高校野球監督 元プロの「恩返し」に期待する

毎日新聞 2013年01月30日

高校野球指導 「教育の一環」忘れずに

プロ野球経験者が高校野球の指導者になるために義務付けられている「教員免許取得と2年間の実務経験」が撤廃される。今後は教員資格がなくてもプロ、アマ双方が実施する研修を受講すれば、元プロ選手が監督、コーチとして甲子園を目指すことが可能になる。プロへの不信と警戒感から「雪解け」に慎重だったアマ側にすれば今回の決断は画期的だ。信頼関係をより深め、球界の発展に寄与する契機としてほしい。

歴史を振り返ってみよう。戦前の「野球統制令」や戦後のプロ球団による引き抜きなどを背景に「元プロのアマ復帰」を原則認めない方針をアマ側が61年に決め、交流が途絶えた。数年前にはスカウト活動をめぐって複数のプロ球団が長年、アマ選手に金品を渡していた実態も明るみに出て社会問題になった。

その一方で、溝は徐々に埋まっていた。高校の指導者として復帰する道が84年、「教員の実務経験10年以上」という条件付きで認められ、その後「5年」「2年」と緩和されてきた。05年にはプロ選手の母校での練習が解禁された。

日本高校野球連盟が下した英断の背景には元プロの技術指導を望む高校生らの声があった。03年に始まったシンポジウム「夢の向こうに」は高校生があこがれのプロの現役選手から直接指導を受ける場として毎年各地で開催され、定着している。

「雪解け」をプロ側も歓迎している。引退後の生活に不安を抱えているプロ選手は多い。日本野球機構が先日発表したセカンドキャリアに関する意識調査によると、18歳から33歳の約7割が「不安」と回答した。引退後に一番やってみたい仕事として「高校野球指導者」は今回2位だが、前回までは1位だった。

自分を育ててくれた高校野球に「恩返ししたい」というプロ選手たちの気持ちは貴重であり、尊い。だが、「高校野球は教育の一環」として位置付けられている以上、引退後の就職先として選択するに際しては相応の覚悟と知識が必要だろう。「安易な受け入れは技術偏重を招くのではないか」と不安視する高校野球関係者も少なくないことに加え、そもそもプロ選手だからといって指導者としても適格とは決して言えない。

早ければプロ野球の13年シーズン終了後にも教員資格を持たない元プロ監督が誕生する可能性がある。大きな課題は研修の内容をどうするかだ。アマ側は断絶の歴史的経緯などを盛り込む意向だが、プロ側はどんな内容にするつもりか。今後は労組日本プロ野球選手会を交え、回数、講師の人選などを含めて詰める必要がある。間に合わなければ実施を延期することも検討すべきだろう。

読売新聞 2013年01月27日

高校野球監督 元プロの「恩返し」に期待する

プロ野球OBが高校野球の監督になるための条件が、大幅に緩和されることになった。

プロとアマチュア野球の指導者交流を拡大し、球界全体の発展につなげたい。

新設する研修を受講すれば、プロOBに学生野球の指導者資格を与える――。これが、高校、大学野球を統括する日本学生野球協会とプロ側による合同協議会で基本合意した内容だ。早ければ年内にも新制度が導入される。

一足先に大学野球では、特別規定によりプロ出身監督が増えている。一方、高校野球の監督にプロ出身者は極めて少ない。部活動は教育の一環との意識が強く、「教諭として2年以上勤務」という条件を課しているためだ。

だが、プロの高度な技術を吸収したいと願う高校球児は多い。プロ関係者にも「高校野球に恩返ししたい」という思いが強い。

日本学生野球協会に属する日本高校野球連盟が今回、交流拡大を求めるプロ側に歩み寄ったことを歓迎したい。プロの世界で活躍できずに引退した選手にとっても、高校野球の監督という新たな道が大きく開けるだろう。

日本の野球界では、プロとアマの断絶が長く続いた。1946年制定の日本学生野球憲章は、プロとの試合や練習を禁じていた。学生野球の商業化を防ぐことなどが目的だったとされる。

高校球児を対象としたプロ選手のシンポジウム開催などで、雪解けの機運が高まったのは10年ほど前からだ。2010年に学生野球憲章は全面改正され、プロ・アマ交流が原則として解禁された。

今回、残された課題だった高校野球の監督就任問題に道筋がついたことで、プロとアマの関係は新たな時代に入ったと言える。

研修で元プロ選手は、断絶の歴史や関係修復の経緯を学ぶ。過去の不幸な関係に戻らないためには必要なことだ。教育的見地から、健全な部活動の在り方や、選手の安全対策などの講義を充実させる必要もある。

高校野球には、現在も多数の優れた監督がいる。元プロの監督としのぎを削ることで、指導者全体のレベル向上を期待したい。

ヤクルト、ロッテの元投手で、埼玉・川越東高の監督だった阿井英二郎氏が今季、日本ハムのヘッドコーチに就任した。高校野球で培った指導力をプロでどのように発揮するのか、注目される。

アマからプロへの人材交流も広がれば、野球界の一体感がより強まるに違いない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1295/