安倍政権の予算 財政再建の道は険しい

朝日新聞 2013年01月30日

新年度予算 「正常」にはほど遠い

公共事業費は12年度当初予算並みを確保し、先の補正予算と一体で「国土強靱(きょうじん)化」に走る。防衛費を11年ぶりに増額する一方、生活保護費は抑え込む。

安倍政権による13年度予算案が決まった。

一般会計の総額は約92兆6千億円。12年度当初予算から実質的に約3千億円減らした。

財源不足を補う新規国債の発行額は43兆円弱で、民主党政権の「44兆円枠」を下回る。税収(43兆円強)が国債発行額を上回るのも、民主党政権をはさんで4年ぶりだ。

安倍首相は「やっと正常な状況を回復できた。財政規律にも配慮した」と語った。

いやいや、とんでもない。正常にはほど遠い。

国債発行額は、小泉政権が掲げていた「30兆円枠」の1・4倍だ。過去の借金を乗り換える「借り換え債」を含む国債の総発行額は170兆円を超え、過去最高の水準が続く。

税収見込みの根拠となる名目経済成長率は2・7%、総合的な物価指数は16年ぶりにプラスと予想した。アベノミクスの効果が出るという見立てだが、民間の調査機関は「高すぎる」と懐疑的だ。

「15カ月予算」のからくりもある。民主党政権が大幅に削った農業関連の公共事業で、年間予算の8割を補正予算に前倒し計上するなどして、13年度予算のスリム化を演出した。

補正と合わせると、施設費を含む公共事業費の総額が10兆円を超すことに注意すべきだ。

多額の国債発行を続けつつ、日銀に金融緩和の強化を求め、その日銀が国債の購入に努める――。「中央銀行が政府の資金繰りを助けている」との疑念を招きかねない構図は、確実に強まっている。

国会の役割は大きい。首相のいう「機動的な財政政策」のもとでバラマキがないか、徹底的にチェックしてほしい。まずは補正予算案だ。公共事業費が焦点になろう。

政府は、財政再建の工程表づくりを急ぐ必要がある。

国債関係の収入と支出を除く「基礎的財政収支」について、安倍政権も「15年度に赤字を半減、20年度までに黒字化」という歴代政権の目標を受け継ぐ。

消費増税の決定で赤字半減への道筋は見えつつあるが、黒字化のメドは立っていない。

「目標は守る」と繰り返していれば許される状況ではない。経済成長による税収増と歳出削減、さらなる増税をどう組み合わせるのか、具体策が問われている。

毎日新聞 2013年01月30日

安倍政権の予算 財政再建の道は険しい

来年度予算の政府案が決まった。4年ぶりに新たな借金(新規国債発行額)を税収以下に抑えたという。総額の実質増も何とか回避できた。景気対策と財政規律を両立できる政権だと訴えたい気持ちがにじむ。

だが、安倍政権の緊急経済対策などにより景気が大きく好転するという、期待に満ちた予測に支えられている点を忘れてはなるまい。さまざまな企業向け減税にもかかわらず、名目2.7%、実質2.5%という高い成長率想定のお陰で、税収は12年度より8000億円近く増える計算になった。

一方、新たな借金は43兆円弱と、民主党政権時のルールだった「44兆円以内」が守られた形だ。しかしこれも、金利は上がらないという希望的見通しのお陰と言えそうだ。

財務省は昨年9月に概算要求した際、国債残高の増加と金利上昇への備えのため、国債費を過去最高の24.6兆円とはじいていた。国債費とは、国が過去に借りたお金の返済や利払い費のことである。ところが予算案では22.2兆円に圧縮された。

景気の好転を予測するなら、むしろそれに伴う金利上昇を織り込むべきだろう。だが概算要求時(2.2%)よりも12年度の想定(2.0%)よりも低い1.8%に設定した。最近の市場金利を反映したとはいえ、ある程度の状況悪化に耐えられる予算にしておくのが、健全な財政の発想ではないか。経済危機対応の予備費を省いて約1兆円を浮かせた結果でもあり、税収が借金を上回る「正常な状態の回復」(安倍晋三首相)と胸を張れる話では到底ない。5.5兆円もの建設国債発行を伴う大型の12年度補正予算と合わせて考えれば、財政健全化を重視した予算編成だとは言えない。

予算の中身はどうか。生活保護の支給基準が引き下げられる一方、公共事業費は前年度比16%の伸びとなった。1年分に相当する公共事業費を補正予算に盛り込んだばかりというのに、である。質より量、人よりコンクリートとならないか心配だ。

防衛費も11年ぶりに増額された。老朽化した道路や橋などの整備も、防衛体制の強化も、厳しい財政状況を考えれば、国民の理解を得ながら進めていく必要があるだろう。

久々の円安と株価上昇で、変化の兆しも見える日本経済である。しかし勝負は成長を持続させられるかどうかだ。日銀が大規模な緩和を続ける中、放漫財政への不安が広がれば、悪い金利上昇(国債価格の急落)が起こり、成長のシナリオは崩れてしまう。野党には、国会論戦を通じ、安倍政権の財政再建方針を厳しく問いただしてもらいたい。

産経新聞 2013年01月27日

安倍政権と拉致 超党派で国際連携強めよ

政府は、拉致問題対策本部を全閣僚が参加する態勢に組織強化することを閣議決定した。拉致問題の解決に、政府が一丸となって取り組もうとする安倍晋三政権の姿勢を評価したい。

対策本部の初会合では、第1次安倍内閣が掲げた「全被害者の帰国」「安否不明者の真相究明」「実行犯の身柄引き渡し」の3つの基本方針を再確認しつつ、野党議員も参加する超党派の「政府・与野党拉致問題対策機関連絡協議会」の新設も決めた。

野党では、日本維新の会の平沼赳夫拉致議連会長や自民党内閣で拉致問題担当相を務めた中山恭子氏らがいる。民主党「次の内閣」拉致問題担当の渡辺周氏らにも、参加を呼びかける予定だ。

協議会は対策本部の外に置かれる。古屋圭司拉致問題担当相が議長を務め、情報交換や政策協議を行う方針とされる。

拉致は日本人の命を危険にさらし、自由を奪い、日本の主権を侵害した北朝鮮の国家犯罪だ。その解決は国の最重要課題であると同時に、全国民の願いでもある。

与野党が必要な情報を共有し、知恵を出し合うことは、早期解決への有意義な方法と思われる。

政府はさらに、国連に拉致問題など北朝鮮の人権侵害の実態を調査する委員会を設けるよう提案することも検討している。

現在、判明している拉致被害者の国籍は、日本や韓国をはじめ、フランス、イタリア、マレーシアなど12カ国に及ぶ。2004年、中国・雲南省で消息を絶った米国人留学生も北朝鮮工作員によって平壌に拉致された疑いが強まり、米国を加えた13カ国に増える可能性がある。

国連に調査委が設置されれば、国際社会が拉致を北朝鮮の国家犯罪として認定することになり、北への有効な圧力となろう。ただ、それには、2月下旬から始まる人権理事会での決議採択が必要とされる。加盟国説得などのため、早い対応が求められる。

安倍首相は対策本部の初会合で「私が最高責任者であるうちに問題を解決したい」と述べた。力強い決意表明と受け止めたい。

北朝鮮は昨年12月の長距離弾道ミサイル発射に続いて、「高い水準の核実験」を行うと恫喝(どうかつ)している。北に対して、国際社会が連携して圧力を強める必要性がますます強まっている。

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