卒業の季節を前に、公立校の教職員の退職が相次いでいる。
公務員の人件費削減で退職金が下がるよりも先に辞め、損をしないようにしようという「駆け込み退職」である。
いつ辞めるかは先生や職員の判断しだいだが、児童生徒が割を食うのは理不尽だ。自治体は子どもたちに悪影響を生じさせない対策をとる必要がある。
退職金を引き下げるのは、民間企業(従業員50人以上)の水準にあわせるためだ。
2010年度に退職した人の退職金と年金の上乗せ部分の合計額について、人事院が調べたところ、民間の支給額は不況で激減しており、国家公務員より平均で403万円少ない2548万円だった。
そこで、政府はこの1月以降に退職する職員について、段階的に退職金を引き下げ、民間水準にあわせるよう法律を改正。自治体にもこれに準ずるかたちで下げるよう要請した。3段階にわけるため、今回は百数十万円の減額になる。
公務員の給与や退職金は、民間水準を考えて決めるのがルールであり、引き下げは当然だ。
一方で、働き続けると給料を計算に入れても損をする仕組みにすれば、辞める人が出るのは予想できた。「生徒を置き去りにして辞めるなんて」と保護者が驚くのはわかるが、損しても働けと強いることはできない。制度設計の問題が大きい。
進路選びなどの大事な時期である。担当教師が代わるのは、子どもたちにとって望ましくない。教室に大きな影響が出ないようにすることを優先して考えたい。
下村博文文部科学相は「退職者を慰留、説得してほしい」と各教委に求めている。
佐賀県教委は、早期退職した人の大半を臨時任用の制度を使って残した。代わりの先生を雇っても、コストは同じ。短期間で人を探すのも難しい。同じ人を再任したほうが、教育活動に支障が出ないと判断した。
鹿児島県教委は引き下げ開始の時期を4月1日からにした。周知の期間のほか、人事管理や県民サービスへの影響を考えたという。駆け込み退職による混乱を避ける配慮である。
引き下げの時期をこれから議会で決める県も多い。教室が混乱しないよう、制度を工夫してほしい。
この騒ぎで教師不信を募らせる人もいるが、たとえば埼玉や佐賀では早期退職しなかった教職員の方がはるかに多い。
辞めた人にも、どんな事情があったかはわからない。
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