所信表明演説 危機突破へ成長戦略を語れ

朝日新聞 2013年01月29日

所信表明演説 危なっかしい安全運転

通常国会が開幕し、安倍首相が再登板して初めての所信表明演説にのぞんだ。

メッセージはシンプルだ。

日本の最大かつ喫緊の課題は経済の再生だ。断固たる決意をもって、「強い経済」を取り戻そうではないか――。

多くの国民が経済再生を望んでいるのは確かだ。首相が力点をおく思いはわかる。

一方で、アベノミクスには放漫財政の不安もつきまとう。首相は「中長期の財政健全化に向けてプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化をめざす」と語ったが、これだけでは物足りない。財政規律をどう守るのか、もっと具体的な考えが聞きたかった。

前回、7年前の首相就任時の演説では「美しい国、日本」を掲げ、憲法改正への意欲を語った。今回はそうしたくだりはない。地に足のついた演説をめざしたというなら理解できる。

拍子抜けしたのは、今の日本にとって重要な課題の多くがすっぽり抜け落ちていたことだ。

たとえば原発・エネルギー政策や環太平洋経済連携協定(TPP)、社会保障制度のあり方について、まったく言及しなかったのはどうしたことか。

ふれなかったテーマは、1カ月後にある施政方針演説に譲るつもりなのかもしれない。

だとしても、肩すかしの感は否めない。安倍政権がめざすところは何なのか。首相みずから国民に明らかにする最初の舞台だからである。

抜け落ちたテーマには、国民の意見や業界・団体の利害がぶつかるものが目立つ。

夏には参院選がある。非改選議席をあわせて自民、公明両党で参院の過半数を得てやっと安倍政権は安定軌道に乗る。それまでは経済再生を前面に、「安全運転」で行こう。それが首相の思いのように見える。

だが、それはいったいだれのための安全運転なのか。

脱原発依存への道筋をどう描くかは、国民生活はもちろん企業の投資や新規参入に密接な関係をもつ。グローバル経済のもと、成長戦略を論じるならTPPをはじめ経済連携の議論から逃げることはできない。

それらを棚上げにしておくことは、当面は政権にとっての安全運転になるのかもしれない。

半面、日本にとって、国民にとっては、危うい道につながりかねない。

ここは野党の出番である。

首相が語らなかった部分にこそ、重要な論点がある。あすからの国会質疑で、しっかりとただしてもらいたい。

読売新聞 2013年01月29日

所信表明演説 危機突破へ成長戦略を語れ

日本が直面する「危機」を突破していくには、強い意志と具体的な政策が重要である。

安倍首相が衆参両院本会議で、政権復帰後初めての所信表明演説を行った。

首相に再登板した決意の源は「深き憂国の念」だとし、経済と震災復興、外交・安全保障、教育の四つの「危機」に内閣を挙げて取り組む姿勢を明確にした。

最大かつ喫緊の課題と強調したのは経済再生だ。「強い経済」が国民の所得を増やし、社会保障制度の基盤強化にもつながるとする首相の認識は妥当である。

政府は、2%の物価目標を明記した日本銀行との共同声明をまとめた。10兆円規模の経済対策を盛り込んだ補正予算案を近く国会に提出する。首相の掲げる「3本の矢」のうち金融緩和と財政政策が動き出したことは評価できる。

残るのは成長戦略だ。全閣僚参加の日本経済再生本部や、有識者を交えた産業競争力会議で、民間投資を喚起する効果的な政策を打ち出し、金融・財政政策との相乗効果を高めねばならない。

首相は演説で危機突破のために「与野党の叡智(えいち)を結集させ、国力を最大限発揮させよう」と野党に協力を求めた。衆参ねじれ国会であることからも、丁寧な国会運営が欠かせない。

国会の焦点は、4月に任期が切れる白川方明日銀総裁の後任人事の国会同意取り付けと、予算案と予算関連法案の早期成立だ。

参院第1党の民主党に加え、金融・経済政策で共通点が多い日本維新の会やみんなの党とも協議することが重要だ。政策ごとの連携も視野に入れる必要があろう。

今回の演説は、首相がメリハリをつけようと項目を絞り込んだため、シンプルで分かりやすいメッセージになった。反面、多くの重要課題に言及がなかったことは物足りない。国会論戦を通じて見解を明らかにしてもらいたい。

