事業仕分け 政治家が責任持って決定を

毎日新聞 2009年11月29日

事業仕分け終了 政治主導で効果広げよ

政治の技が試される番だ。政府の行政刷新会議のチームによる事業仕分けが全日程を終えた。のべ9日間、侃々諤々(かんかんがくがく)の作業で財源をひねり出した成果を実際の予算案にどう反映させるかは、鳩山由紀夫首相や閣僚の調整に委ねられた。

約450事業を短期間で洗い出し、2兆円近い財源を捻出(ねんしゅつ)したことは評価できる。仕分け対象事業は来年度予算案の概算要求に盛られた項目の一部にとどまるため、政府は他の類似したケースに応用する形で、ムダ撲滅をさらに徹底しなければならない。仕分け人の提供した材料を生かし切るため、今度は政治家が知恵を絞ってほしい。

これまで見直しを手がけにくかった外交・防衛や教育分野を中心に後半戦は議論された。在日米軍の駐留経費を日本が負担する「思いやり予算」も対象となり、日本人従業員の給与を地域事情に応じた体系に見直すよう判定した。

「思いやり予算」を俎上(そじょう)に載せたことには日米同盟に悪影響を与えかねない、との批判もある。だが、概算要求で1900億円を超す出費だけに、国民の理解を得るうえでも透明度を高め、効率化を図る必要がある。政府は仕分け結果を封印せず、米軍や関係労組との調整に乗り出すべきである。

ムダ削減の総額が注目された作業だが、その意義は予算の編成過程の透明化にあることを改めて指摘したい。専門性の強い科学技術分野などを仕分け対象としたことには、いまだに是非論がある。だが、あらゆる分野の予算が「なぜ必要か」の説明責任を求められる段階に移ったことを行政は自覚すべきだろう。

政府の責任において作業を実施した以上、事業仕分けの結論は基本的に尊重すべきだ。科学技術や福祉に関する分野で異論のあるものは所管閣僚が対象を限定したうえで再検討し、首相判断に委ねるのもひとつの方法だろう。

また、国からの補助金を天下り法人が人件費などに回しているケースや、公益法人の剰余基金など9パターンについて、行政刷新会議は予算の査定段階で仕分け対象外の類似事業にも仕分けの判定結果をあてはめることを決めた。まさに、国民が95兆円超の概算要求の絞り込みに期待した分野である。事業仕分けを突破口にムダ撲滅を深掘りしてほしい。

後半日程でも仕分け現場に多くの傍聴人が訪れるなど、作業は国民の強い関心を呼んだ。予算の編成過程を透明化する流れはもはや止まるまい。首相がいったん表明した「今年限り」との方針を軌道修正したのは当然だ。1年限りの「ショー」で終わらせてはならない。

読売新聞 2009年11月28日

事業仕分け 政治家が責任持って決定を

予算の無駄を洗い出す行政刷新会議の事業仕分けが、9日間の作業日程を終えた。

対象とした449事業の多くに廃止や縮減などの判定を下した。

独立行政法人や公益法人が抱える基金に国庫返納を求めた分を加えると、ひねり出した成果は1・6兆円を超えた。

目標の3兆円には届かなかったが、来年度予算に使える貴重な財源の一部にはなろう。

しかし、インターネットで国の予算編成作業の一端を同時中継するという初の試みは、数多くの課題を残した。

国会議員や民間有識者からなる仕分け人が、公開を意識してパフォーマンス的な言動を繰り返し、各府省の説明担当者を一方的にやり込める場面が相次いだのは見苦しかった。

民間の仕分け人をどういう基準で選んだのか、それも不明なままだった。

鳩山首相は、来年度以降も事業仕分けを続ける意向を表明している。そうであるなら、説明者側に十分な反論の機会を与え、仕分け人の選任基準を明確化するなど、運営方針の見直しが必要だ。

仕分けの対象とされたテーマに疑問を呈する声も多かった。わずか1時間の議論では手に余る案件が幾つも含まれていたからだ。

在日米軍に対する「思いやり予算」や対外援助、地方交付税、科学技術振興関連などだ。

いずれも国の在り方、将来にかかわる問題で、簡単に答えが出るような話ではない。

中でも、波紋を呼んだのは次世代スーパーコンピューターの開発予算を巡って、「事実上の凍結」という判定が出された件だ。

ノーベル賞受賞者や経済界からは、「短期的な費用対効果ばかりをみる議論は、科学技術にはなじまない」「世界の先端技術開発競争で、日本が負けてしまう」といった強い批判が噴き出した。

その通りだろう。長期的かつ国際的視点で、どんな分野に予算を重点配分していくか、という戦略的思考が、行政刷新会議に欠けていたのではないか。

子供に読書を勧める事業を廃止としたのも遺憾である。

誤った判定については今後、見直していかねばならない。

そもそも、事業仕分けでの判定は、最終的なものではない。判断材料の一つにはなるが、縛られてはなるまい。今後の予算編成の中で、政治家が責任を持って扱いを決めるべきだ。

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