女子柔道暴力 「戒告処分」でいいのか

朝日新聞 2013年01月31日

女子柔道暴力 JOCが乗り出せ

柔道女子のトップ選手が、監督やコーチから暴力を含むパワーハラスメントを受けたと日本オリンピック委員会(JOC)に告発していた。

ロンドン五輪のメダリストを含む15人による異例の訴えだ。

園田隆二監督は事実だと認めているのに、全日本柔道連盟は戒告処分にとどめ、留任させる意向だ。戒告とは、要するに文書と口頭での注意だろう。

誤った判断だ。

選手は、指導陣が留任したことへの不満を訴えている。信頼を失った監督が続けても、まともなチームに戻れない。

日本のお家芸だった柔道は、五輪でつねに金メダルを期待されてきた。監督にかかる期待は大きい。だからといって、熱血指導の名を借りた暴力やパワハラは許されない。

この世界の上下関係は、ただでさえ厳しい。五輪での活躍を夢見る選手たちは、代表を選ぶ権限が監督にあるから、嫌な思いをしても、泣き寝入りしがちな弱い立場にある。

園田監督が率いたロンドン五輪で、日本女子のメダルは3個だった。北京の5個、アテネの6個を下回った。

かつてスポーツ漫画で描かれた根性主義や精神論などで勝てるほど、スポーツの世界は甘くない。選手の意識も時代とともに変わっている。

大阪市立桜宮高のバスケットボール部で顧問から暴力を受けた主将が自殺した事件をきっかけに、スポーツ界と暴力の関係が噴出している。そうした体質は一掃すべきだ。

JOCの対応も鈍かった。選手たちは全柔連に窮状を訴えても状況が改善しなかったから、JOCに望みを託した。

JOCは選手に話を詳しく聴き、その内容を全柔連にただすべきだった。

しかし、積極的でなかった。強化合宿、海外遠征をひかえ、選手たちは事態が変わらないことに業を煮やし、JOCに自ら出向いて訴えたという。

それなのにJOCは今も、全柔連が主体になって問題を解決するよう求めている。

不祥事がおきた場合は、利害のない第三者委員会に調査をゆだねるのが筋だ。最近は企業や学校でもそうしている。

スポーツ基本法は「スポーツを行う者の権利利益の保護」をうたう。アスリートの多くは五輪を最高の目標に掲げる。東京がめざす2020年五輪招致も9月に開催都市が決まる。

世界の信頼を失わないためにも、JOCは解決へのリーダーシップを示す責任がある。

毎日新聞 2013年01月31日

女子柔道暴力 「戒告処分」でいいのか

女子柔道のロンドン五輪代表選手らが全日本女子の園田隆二監督らから暴力やパワーハラスメントにあたる行為を受けていた。暴力を伴うスポーツ指導が学校の運動部活動だけでなく、オリンピックのメダル争いをするトップスポーツの場においても行われていたことになる。歴史と伝統ある競技団体として、全日本柔道連盟(全柔連)はおざなりの処分で済ますのではなく、原因究明と再発防止に向け、柔道ファンを含めた多くの人が納得するような実効的な対策を望みたい。

「女子日本代表チームにおける暴力及びパワハラについて」と題する告発文が昨年12月、15人の連名で日本オリンピック委員会(JOC)に提出され、全柔連が園田監督に聞き取り調査をしたところ、認めた。練習での平手、竹刀での殴打や暴言、負傷している選手への試合出場の強要などを挙げ、全柔連に指導体制の刷新を求める内容だという。

実はロンドン五輪終了後の昨年9月下旬にも「園田監督が暴力行為をしている」との通報が全柔連に入っていた。聞き取り調査の結果、全柔連は「ほぼ事実」と断定し、園田監督に始末書を提出させ、厳重注意処分で済ませていた。

その後、16年リオデジャネイロ五輪に向けて、園田監督の続投が決まったことで、選手たちは抜本的な対策をとらない全柔連への不信を募らせた可能性が高い。そして、統括団体であるJOCに対し、スポーツ界では極めて異例といえる集団告発に踏み切ったのだろう。

監督と選手という絶対的な上下関係の中で選手は監督の指導方針に従うことが要求される。少しでも異を唱えれば、海外派遣や強化合宿などの選手選考で不利益を被るかもしれないと選手は思いがちだ。そのため理不尽と思えるような指導に対しても我慢せざるを得ない。学校の運動部もほぼ同じ構図だ。

選手たちの勇気ある告発に対して全柔連は倫理推進部会を開き、今月19日付で園田監督と元強化コーチに文書による戒告処分を言い渡した。解任せず続投させる理由として本人が反省していることなどを挙げている。告発した選手たちはどう受け止めたか。

現職の警察官でもある園田監督の選手への暴力行為は、全柔連が把握しているだけでも10年8月~12年2月の計5件で、半ば常態化していたことをうかがわせる。選手との信頼関係を再構築するため全柔連としてすべきことは、まず指導体制の刷新を検討することではないか。暴力排除の覚悟を疑われるような処分で済ませていては、いくらメダルを獲得しても国民に夢と勇気と感動を与えることなどできないだろう。

