は、今年始まった話ではない。

問題になっている汚染物質は直径が千分の2・5ミリ以下の微小粒子状物質、PM2・5だ。

粒が小さいため、呼吸器の奥深くまで入り込み、ぜんそくや肺がんなどの病気にもつながるとされる。

自動車や工場の排ガス、暖房用ボイラー、火力発電所などが主な発生源だ。暖房が多く使われ、空気が滞る気象条件が重なる冬場に悪化しやすい。

汚染がひどいときは学校が屋外での活動をやめるなど、日常生活にも支障が出ている。

経済成長に突き進んだ中国では日本の高度成長期のように、環境対策は置き去りにされてきた。もうけを優先し、規制を守らない企業も多い。

だが、環境に対する市民の意識は大きく変わりつつある。

中国政府はもともと、PM2・5の数値を明かしていなかった。ところが、北京の米大使館が独自に公表していた数値に市民の関心が高まり、政府も発表せざるを得なくなった。

環境への影響を心配して、工場建設に反対する運動も、各地で相次いでいる。

中国政府は、成長一辺倒から生活の質を重視する方針を掲げるようになり、省エネや環境分野での外資導入も奨励する。昨年11月の共産党大会では「エコ文明建設」が強調された。

公害に取り組んできた日本の経験は、中国にとって大いに参考になるはずだ。中国への政府の途上国援助(ODA)はほとんど打ち切られたが、民間で出来ることも多い。

日本の自治体が呼びかけ、中国との環境ビジネス拡大を目指す動きも出ている。先端技術を守る工夫は必要だが、日本企業にとってビジネスチャンスでもある。大学など研究機関の連携も有益だ。

日本政府はODAで培った経験も生かし、積極的に橋渡しや後押しをするべきだ。

産経新聞 2013年02月02日

中国の大気汚染 越境被害に責任を果たせ

中国各地の自動車排ガスや工場の排煙による大気汚染は、もう限界を超えている。

肺がんなどを引き起こすという微粒子状物質PM2・5の濃度が東部地域では1月、一時は世界保健機関(WHO)の指針値の数十倍まで上昇した。北京市では呼吸器不調を訴える住民が急増しぜんそく発作で死者も出た。

有害物質を含んだ濃霧は日本の国土の3倍半に広がった。西日本への飛来も確認され、福岡市などでは日本国内の基準値を超える濃度が観測されている。

国境を越えての汚染拡大は許されない。温家宝首相は先月29日、「現実的で有効な措置を取らなければならない」と述べたが、中国政府の対応は無責任に過ぎる。世界第2位の経済大国としての自覚をまったく欠いている。

大気汚染が目に見えて進んだのは1月11日ごろからだ。

中国環境保護省によると、北京、天津両市や河北、山東両省では6段階の大気汚染指数で最悪の「深刻な汚染」となり、東北地方や内陸部でも2番目に悪い「重度の汚染」となった。放射冷却現象に無風状態が加わり、地表近くの高湿度の空気中に汚染物質が滞留したという。

だが、自然現象のせいにはできない。30年余り前、改革開放に舵(かじ)を切った共産党政権は国力増強のため、自国内だけでなく、世界中から資源を買い集め、工業生産のために石油・ガスを野放図に消費し続けたからだ。

汚染物質を大量排出する企業も、取り締まるべき役所も、共に共産党が支配する一党独裁体制の下、「不都合な真実」に蓋をしてきたツケが未曽有の大気汚染となって噴出している。

北京市当局は100社以上の工場の操業を停止し、公用車の30%使用制限などの緊急措置をとったほか、汚染除去能力が劣る工場の閉鎖などの対策を打ち出した。

「社説すり替え」問題で注目された広東省の週刊紙「南方週末」は5年前、「中国都市部での大気汚染による死者は毎年約30万人」と報じていた。最近も北京大学と環境保護団体が「北京、上海など4都市で昨年、PM2・5が原因で約8600人が死亡した」とする調査報告を行っている。

中国政府は真偽のほどを明らかにすべきだ。そして、対策の実効性が問われている。

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