新年度予算案 「2.7%成長」達成が責務だ

読売新聞 2013年01月30日

13年度予算案 デフレ脱却へ問われる積極策

中長期の財政健全化を怠るな

積極財政で景気テコ入れを狙った予算である。安倍政権が最重視する経済再生とデフレ脱却への実行力が問われる。

政府が2013年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は92・6兆円で、7年ぶりの減額予算となった。

歳入では、税収が4年ぶりに新規国債発行額を上回った。歳出も各省庁の政策的経費を70・4兆円に抑えたのがポイントである。

麻生副総理・財務相は記者会見で「財政政策の枠組みを頭に置いて編成した。引き締まった予算になった」と述べた。

消費増税へ景気回復を

ただし、4・4兆円に大幅増額した別枠の復興予算と合わせると、過去最大規模である。

安倍政権は、12年度補正予算案と13年度予算案を「15か月予算」と位置付け、切れ目のない財政出動を目指している。

来年4月の消費税率引き上げを今秋に最終判断する上で、確実に景気回復を成し遂げたい考えだ。超大型予算の編成で、環境整備を図ることはやむを得ない。

だが、来年度の国債依存度は46・3%となり、国の歳入のほぼ半分が借金だ。国と地方の長期債務残高も来年度末に977兆円に達する。国内総生産(GDP)の2倍に相当し、財政危機のギリシャをしのぐ債務大国だ。

先進国で最悪の財政状況を深刻に受け止めねばならない。

問題なのは、民主党政権が編成した12年度当初予算より規模を抑え込むため、様々な手法でやり繰りしたことだ。

歳出規模の圧縮は、1兆円近い経済危機対応の予備費の全廃や、各省庁が今年度補正予算案に支出を前倒しした影響が大きい。

政府は来年度経済見通しについて、民間予想よりかなり高い実質2・5%成長とし、税収を多めに見込んだが、安定成長の実現は不透明である。

基礎年金の国庫負担分を賄う国債を別扱いにしたのも、国債発行額を抑える弥縫(びほう)策ではないか。

歳出面の切り込みも不十分だ。公共事業費は前年度比で約7000億円多い5・3兆円を計上した。老朽化した道路や橋などの改修は必要としても、「国土強靱(きょうじん)化」の名の下に、非効率な事業を増やすことがあってはならない。

公共事業は精査が必要

景気への一時的なカンフル剤である公共事業に頼るだけでなく、政府は企業の競争力を高める成長戦略を強化し、経済を成長軌道に乗せることが重要である。

民主党政権が削減した土地改良事業費を積み増し、農家の戸別所得補償制度も名称を変え、前年度並みの予算を計上した。これではバラマキに他ならない。一層の市場開放に備えた農業の体質強化につながるのかは疑問だ。

その他の支出項目でも、財政の硬直化が一段と鮮明になった。

自然増などで社会保障費は約29兆円に膨らみ、生活保護費を小幅削減する程度にとどまった。年金や医療費の給付抑制など、さらなる圧縮が必要である。

安全保障分野では、首相の意向を反映した予算が目立った。

防衛費を11年ぶりに増額した。沖縄・尖閣諸島をはじめ、日本の領土と領海を守る意志を明確にしたことを評価したい。

南西防衛を重視し、警戒監視活動や離島防衛の対処能力を強化するもので、妥当な内容だ。

評価できる防衛費増

政府は年内に新たな防衛大綱を策定する。来年度予算限りとせず、中長期的に自衛隊の体制を改革・拡充することが必要だ。

海上保安庁予算も6年ぶりに増えた。このうち、巡視船艇と航空機の整備費などは前年度比4割増となり、人員も増やす。

尖閣諸島を巡り、中国の挑発行為が続いている。海保の巡視船艇はこれまで「スクラップ・アンド・ビルド」が原則だったが、増加に(かじ)を切ったことは適切だ。

今後の重要課題は、中長期的な財政再建の道筋を早急に付けることにある。財政規律が緩んだままでは、日本国債に対する国際的な信認を失いかねない。

地方公務員の給与引き下げを念頭に、地方自治体に配分する地方交付税を6年ぶりに削減したのは一歩前進と言える。

安倍首相は、民主党政権が掲げた「20年度に基礎的な財政収支を黒字化する」との政府目標を踏襲したが、このハードルは高い。

消費増税を柱とする税制改革で財源確保を図るとともに、歳出合理化が不可欠である。成長と財政規律の両立という重い課題を克服しなければならない。

産経新聞 2013年01月30日

新年度予算案 「2.7%成長」達成が責務だ

■財政再建の道筋も明確にせよ

安倍晋三政権の経済政策の具現化である平成25年度予算案が閣議決定された。一般会計総額は92兆6千億円だ。日本経済の喫緊かつ最大の課題であるデフレ克服に向け、先に編成した総額13兆円を超える24年度補正予算に続く積極的な「一手」である。