読売新聞 2013年02月01日

園田監督辞任 選手を追い詰めた責任は重い

日本の女子柔道を担う選手たちに連名で暴力行為を告発された監督が辞任の意向を表明した。

選手たちを精神的にも追い詰めた監督に指導者を続ける資格はない。

告発されていたのは、警視庁所属で全日本女子監督の園田隆二氏だ。記者会見で「私の行動、言動で選手に迷惑をかけたことを反省している」と謝罪した。柔道界の信頼を失墜させた責任は重い。

ロンドン五輪の代表を含む15人の選手が昨年12月、「暴力とパワーハラスメント(職権による人権侵害)を受けた」とする告発文書を日本オリンピック委員会(JOC)に提出したことで「事件」が表面化した。

選手たちは五輪の強化合宿などの際、園田監督と男性コーチから素手や竹刀などで暴行を受けた。不服を訴えると、「代表から外すぞ」と脅されたという。

JOCから告発文書を受けた全日本柔道連盟(全柔連)は、監督からの聞き取り調査の結果、告発内容はほぼ事実だと判断した。

園田監督を巡っては昨年9月、強化選手1人に暴力を振るったとする情報が全柔連に入った。監督は事実を認め、選手に謝罪したことから、全柔連は、問題は決着済みと認識していたという。

全柔連は当初、園田監督をリオデジャネイロ五輪まで続投させる方針だったが、告発にまで至った選手との間に、信頼関係を築けるはずもなかった。

15人の告発まで事態を把握できなかった全柔連の危機管理能力の欠如は深刻だ。15人が全柔連でなくJOCに告発したのは、全柔連への不信感からと言えよう。

柔道は、日本のお家芸とされ、五輪では「勝って当たり前」という風潮が強い。それだけに、指導者も、他の競技以上に重圧を感じるに違いない。ふがいない試合をした時などには、厳しく指導することもあるだろう。

しかし、選手が暴力やパワハラと感じる行為は、どのような場合であっても許されない。

大阪市立桜宮高校の体罰問題を契機に、スポーツの指導現場での暴力に、これまで以上に厳しい目が注がれている。

指導者から殴られたことを「愛のムチ」と感じた選手が、教える立場になると、同じように暴力を振るうという「暴力の連鎖」はないのだろうか。

下村文部科学相は、柔道以外の競技についても、JOCに実態調査を指示した。スポーツ界全体で総点検が必要だ。

産経新聞 2013年01月31日

女子柔道の体罰 「愛のムチ」とはいえない

全日本柔道連盟は、園田隆二女子代表監督らによる選手への暴力行為を認め、謝罪した。戒告処分の園田監督は、代表監督に留任する。選手との信頼関係が崩壊したまま、次の五輪を本当に目指せるのか。処分は甘いといわざるを得ない。

昨年12月に日本オリンピック委員会(JOC)に届いた告発文は、ロンドン五輪代表を含む選手15人の連名によるもので、監督らによる「平手打ちや竹刀でたたく、足で蹴る」などの暴力行為を訴えていた。

国の名誉を背負って五輪などで勝利を目指す代表選手の強化と、学校教育における体罰問題を同列に論じるわけにはいかない。それでも園田監督らの行為は、とても「愛のムチ」とはいえない。

現実にスポーツの世界で、指導者による熱血指導で立ち直った、好成績に結びついたとの成功談を聞くことはある。

「愛のムチ」の存在まで全否定することはない。ただしそれは、師弟間に信頼関係があり、指導者の側にあふれる愛情があり、結果として事態が著しく好転した場合に限られる。

ロンドン五輪で日本女子柔道の獲得したメダルは金銀銅各1個にとどまり、前回の北京大会を大きく下回った。大会後にトップ選手が連名で監督を訴えるようなチームでは、勝利を目指す集団とは、ほど遠かったのだろう。

ロンドンで金メダルゼロの大惨敗に終わった男子柔道では、大会後に代表監督が交代した。

若い井上康生新監督は就任会見で、「先輩方の技術、練習方法を受け継ぐことも大切だが、時代は流れている。医科学的な視点を取り入れ、今の時代にあった戦略、戦術も考える。練習内容は大幅に変わる」と話した。

同じ姿勢は、女子柔道にも、他競技にも求められる。

全柔連は昨年9月に事態の一部を把握し、11月には園田監督が始末書を提出していた。JOCにも12月には告発文が届いていた。

だが、両団体とも、大阪市立桜宮高校の体罰が社会問題化するなか、報道があるまで問題を公表してこなかった。この隠蔽(いんぺい)体質も深く反省すべきだ。

講道館柔道の創始者で、日本人初の国際オリンピック委員会(IOC)委員の嘉納治五郎氏は、優れた教育者でもあった。先達の名を辱めてはならない。

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