例えば、最大の懸案の一つである中国政策だ。尖閣諸島を「断固として守り抜く」とする一方で、日中関係をどう立て直すのか。

エネルギー政策にも触れていない。電力不足への不安感が経済再生の足を引っ張らないよう、首相が原発再稼働の必要性を丁寧に説明すべきだったのではないか。

首相は演説で、日本がアジア太平洋地域で経済や安保の「先導役」となることを明言した。

それならば、アジアの成長を取り込むため、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決断すべきである。

産経新聞 2013年01月29日

所信表明演説 危機突破に総力挙げよ 「安全運転」では物足りない

安倍晋三首相が行った所信表明演説の最大の特徴は、「日本の未来を脅かしている数々の危機」を突破するために、世界一を目指して「国民とともに邁進(まいしん)する」と、強い決意を表明したことだ。

与野党の英知を結集させ、「強い日本を創る」とも語っている。国の総力を挙げて打開しようという姿勢こそが今、求められているものだ。

問題は、そうした決意を具体的成果に結びつける処方箋であり、それを実行する指導力である。そこが踏み込み不足であることは否めず、大きな課題といえる。

≪「世界一目指す」を歓迎≫

国民の関心が高い経済再生については、首相自身「最大かつ喫緊の課題」と位置づけ、演説でも最大の分量を割いた。

大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」でデフレ脱却に取り組むとの持論を展開し、「必ずや『強い経済』を取り戻す」と強調した。その決意と意気込みは十分に伝わってくる。

さらに首相は、経済の司令塔として日本経済再生本部を設けるなど、日銀との間で物価安定目標2%を「できるだけ早期」に達成するよう迫る共同声明を取り交わしたことを実績として訴えた。

確かに、政権を担って約1カ月でこうした枠組みを作り上げたのは評価できる。これらは「アベノミクス」と称され、市場も歓迎の方向だ。円高の修正が進み、株価は反騰している。

産経新聞社とFNNの合同世論調査によると内閣支持率は64・5%で、発足1カ月で9・5ポイント上昇した。日銀との共同声明を評価する回答は6割を占め、首相の明確な経済重視路線は内閣への支持率を押し上げている。

外交・安全保障では、尖閣諸島問題などを念頭に「国民の生命・財産と領土・領海・領空は、断固として守り抜いていく」と宣言した意義は大きい。中国が奪取の動きを強める尖閣諸島を日本が守り抜くために、必要なあらゆる措置を講じてもらいたい。

拉致問題について、首相が全ての拉致被害者の家族が自分の手で肉親を抱きしめるまで「私の使命は終わらない」との見解を表明したのも、良かった。

もちろん、首相が今後問われるのは「結果」であり、「その先」である。その意味で、経済成長のカギといえる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉や、原発・エネルギー政策などに言及しなかったことには不満が残る。

自民党内で大きく賛否が割れるテーマには極力触れたくないということだろう。だが、日本のTPP参加は日米両国にとっても、対中国戦略の重要な柱であることを忘れてはなるまい。

安定した電力供給も経済再生に欠かせない。安全性を確保した上で必要な原発再稼働を進める現実的な姿勢が不可欠であることを、今後の国会論戦を通じて明確に語ってほしい。

≪憲法改正への道筋示せ≫

一方、演説全体として保守らしさを示す「安倍カラー」が抑制された印象は否めない。その主な原因は、首相が最重要課題の一つに掲げてきた憲法改正に全く言及しなかったことだ。

連立を組む公明党が、現段階での改正論議に慎重なことが大きな理由だろう。だが、首相は憲法96条が定める「衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成」という改正要件の緩和を先行させる方針も示していたはずだ。2月にも改めて行う施政方針演説では、憲法改正をどのように政治日程に乗せていくかを語ってもらいたい。

集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更について触れなかったのも物足りない。首相がかつて設けた有識者懇談会では、公海上で攻撃された米軍艦船の防護など行使を容認する「4類型」が示され、首相は行使容認の対象の拡大など「再検討が必要」と、近く議論を再開するとしている。2月のオバマ米大統領との首脳会談で取り上げるなら直近の課題だ。

首相は参院選で自公で過半数を獲得し、政権を安定させる使命を担っている。経済再生で成果を急ぐ一方、自民党内や与党間で意見対立が残る政策の調整が難しい事情はある。

だが、課題を先送りしたままでは日本の立て直しは困難だ。国民は失望し、危機の克服もできないことを認識すべきである。

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