原発新安全基準 「猶予」で骨抜きにするな

朝日新聞 2013年02月01日

原発安全基準 「これでよし」ではない

原発の過酷事故に備えた新しい安全基準案を、原子力規制委員会がまとめた。

これまでは安全神話のもと、電力会社の自主的な取り組みにゆだねてきたが、「事故は起きる」ことを前提に法律で義務化する。先日公表された地震・津波対策とあわせ、7月までに詳細を詰める。

安倍政権は「安全性が確認された原発は動かす」方針だが、発想が逆だろう。危ない原発、動かさない原発を仕分ける基準として位置づけるべきだ。

過酷事故への対策には、欧米各国でとられている主な規制を盛り込んだ。完全に実施されれば、原発の安全性が向上するのは確かだ。

ただ、建設や整備に時間がかかるものもある。このため、一部については猶予期間を設ける方針だ。

電力各社は火力発電の燃料費が経営を圧迫しており、再稼働を急ぎたがっている。猶予期間も条件もできるだけ緩くしてほしいというのが本音だ。

しかし、ずるずると対応が遅れることがあってはならない。少なくとも、免震や自家発電の機能をもつ「緊急時対策所」の設置などは、再稼働の必須条件とすべきだ。

改正した原子炉等規制法は、過去に建設した原発であっても最新の安全策を反映させる「バックフィット」を義務づけた。

今後、原発に関わる新たな知見が出るたびに、すべての原発は新たな安全基準への対応を求められる。猶予期間の有無にかかわらず、「これでよし」は訪れない。

当然、費用もかかる。だが、「料金の値上げで回収すればいい」「減価償却が終わるまで原発の寿命を延ばせばいい」といった従来型の発想は、もはや許されない。

古い設計思想に基づいた原発を放置しないためにも、規制委は運転期間の40年制限を厳格に適用しなければならない。

かかった経費を料金に転嫁できる「総括原価方式」の見直しなど、電力改革も政府が着実に進める必要がある。

そうすれば、電力会社自ら、「安全投資か廃炉か」の経営判断もしやすくなる。

いくら安全対策を講じても、原発が抱えるリスクはゼロにはならない。なにより、使用済み核燃料や高レベル廃棄物の処分策が決まっていない。使用済み燃料をどこに保管し、最終処分場をどう確保するのか。

こうした点を考えれば、おのずと動かせる原発は限定されてくるはずだ。

毎日新聞 2013年02月01日

原発新安全基準 「猶予」で骨抜きにするな

原発の新しい安全基準の骨子を原子力規制委員会がまとめた。東京電力福島第1原発の過酷事故の背景のひとつに、安全基準の甘さがあったことを思えば、今回は妥協は許されない。

新基準は既存の原発にも適用される。大規模な改修が必要となる場合もあるだろうが、それにかかる時間やコストを考えれば規制がゆがむ。田中俊一・規制委員長は「コストのことは全く頭にない」と述べているが、当然のことだ。

対応できない施設が淘汰(とうた)されていくのは健全な姿であり、規制委は今後も政治や行政、産業界からの独立性を貫いてもらいたい。

新安全基準は、地震・津波対策も、設計基準や過酷事故対策も強化しており、その点は評価したい。福島の事故前は、津波に対する基準があまりにおざなりだった。新基準はこれを厳格にし、活断層の評価も従来よりさかのぼり約40万年前以降を考慮するよう求めている。地震の揺れだけでなく、断層のずれによる施設の損傷も考慮の対象となる。

福島の事故では、すべての電源が長時間喪失し、原子炉が冷却できなくなった。新基準は、電源の多重性や多様性を求めており、電力事業者はしっかり受け止めてほしい。

対策を取っても事故は起こりうるというのが福島の教訓であり、過酷事故対策を法的に義務づけたのも当然だ。航空機事故やテロ攻撃なども可能性が否定できない以上、考慮に入れる必要がある。

安全基準が新たに求める免震重要棟のような「緊急時対策所」、放射性物質をこし取るフィルター付きベント装置、原子炉の冷却を遠隔操作できる第2の中央制御室など「特定安全施設」も必要不可欠だ。福島の事故では、免震重要棟が事故対策の拠点となった。これがなければ、事故はさらに拡大したに違いない。

一方で、気になるのが重要な施設の設置に対する「猶予期間」だ。

規制委は地震・津波対策には猶予期間を置かない方針だが、緊急時対策所や特定安全施設、一部のフィルター付きベントなどについては、一定の猶予期間を設ける可能性がある。

その際には、こうした重要施設が設置されないままに事故が起きた場合に、どう対策が取れるかが示されなくてはならない。納得のいく事故対策ができないのであれば、猶予を許すべきではない。