強調したいのは、25年度の政府経済見通しである実質2・5%成長、物価変動を加味した名目2・7%成長の重みだ。16年ぶりに名目が実質を上回るとしたこの政府見通しは、物価上昇を見込んだものであり、政府のデフレ脱却への決意表明でもあるのだ。

≪「三本の矢」で総力戦を≫

安倍政権は当初予算を補正予算と合わせて「15カ月予算」と位置づけた。補正予算で踏み出したデフレ脱却に向けた歩みを着実にすることで、政府経済見通しを是が非でも達成せねばならない。

当初予算案には東日本大震災の復興加速策とともに、研究開発、医療やインフラ輸出といった分野で、税制と一体となって企業の活力を引き出す経済再生策が盛り込まれている。こうした施策が期待通りの政策効果をあげることが重要なのはいうまでもない。

補正予算編成にあたり麻生太郎財務相は民主党政権が定めた「国債発行44兆円以下」の枠にこだわらないと宣言、実際に24年度の国債発行額は52兆円に膨らんだ。

25年度当初予算案の中身で市場が日本の財政規律が緩んだと判断すれば、債務危機に陥ったギリシャなどと同様に国債価格が下落する恐れがあった。

これに対して安倍政権は「平成32(2020)年度で基礎的財政収支の黒字化」の目標堅持を明言した。当初予算編成では、国債発行額を前年度よりも約1兆4千億円減らして税収よりも少なくした。収入以上の借金をしない予算編成は4年ぶりだ。

このことは、野放図な歳出拡大路線を懸念した市場へのメッセージになったといえよう。

ただ、それも政府経済見通しの達成に依存していることを忘れてはならない。25年度の税収見通しと国債発行額の差はわずかだ。成長率が見通しを下回ると税収も下ぶれし、収入と借金が逆転する可能性は大きい。

しかも、名目2・7%成長は民間シンクタンクの予測と比べると高めの数値になっている。これについて政府は緊急経済対策の効果を加味したと説明しているが、綱渡りであるのは変わりない。

このハードルを越えるには安倍首相がいう脱デフレへの「三本の矢」の効果発揮が不可欠になる。補正予算案の早期成立と執行による財政出動、日銀の物価上昇率2%の目標実現に向けた金融緩和、成長戦略の策定と実行など、文字通り政官民一体となった総力戦が求められよう。

≪防衛費の増額は当然だ≫

同時に、国の借金が国内総生産の約2倍という危機的状況を考えると、財政健全化計画を急ぎ策定して、明確な歳出抑制の基準を国民に示さねばならない。

歳出にどう切り込むかも大きな課題だ。今回、社会保障関係費では生活保護給付額が3年間で670億円削減される。抵抗の大きかった地方公務員給与削減などで地方交付税交付金を約2千億円減額したのは評価できる。

歳出抑制の観点からみると、これで十分ではない。特に高齢化が進行し、急膨張する社会保障関係費の伸びの抑制は急務だ。先送りされた高齢者医療費の自己負担を1割から2割にする措置の確実な実施はもちろん、社会保障制度改革国民会議の議論などを通じて、制度見直しにどこまで踏み込むかが問われる。

こうした厳しい財政事情の中で防衛費が400億円増となった。11年ぶりの増額であり、南西方面の警戒監視、島嶼(とうしょ)防衛の強化を明確にした。十分とはいえないにせよ、沖縄県・尖閣諸島への領空・領海侵犯を繰り返す中国に対する安倍政権の基本姿勢を示すことはできたのではないか。

今回の予算案は政権復帰後、短期間で編成したという事情がある。今後も安倍政権は、経済再生と財政再建の両立という困難な道を歩くことになる。効果が期待できない公共事業の拡大など懸念材料はなお多いだけに、経済財政諮問会議が6月をめどにまとめる財政運営の指針「骨太の方針」で、その明確な道筋を示さなければならない。

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