電力事業者にも再認識を求めたいことがある。国の安全基準は最低限守るべき基本線であり、原発の安全を守る一義的な責任は事業者にあるという点だ。安全基準が厳しいと訴えるより先に、安全確保の決意を新たにしてほしい。

読売新聞 2013年02月01日

原発の新基準 安全と再稼働の両立を目指せ

原子力発電所の安全基準は稼働の是非を判断するためのものだ。それを忘れてはならない。

原子力規制委員会の専門家会合が、東京電力福島第一原発事故を踏まえた新安全基準の骨子案をまとめた。

事故再発を防ぐため、これまで電力会社の自主的な取り組みにゆだねられてきた過酷事故(シビアアクシデント)対策を、具体的な必要事項を挙げて義務付けた。

国民の意見を求め、7月までに規制委規則として定める。これに基づき、政府が長期間停止させている各原発について、再稼働を認めるか否かを審査する。

電力の安定供給には、原発の再稼働が不可欠である。新基準を原発を止めておく道具とせず、安全性向上に活用すべきだ。

骨子案では、福島第一原発のような過酷事故に対処するため、原子炉の冷却作業を遠隔操作できる第2制御室の設置を求めた。通常の中央制御室が停電などで使えなくなった場合に備えたものだ。

火災対策としては、施設の耐火性強化を義務づけ、地震対策としては、敷地内の活断層を従来より綿密に調べるよう求めた。津波についても、原発ごとに過去の最大津波を調査し、それに応じて防潮堤建設などの措置を取らせる。

規制委には、これらの対策を一律にではなく、項目や原発ごとに柔軟に適用するよう求めたい。

東日本大震災の後、政府の指示に基づき、各原発で電源や注水機能が補強された。過酷事故を防ぐ手だては何層も増えている。

第2制御室のように大規模な工事を要するものは、中長期的に整備するなど、猶予期間を設けることを検討してもらいたい。

活断層も、100%ないと確認することだけを目標にするのでは意味がない。活断層の可能性があれば、施設の耐震強度を引き上げて、放射能の漏洩(ろうえい)リスクを抑える方策を検討することが重要で現実的な対応と言えよう。

新基準で求められる対策には巨費がかかる。廃炉を選択する電力会社も出てくるかもしれない。

規制委の田中俊一委員長は「そういうことは一切、考慮しない」と突き放したが、専門家会合のメンバーからは「要求が過大だ」との異論も出ている。

今回の骨子案は、少数の専門家と規制委事務局でまとめた。最終的な法制化に当たっては、幅広く専門家の声を聞く必要がある。

規制は合理的かつ効率的であるべきだ。再稼働の審査にいたずらに時間をかけてはならない。

産経新聞 2013年02月01日

原発安全基準 円滑な再稼働につなげよ

東京電力福島第1原子力発電所の炉心溶融事故と水素爆発事故を教訓として、各電力会社が再発防止のために講じるべき改善策を列挙した原発の新安全基準の骨子案が、原子力規制委員会によって公表された。

津波や地震といった自然災害とともに、火災や航空機事故、テロなど人為災害に対する原発の抜本強化策が盛り込まれている。

地震列島である日本の地理的条件や、テロリズムの国際的拡散といった風潮にも対応し、安全性の積み上げに貢献する基準となることを期待したい。

さまざまな想定外に起因する過酷事故でも安全性を失うことがないようにするため、新基準が求める対策は多岐にわたる。

原発の中央制御室が使えなくなった場合のバックアップ用として、原子炉建屋から離れた場所に第2制御室を建造することもその一例だ。各原発で起こり得る最大級の津波を想定し、重要設備を浸水から守るための防潮堤の設置も要求している。

火災対策も強化され、電気系統のケーブル類も燃えにくい素材に交換することが必要だ。重大事故時に格納容器内の圧力を下げるために排気しても放射性物質を外に出さないフィルター付きベント装置の設置も義務づけられる。

このように個々の装置や事象に対する安全水準は、大幅に高められる。だが、新たに加えた対策が予期せぬ支障を招くことがあっては本末転倒だ。硬直的な判断は回避したい。

骨子案は、これから国民の意見を反映するためのパブリックコメントにかけられる。

その際、重要なことがある。あらゆる工学システムには、故障のリスクがつきまとう。極限まで下げてもゼロにはできないことを、規制委も国民の側も、しっかり再確認しておくべきである。

「ゼロリスク幻想」の虜(とりこ)になると机上の空論に傾きやすい。規制委が活断層判別の年代を一律40万年前までに拡大しようとしたのが典型だ。幸い現行の12万~13万年前も基準として維持されたが、甘美な理想論は迷路に通じる。

なおかつ、再稼働を待つ原発の適性確認に当たっても、円滑に運用できる安全基準に仕上げる合理的な精神が必要だ。日本のエネルギー政策の再構築の柱に、安全で強固な原発を位置付けたい。

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